kochiro さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 2.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
その、永遠に会えない人は…
季節は“冬”
これは水の3大妖精のひとり、セイレーンと呼ばれるウンディーネが若くして急死した後のお話。
{netabare}
アテナ・グローリィの急な訃報から一週間が経過して、ネオベネチアにはもういつもの穏やかな日々が流れているのですが、アテナの指導を受けた唯一の後輩であるアリス・キャロルだけはずっと部屋に引き籠ったまま。びっしりと埋まっていた予約をすべて断って、後輩のアーニャちゃんを指導する役目も会社に返上し、もうゴンドラに乗ることすらできなくなっていました。
カツカツカツ。
「晃さん、ちょっと待ってください。」
ドンドン!
「アリス、いるんだろ。早く開けろ!」
ガチャガチャ、ドンドンドン!
「ちょっと、まだ早いって言ってるじゃないですか。もう少し待ってからでも。」
「ええい、離せ藍華。こんなドアなんてぶち壊してやる!」
ドカドカドカ!ババン!
「晃さん、無茶しないでくださいって、あ~あ。本当に鍵を壊しちゃった…。」
晃が扉を開けると、部屋の隅にはただ呆然と座っているアリスの姿がありました。
「おい、こんな暗い部屋に閉じこもって、おまえ何やってるんだよ。」
「…」
「…、覚えているか?オレンジプリンセスのゴンドラに3か月も前から予約して、お前のゴンドラに乗ることをすごく楽しみにしていたお客様がいただろ、今日な。代わりに私のゴンドラへ乗ってもらった。…、私のとっておきの場所をたくさん紹介したけれど、結局、帰り際にお前の長期休業中ってのが本当に心配だって言われてな、とても不安そうな顔をさせてしまったよ…。」
「…」
「アリス、私達の仕事はただの観光案内じゃない、お客様に喜びを感じてもらうことが仕事だ。わかっているだろ?」
「…」
「…そうか。お前はウンディーネ失格だ。」
「…」
「私からNo.1の座を奪うのはお前だと思っていたのだが…。見込み違いだったようだな。………残念だ。」
そう言って部屋を出る晃さん。扉の隙間から、ぴょこぴょことまぁ社長がアリスの部屋に入って扉が閉まります。
部屋の外にいた灯里と藍華は、アリスの部屋に入ろうとしますが。
「もうほっとけ、ほら行くぞ。午後のお客様、二人とも予約入っているだろ。」
「でも。晃さん酷すぎます。」
「そうだな。…だが、酷いのはあいつの方だ。ほら行くぞ。」
灯里と藍華は心配な顔をしつつも、この場は晃さんの言葉に従います。
扉の前には部屋に入ることができず、扉を見つめるアーニャちゃんだけが残されました。
部屋の中では、まぁ社長がアリスに優しく寄り添います。
「まー。 まぁー。」
「…、まぁ社長。」
「私。もっとアテナ先輩に恩返しがしたかった。なのに。まだ私なんにも返せてないのに。もう二度とアテナ先輩に会えないなんて……。う。ううう…。」
「…、まぁー。」
その頃、アリシアさんはゴンドラ協会でアリス・キャロルの今後の対応を話し合っていました。その場でアリシアは晃がアテナとアリスの二人が抜けてしまった観光案内の穴を埋めるため、代役として朝から夜中まで休みなくびっしりと働いていることを知ります。
このままでは晃の健康状態が心配です。そこで、多過ぎる仕事量をゴンドラ協会加盟の各社で協力して分散させることとなりました。
その会合は夜までかかり、アリシアは晃のこと考えながら帰宅している途中で偶然ゴンドラに乗っている晃を見かけました。
晃は疲労困憊でゴンドラを漕ぐ手も体も震えていました。うつむいている晃にアリシアは声をかけようとしましたが・・・震えていたのは疲労のせいなんかではありませんでした。
晃の頬には涙が見えました。
「……。 なんだ、アリシアじゃないか。」
「晃ちゃん…」
「変なとこ見られちゃったな。仕事に夢中になっている間は全然、大丈夫なんだ。でも、こうして気が抜けるとすぐ悲しみに負けちまう…。今日な、仕事を放棄しているアリスを怒鳴りに行ったんだが、どうやら私もっ… 私も偉そうなことを言えるほどまだまともじゃないみたいだ。何かしていないとダメみたいでな。…本当に情けない、情けないよな・・・・。」
「…晃ちゃん。」
二人とも、何も言葉が出てきませんでした。ただ、お互いの姿が涙に滲み、アテナのことを思い出していました。
次の日、プリマとして自由な時間が取れない灯里や藍華に代わって、まだシングルの後輩3人組がどうすればアリス先輩がまたゴンドラに乗れるようになるか、アリア社長、姫社長も協力して作戦会議を行います。
そして、アーニャちゃんの意見からまずは笑顔を取り戻すことが重要だということになり、作戦指揮はあずさが担当、アーニャはアリス先輩のお気に入りなどの情報収集を担当、アイは素敵なことが起きる予感にさせる素敵担当、兎に角、どんな素敵でもいいからアリス先輩に見せて笑顔になってもらおうとしました。作戦名は、「アリス先輩を笑顔にする大作戦」。そして、作戦が開始されました。
しかし、打ち合わせ通りにはうまくいかず、空回りばかり・・・。
「ふいにゅ~。ふいにゅ~。ぶい、ぷいにゅ。ぶいにゅ~~!!!」
アリア社長がまぁ社長に自ら“もちもちポンポン”を噛むように仕向けるという体を張ったとっておきも、かじられ損に終わりました。
もうダメかも、と弱音を吐くあずさに、どうしてもなんとかしたいアーニャ。仕事を終えた灯里先輩と藍華先輩も加わってアリス先輩に兎に角、ゴンドラに乗ってもらおうと皆でアリスの腕を引きますがついに振り払われてしまいました。
「もう皆さん、私のことなんかほっといてください!」
アリスもみんなの気持ちがわかっているのに、どうしようもできない自分が許せなくなっていました。
「アリスちゃん。でも、そんな悲しそうな顔をされたら放ってはおけないわ」
「え?」
と、そこにやさしい声がしました。
「久し振りね。アリスちゃん。」
「・・・グランマ」
グランマの後ろにはアリシアも立っていました。
憧れのグランマに今の姿を見てほしくない、アリスはその場から逃げようとしますが晃が逃げ道を阻みました。
「お前からグランマに何も言わなくてもいいのか?」
晃にそんな言葉をかけられて、アリスは重い口を開こうとしました。
「…グランマ、あの…もう…私…」
アリスちゃんがグランマに打ち明けることができずにいると
グランマがアリスのゴンドラを眺めながらゆっくり話しはじめました。
「このアリスちゃんのゴンドラは何人乗りかしら?」
「え、あの…。最大で7人です…。」
グランマは頷いて話を続けます。
「ゴンドラは乗れる人数が限られるから沢山のお客様と出会ってばかりではいられないわ。出会う分だけ、お別れしないといけないでしょ。お別れした後、後悔もしたりするわね。でも、そのお客様と一緒に過ごしたかけがえのない時間を失うことは絶対にないの。」
藍華や灯里は頷いていますが、ちょっと難しい話なので後輩3人はついていけていない様子。アリスはしっかりグランマの目を見て話を聞いています。
(そんなアリス先輩の姿をアーニャちゃんはじっと見つめていました。)
「アリスちゃん、永遠の別れは何時訪れるか誰にもわからないものなの。だから、もしかすると明日、急にグランマがアリスちゃんたちみんなとお別れしないといけなくなってしまうかもしれないわ。」
「え、そんなの絶対嫌です!」
「それは誰にもわからない。でも、グランマはね。今、アリスちゃんと一緒に話しているこの時間を絶対に失うことはないの。だから大丈夫。」
グランマは不安そうなみんなの顔を見回してからまた問いかけます。
「アリスちゃん、もうひとつ聞いてもいいかしら?アリスちゃんにしかわからないことなの。」
「え、は、はい…、なんでしょうか?」
「もしも…、アテナちゃんが今のアリスちゃんに言葉を掛けるなら、なんて言うかしら?」
「アテナ先輩が、今のわたしに…」
「アテナちゃんと過ごした時間が一番長かったあなたですもの。わかるんじゃないかしら。きっと、アリスちゃんの心の中にはアリスちゃんしか知らない、アリスちゃんだけのアテナちゃんがいるはずよ。」
アリスちゃんはしばらく考えてから、不安そうな顔をしている灯里先輩や藍華先輩、後輩のアーニャ、みんなのことを見回します。
「グランマ。私…」
グランマはそっとやさしく微笑みます。
「私…、またアテナ先輩に心配ばかりかけてしまっていたみたいです。」
アリスちゃんの潤んだ目を見てグランマは頷きます。
「そう、でも、これからは大丈夫みたいね。ほら、アリスちゃんはもうアテナちゃんを見つけることができたのだから。」
「グランマ。・・・はい。 あ、あの、みなさん、ご迷惑をおかけしてでっかいすみませんでした。」
涙目の灯里と藍華が笑顔でアリスに抱きつきます。
「おかえり、アリスちゃん」
[newpage]
そして、季節は“春”。
花咲きほこるサン・ミケーレ島にあるアテナ先輩のお墓には、お花を手向けるアリスの姿がありました。
「アテナ先輩、今、私、会社から改めて後輩を指導してみないかって話を受けているんです。落ち込んで、みんなに迷惑かけてばかりのダメダメな私にはもう無理なんて思ったりもしたけれど……。」
と、アリスは木陰からずっとこちらを見つめていたアーニャちゃんの姿に気が付きました。
「でも、私にはアーニャちゃんっていう先輩想いのかわいい後輩が既にいるからでっかい無理です。って、断ろうと思っています。アテナ先輩から教えてもらったこと、ちゃんとアーニャちゃんに伝えたいって思うから・・・見ていてださい。・・・アテナ先輩。次はプリマに昇格したアーニャちゃんと一緒にまたここにきます。でっかい楽しみにしていて下さい。」
アリスは立ち上がるとアーニャちゃんに声をかけました。
「でっかい盗み見禁止です。合同練習はやってないんですか?」
「ごめんなさい。でも私、アリス先輩のことが気になって。」
「仕方がないですね。ほら、行きましょうか。今日、夜は予約が入ってないから練習に付き合ってもいいですよ。」
「はい。お願いします。」
アリスはゴンドラに乗ります、手にはアテナ先輩が愛用していたナンバー「36」のオール。オレンジ色に染まった夕暮れのネオベネチアの街並み。飛び立つ鳥たち。アリスちゃんは優しく微笑み明日へ漕ぎ出します。
アリスのカンツォーネ「ルーミス エテルネ」が春風に乗って町中に広がり、歌声に気が付いた晃さんが笑顔でゆっくりと空を見上げ呟きます。
「そうか・・・、私にもついにゴンドラから降りるときがきたのだな。」
灯里や藍華達にもアリスちゃんの歌声が届きます、そして・・・本当の笑顔がネオベネチアに戻ってきました。
そうそう、気になるアリスちゃんが元気を取り戻したアテナさんの言葉。
{netabare}
それはARIAのことが大好きなファンの心に残っているアテナさんの言葉そのものです。
恥ずかしいセリフ禁止!
アテナさん、あなたの言葉にはたくさん助けられました。ありがとうございました。
また今日も平和な日常を過ごせたことに感謝しつつ、現実世界にしかないたくさんの素敵を見つけながら楽しんで生きていきましょう。
{/netabare}
{/netabare}