らしたー さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:今観てる
過去最高応援したくなるヒロインが誕生した。
まだ2クール目視聴中だけども、正直傑作だと思った。
まず何より、制作進行の宮森を主人公にしたところが、個人的には最高にツボであり、このアニメを面白く観ることができた最大の理由。見ていてこう胃がキュッとなってしまったよ。過去最高、応援したくなるヒロインが誕生しやがりました。
業界や会社ごとに違いはあるだろうけど、進行管理やプロジェクトマネジメントと呼ばれる仕事って、少なくとも自分が経験してきた限りでは、すげえ過酷である。しかも、その過酷さの質というのは、私が原画マン安原の苦悩を肌で実感できないのと同様に、クリエイター畑一本でやってきた人間には、たぶん想像できない類のものじゃないかと、半分あきらめてもいる。
こればかりはやったことがないとわからんだろうなあ。
まず、どんな作業にどのくらい時間が必要かがわからないと、交渉すらまともにできない。だから、自分の得意分野や興味のあるなしに関わらず、上流から下流に至るあらゆる工程に関して、広く浅く知見を持っておく必要がある。
初期の工数見積ほどあてにならないものはなく、たいていどこかで誰かが間に合わなくなって泣いてるのだが、そこで相手に同情してしまうようではプロマネとしては不向きで、ヘルプを調達できそうなら即座に手配し、それも無理なら泣き落とし。腹では即座に次の段取りを考えてるくらいじゃないと、やっていけない。
突き詰めると、「人に仕事をさせて回る仕事」なんだけど、それは進行管理やプロマネにとってはあくまで水際の仕事。そこに至るまでに、完成から逆算してマイルストーンを切り、仕様の骨子を把握し、それをタスク化し、日々の作業スケジュールにブレークダウンし、完成までの道筋をつける、という土台作りのほうがはるかに大事で、しんどい。プロデューサー業務を兼任することも多く、その場合はさらにスタッフィングやら予算管理やら、政治的な動きが要求されるクソ面倒事がめでたくアドオンされる。
クリエイターと決定的に異なるのは、キックオフから完成に至るまでのすべての時間において、「俺には関係ない」という心休まるタイミングがほぼないところ。ここがいちばん辛いところだと思う。
『SHIROBAKO』を見る限りだと、アニメ制作の場合はある程度完成までの工程が公式化されている風だったけれど、プロジェクトによっては当然、「そもそも必要な工程って何だろう?」ってところから始まる。作り方がわからないから。
リスクヘッジのつもりで実績のある外注ラインを抑えたはいいが、そことのコミュニケーションがうまくいかず外注管理自体がリスク化したりと、胃が「キュンキュン♪」ってなる要素に満ちあふれた素敵なお仕事である。
デスクの本田さんが言ってた。失敗しないで成長した制作を僕は知らない、と。
200回くらい頷いてしまった。
プロジェクトマネジメントって、最終的には人をゴリゴリ動かして、物事を完成へと導く仕事である。そして、スタッフには当然入れ替わりがあるわけで、人間が変わった瞬間に、その人の性格や手の速さを把握し直す必要性が生まれる。みんながみんな同じ情熱で取り組んでるわけじゃないってのもそう。その結果、今までの正解が正解じゃなくなるケースも多々出てくる。だから、厳密な意味ではつぶしがきかない。
だからこそ、成功体験よりも、「どこにどういうリスクが潜んでいるか」を手痛い失敗を通して経験していることのほうがよっぽど財産になるし、私自身もそう信じて疑わない一人。
『SHIROBAKO』のいいところは、物事がうまく進行しなくなる状況を、かなり具体的な描写で表現しているところ。本当はもっといろんな原因が複雑にからみあって、スパッと解決みたくいくのはまれなんだけど、何がボトルネックになっているのかを、各話具体的に提示する構成が、誠実にも感じられたし、この作品が表現したいことを伝える上で最適とも感じた。
それに加えて、この作品って、多角的な楽しみ方に対応してるのね。純粋に登場人物を愛でる楽しみ方もあれば、アニメ業界の厳しさや賑やかさを観客として楽しむこともできるし、あるいは自分のように、身近な環境に置き換えて胃をキュンキュンさせることもできる。
こんなアニメ、今まで観たことない。
最終的にどういう着地をするのか楽しみでもあり怖くもあるけれど、この先どう転んだとしても、この作品が傑作未満の評価に転げ落ちることはない。