ossan_2014 さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
ダンディとはこういうことだ
キャッチ・コピーや予告編に惹かれて映画館へ足を運び、騙された気分になる経験は数多いが、本作にはその心配はない。
「カッコイイとはこういう事さ」
宣伝文句にいささかの偽りもない。
全編にポルコの男臭い格好よさがあふれかえっている。--豚なのに。
空を飛ぶとはいえ、豚がこうまで格好良く見えるのは、アニメという絵空事だから、と簡単に済まされてしまいがちだが、話はむしろ逆ではないかと思える。
現実では、ルックスと格好よさは等号で結ばれているわけではない。
同じように太った体型であっても、「貫禄があって頼もしい」といわれる人もいれば、「ふやけたピザ野郎」扱いの人もいる。
痩せていればいいわけでもなく「研ぎ澄まされてシャープ」な印象を与えられれば幸いで、「貧相でみすぼらしい」とみられてしまう者も多い。
結局のところ、魅力はその人格に依存するもので、ルックスは後からついてくるものだ。
だが、それは、現実に、生身の人間が対面して、人格を感じ取っての話だ。
「アニメ絵」という完全に生身とはかけ離れた抽象化された表現、それも豚を描いた「絵」を格好よく感じさせるのは、その「絵」に人格まで憑依させる、アニメ技術を高度に会得した、卓絶した匠の表現力なくして可能になる業ではない。
この監督においては、「未来少年コナン」のころから、環境問題的なテーマを描こうとするたびにストーリーが破産し、空中分解する物語を超絶的な描写力でかろうじて繋ぎ止めて「作品」の形を何とか保つ、という印象を与えることが多い。
が、テーマ性の希薄な本作では、そのようなアンバランス感に足を引かれることなく、匠の圧倒的な描写力を、心行くまで堪能できる。
空中分解の心配のない物語世界で、ただただ手練の描写力に酔い、アニメ表現の極北に耽溺して、匠の世界に遊ぶ楽しい視聴体験が約束されている。
音楽の世界では、テーマ性を排除して、ひたすら技術性で構築される「絶対音楽」というジャンルがあると聞き及ぶが、本作は、「絶対アニメ」として、表現力に酔って楽しく視聴することが唯一のふさわしい態度に思う。
それにしても、ミラノの街を行くポルコの伊達男ぶりは、これぞダンディという生きた(?)見本のようだ。
そう、ダンディとは、本来は「カッコつけたヤンキー」なんかに使うべき言葉ではないのだと、改めて確認しておきたい。