セレナーデ さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
あふれる人間賛美
爽やかで温かみのある余韻がステキ。
この作品、結局のところ患者の精神疾患は治せていないんですよね。「強迫神経症が治って幸せに暮らしましたとさ」とか「先端恐怖症がひいてヤクザを引退せずにすみましたとさ」とか、そんな分かりやすい締め方はしていなくて。むしろ症状自体はなんの変化も見て取れなかったり、症状が悪化したりしたままエンディングを迎えるときすらあるくらい。その部分だけを見るに、医療作品としては最悪。
けど、だからこそいい。
それぞれ患者たちは、伊良部精神科医がトリガーとなった事件の翻弄の末に客観性を取り戻し、自分の行動を制限していた自分自身に対し空虚感を覚えだす。そして気づけば、穏やかで安らかな心地に包まれながら、症状克服の希望を明日に見据える。
医師の手腕をもって解決するでもなく、完治させることにハッピーエンドを見出すわけでもない。現代に巣くう心の病を扱った作品として、患者のモチベーションで克服の希望を見出す、そのエンデイング。私としては、人間の持つ可能性と強さをなによりも尊重してくれているようで、人間賛美に満ちあふれているようで、なにやら温かーい気分になれるのです。えもいわれぬ爽やかさを感じるのです。
その部分だけを見るに、ある意味で最高の医療作品であろう、と。
伊良部精神科医の突飛なキャラクター性も素晴らしく、人智の及ばぬ領域で計算を働かせている究極の名医なのか、それともただ自分の欲望と興味に果てしなく忠実なだけのヤブなのか分からない謎めいた風格は、ストーリーを牽引するトリックスターとして類例を見ない魅力を生み出しています。
しいて原作厨のケチをつけさせてもらうと、それこそ幾話か改変で「完治した」とも取れる演出が付与されていたことが少し残念。前述のとおり、伊良部の働きによって患者が客観性を取り戻したり自分自身に懐疑の目を向け始めたりと、完全にロジックが欠如してるわけではないのだけれど、あのドタバタを交えた荒唐無稽な流れで完治させてしまうのは、やはりご都合主義に映るというか、ドラマとして安っぽくなります。
あと、不満ってほどでもないけど、実写を交えたご自慢の演出方法は、要所要所で発動させたほうがよかったんじゃないのって気がしないでもなかったり。原作で「初診で非現実的な体験をした患者が診察室をあとにして、夢ではないかと頬をつねった」みたいな描写があったくらいだから、日常風景では普通のアニメーションにして、診察室内か伊良部が現れたときにだけあの演出にしたほうが、現実と非現実のメリハリがついて、伊良部の放つとびぬけたオーラや人間性がより強調できたのではないかな、と。
一話完結でありながら、計算されたシリーズ構成で新たな娯楽性を生み出していたのはGOODでした。
「心療内科」というジャンルの役得を存分に活かし、滑稽と理不尽と人間賛美を謳歌させた爽快の一作。