雷撃隊 さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
あにこれ1位、でもアニメ初心者にはお薦めしない。
1期2期両方の感想
多くの人にとって攻殻機動隊のスタンダードというとこのSACだろう。公安9課のデビュー作は押井守監督の映画1だが本作は押井監督の門下生たちによる連続ものだ。神山健治、藤咲淳一等、押井監督の良き後継者だ。声優は田中敦子、大塚明夫、山寺宏一らが映画から続投しており世界観の統一に一役買っている。90分の映画では詳しく語られていなかった9課のメンバーの人物像も1期2期両方で4クールあれば充分語られた。少佐、バトー、トグサ、イシカワたちがのびのびと活躍する。もちろん我らがアイドル・タチコマも。
ストーリーは1期の「笑い男」、2期の「個別の11人」共に奥が深く面白い。1期は現代の薬害エイズを連想させられる社会問題、2期は三島由紀夫を信奉するテロ集団との戦いと日米安保と核問題を描いている。どちらも現代日本が抱える政治、社会問題にメスを入れる「社会派ドラマ」だ。
この作品、あにこれ1位だけどアニメの初心者にはお薦めしない。特に「宮崎駿ぐらいしか知らない」なんて人は問題外で「アニメに興味あるけどどれがいいか分らん」という人にもいささか敷居が高いだろう。ある程度監督やスタジオの名前で作風が解るようになってから見ることをお薦めする。小説家や漫画家も名前で作風が解るのと同様にアニメ作家もまたしかりだ。例えば「うる星やつら」「パトレイバー」「攻殻機動隊」が親戚関係だと理解できれば楽しめるだろう。あるいはガンダムでいえば富野ガンダムとそれ以外の区別がつくぐらいの「アニメ中級者」ならOKだ。ちなみに「魔法少女まどか・マギカ」が始まる時にスタッフの名前で大騒ぎしていた人達は「上級者」だろう。
話は逸れるが僕が個人的に初心者にお薦めする作品はメカものは「マクロスプラス」「楽園追放」あたりでポピュラー路線なら「涼宮ハルヒ」「けいおん」あたり。宮崎アニメを少々という人には「LAST・EXILE」や「進撃の巨人」あたりを勧める。攻殻機動隊は最初から哲学的なものを見たい人にお薦めだ。
もし初心者がいきなりこれを見たらやたらと理屈っぽい長台詞の応酬にウンザリするかもしれないし古典や歴史上の格言の引用合戦は嫌いな人は嫌いだろう。士郎正宗という漫画家はお世辞にもポピュラーとは言い難いし押井派閥のスタッフも癖が強い。しかしながら中毒性があり慣れれば抜け出せなくなる。
僕が攻殻の好きな点は達観していながらも正義感を持ち続ける警察官の物語だ。荒牧課長の「公安9課は犯罪に対して公正な組織でありたい」は一番好きな台詞だ。少佐とバトーさんの純愛は大人の恋で素敵だし一番若いトグサが唯一の所帯持ちなのも面白い。AI戦車タチコマのアクションもSACの「顔」だ。一見1話完結のエピソードの中にも本筋の複線が張られていてそれらがクライマックスに向けて収束してゆく構成がなんとも絶妙だ。しかし注意深く台詞や劇中のアイテムに注目していないと置いてけぼりを食うこともしばしば。人によっては「アニメを見てるのに漢字だらけの小説読んでるみたい」と感じるかも。だがそれこそがTV,映画ともに攻殻の持ち味だ。
菅野よう子さんのサントラは映像抜きでも単独で通用するレベルだ。もちろん映画の川井憲次さんもハイレベルだ。まあこの辺りは好みの問題だろう。映画1から見始めた僕はどっちも好きだけど。
本作は初心者向けではないけれどある程度本数をこなした中級者向け、ということで高い評価なのは納得できる。日本における「未来の警察もの」というジャンルのスタンダードを確立したのは「パトレイバー」と「攻殻機動隊」だ。SFx思想・哲学という組み合わせは日本ではやはりアニメ・コミックと相性がいいようだ。パトレイバー、攻殻、サイコパスとこの製作チームの警察もの、面白すぎて普通の刑事ものじゃ満足できなくなってしまうからコマリモノである。