セレナーデ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
弁天というこの上なく手のかかる女
弁天に尽きます。よくも悪くも。
主役の狸たちの行動や世界観はぶっちゃけ矛盾だらけのご都合主義まみれ。その行動は人間に対し己が存在を隠す気があるのかないのかイマイチ分からないし、狸の起こす常識破りな現象が人間社会へ与える影響なんて微塵も考えちゃいない。現代ファンタジーであることをいいことに好き放題しやがるんだなここの狸どもは。
そのハチャメチャな世界観を短所から長所へと昇華させていたのが、軽やかな演出。原作は未読ですが、なにかひとつ森見作品の代表作をかじっていれば、あの軽妙洒脱な文体を画と音楽へ見事に変換した成果であろうことが容易に想像できる、独特珍妙なリズムがあります。狸たちのハチャメチャさをマルっと面倒看ちゃうその懐の深さがスバラシイ。
しかし、そんな懐の深さを持つ演出力をもってしても、手に負いきれなかったものがひとつ。
それが弁天その人。
弁天の行動原理が最後まで明らかにならない気色悪さたるや、ひときわ無視できないものがあります。対立構造や勧善懲悪を盛り込んだ本作のシナリオにおいて、「一体彼女の行動原理を成しているものはなにか、結局彼女はどのグループの味方なのか」という興味が満たされなかったことは、相当なストレスです。ヌメリが全て洗い流されなかったようなもどかしさが残ります。
しかし同時に、作品内のキャラクターたちを引っ掻き回すトリックスターとして、最高の印象強さがあったのも確か。
ある時は主人公の一族の死を扶助する死神と化し、ある時は絶体絶命のピンチに陥った主人公に突如救済の手を差し伸べる救世主として降臨し(デウス・エクス・マキナっぽくもあったけど)、またある時にはいがみ合う狸の一族らの共通の天敵である人間サイドに媚いりあたかも第三者の顔でことの顚末の傍観者となる、そのあまりにつかみどころのない立ち回り。変化術の本家本元である狸もびっくりの変幻自在ぶりを披露しています。
最後まで得体の知れない気色悪さを刻み残すこの規格外の気まぐれっぷりを、是とするか非とするか悩ませる点において、なんて手のかかる女なんだろうと。
最終的には、視聴後三日くらい続いた脳内議論の末に、「最後の最後まで視聴者を惑わし振り回し続けたという点は、なんとも弁天らしいではないか」という評価でなんとか落ち着きました。一人の女のためにもうヘトヘトです。
突き抜けたトリックスター具合を体験したという意味で、ある意味強烈に心に残った作品でした。無駄に涙腺を攻めてくるBGMも大変よかったです。
ちなみに、原作を読んでいなくても、森見作品特有のパラレルリンクでニヤっとできるのはいいですね。なじみのアイテムやワードが出てくるとつい嬉しくなります。
いつか原作も読んでみたい。