退会済のユーザー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
エヴァ・ウテナをも凌ぐ難解な作品-true tearsを流せたのは誰?
この作品、ひたすら遅いテンポで展開し続けます。ひたすら退屈に感じられます。でもどこか気になって最後まで見続けてしまいました。そして感じた違和感。この違和感というのは、「結局どういう話だったのか?」という疑問と「何か隠されているな」という期待から来ていました。いろいろ考えたのですが・・・
<主人公は乃絵>
ラストシーンは涙を空に飛ばしていく乃絵なので、やはり物語の主題は乃絵にあるでしょう。つまり、乃絵はラストでついに本物の涙を流すことが出来たのです。それはなぜでしょう?それはつまり、何かを失うことの悲しさを直視することができるようになったということでしょう。彼女が失ったのは、まず祖母。でも兄や慎一郎によりどころを求めることで、直視せずにいるつもりでいられました。兄・慎一郎さえも失い、ようやく悲しみからの逃げ場はどこにもないのだと自覚できたのだと思います。この時の涙は、祖母に対して我儘に泣きついていた幼いころの涙とはもう違います。祖母の言いたかったことは、「泣くな」ということではなく「ただ泣いているだけではだめだ。大切なものを失うという現実と’ちゃんと’と向き合いなさい。」ということです。それがようやく乃絵にはできたわけで、これは幼いころに流した時より力強い涙です。
<乃絵の兄>
最初は乃絵を愛しています。しかしそれは近親相姦であるため、そこからは自立しなければなりません。だから比呂美を愛するフリをして乃絵には慎一郎と恋人になってもらうことで突き放そうとしました。しかしその思惑はかなわず、家を出る決断をするわけです。これが兄の成長の仕方ですが、これは一種の逃げとも言えますね。ただ、この兄の愛が乃絵の逃げ場としても機能していたことは注目すべきところです。したがって矛盾しますが、兄は乃絵を本当に愛していたのか、分かりませんね。もしかしたら、乃絵のために愛しているふりをしていたかもしれません。そうだとしてもそれは乃絵のためにならないから、比呂美と恋人であるふりをしたということです。
<比呂美>
久しぶりに慎一郎と再会したものの、よそよそしい態度を取りつづけます。しかし彼女は幼いころの記憶が染みついています(「置いてかないで」というセリフ)。その「慎一郎が好きだった」という記憶の中に彼を置き続け、それに決着をつけることはできず、結局「慎一郎がやっぱり好きだ」という想いに回帰してしまいます。したがって、比呂美は「結局変われなかった」存在として描かれていると思います。でも、乃絵の兄と違って「逃げる」ことはしませんでした(ただし家を出ることで一定の距離は置いた)。
<慎一郎>
彼も彼で、「幼いころの比呂美」が考えの中心にあり(4話の「僕が知っている君じゃない」というセリフがそれを示しています)、結局そこに留まってしまいます。そしてそのように仕向けたのは比呂美であり、まさに彼女は「汚い女」と言えますね。彼も彼女同様、既存の世界から自立することが出来ずに箱の中に閉じこもってしまった(それも、比呂美に道連れという形にされて)ような印象を受けます。だから、最終話でカップルが成立したにもかかわらず、イマイチ二人が幸せになった感じがしません。というか、本当にカップルが成立したのかも怪しいシーンですね、あれ。
<愛子>
実は慎一郎が本命・・・って慎一郎を取り巻くハーレム的な展開は原作の恋愛ゲームとの共通点??
それにしても、慎一郎を「卒業」というのは「無理やり諦めた」感じが強くあります。三代吉との関係を「ともだち」からしか始められないというのでは、やはりまだ慎一郎への想いを引きずっているのでは??そう感じられます。比呂美と同様、「慎一郎は幼馴染」という呪縛にかかってますね。
<三代吉>
いちばん可愛そうな役回りだと思います。愛子との関係が「彼氏」から「ともだち」に「転落」するわけですからね。しかもその「彼氏」というのは「嘘」・・・。そして、おそらく「恋人」になれる見込みは当分ありません(少なくともアニメの中では恋人になったと確信できるシーンはありません)。だけど好きだからいつまでも仲よくし続けるわけですが・・・このアニメでもっとも成長できていないのはこの二人ですよ。
<まとめ>
登場人物の誰もが幸せになれなかったアニメでした。しかし乃絵だけは現実を直視しtrue tearsを流すことが出来ました。だから、もしその先に幸せが待っているとすれば、それはうわべの嘘の上塗りによってではなく、本物の幸せだと思います。