「攻殻機動隊S.A.C 2nd GIG(TVアニメ動画)」

総合得点
90.4
感想・評価
2334
棚に入れた
12410
ランキング
53
★★★★★ 4.3 (2334)
物語
4.3
作画
4.3
声優
4.3
音楽
4.3
キャラ
4.4

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ネタバレ

生来必殺 さんの感想・評価

★★★☆☆ 3.0
物語 : 1.0 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 1.5 状態:観終わった

迷走する平行世界・・・

パラレルワールドという詐術?荒技?で時代遅れとなった原作の設定を見事に無力化、
あるいはスルーすることにより、オリジナルで独特の魅力を持たせることに成功
良くも悪くも大人気作品となった攻殻機動隊S.A.Cの1期。
その続編となる2期にあの押井監督が参戦する・・・

押井監督といえば攻殻劇場版。
S.A.Cよりも一足お先に製作され、良くも悪くもそれなりの完成度を誇る
劇場版なのだが
S.A.Cに比べると難解で監督が表現したかったことは恐らくは視聴した人には
ほとんど伝わらなかったのであろう。
日本より先んじて公開された米国でGITSは大ヒットするも
それに対するインタビューのコメントでは監督の苦々しい発言。
原作の世界観とかテーマとかに非常にこだわりを持つ押井監督が
攻殻機動隊S.A.C2期に参戦するということはとどのつまりは
設定的にはグダグダということに・・・

第3次核大戦、第4次非核大戦、義体化、マイクロマシン技術
大日本技研、日本の奇跡、サイボーグ、アンドロイド、バイオロイド
多脚戦車に思考戦車
そのすべては(原作者士郎正宗関連作品)アップルシードに繋がる道。
原作的攻殻~アップルシードの設定、文脈の中で経済問題や外交問題を取り上げる時
いよいよ意図不明、意味不明な展開になってしまう。

アップルシードのために用意された設定にのかって、難民問題や日米安保はミスマッチすぎる。
現代的感覚で経済、外交問題を取り扱いたいならば原作的設定は全無視するか
設定を再構築するしかない。

人口=経済力という時代遅れな発想で近未来ものの話をやろうとか無理ありすぎる。
(第2次世界大戦の時の帝国主義政策の方がまだ洗練されていて相当マシ)

S.A.Cシリーズを楽しむ秘訣は設定について細かいことを考えないか
作中で取り上げられる政治問題や社会問題などを追求しないことだろう。


人は宙を舞う攻殻を見るとウンチクの語部に、なりたくなるそうだ
{netabare}第3次核大戦、第4次非核大戦、そしてそして第5次大戦を経て
米国が主導する世界(秩序)は完全に崩壊。
核戦争と度重なる戦乱によって義体化はいや応なく促進される。
マイクロマシン技術はロボット研究開発部門にも飛躍的進歩をもたらし、
人工知能開発と相まって高性能アンドロイドやバイオロイドを生み出すに至る。
サイボーグ、アンドロイド、バイオロイド、人間が混在する極めてオーバーテクノロジーの
SF的世界が誕生するのだ。
(アップルシードの中ではバイオロイドは遺伝子操作によって生まれた人間を指す)
このSF的世界では驚異的な技術進歩のおかげで極めて生産性が高く、
そもそも難民等の安価な労働力など全く必要のない
経済的生産性の概念が別次元と呼べる世界なのである。
「ロボットが芸者」をやるご時勢に人手が足りないから難民を働き手として連れてこよう
とかいうのはかなり支離滅裂と言える。
それと戦後復興型の経済状況下では需要に対する供給不足でインフレ傾向にあるため、
生産性を向上させない限りは、人件費も高止まりする可能性もあり得る。

安価な労働力だけで戦後復興が可能ならば、「米国の奇跡」というやつで
米国は容易に以前の連邦統一国家の地位を取り戻しているだろう。

作中の米国は米帝、米露連合、アメリカ合衆国に3分裂し
経済的にも軍事的にも相当弱体化しているのは明白なのだが、そんな相手と
核大戦と非核大戦の後に同盟関係を維持するメリットが日本にあるのか全く謎?
憲法改正し軍をもったが、二つの大戦を経ても未だ平和ボケ継続とかいうのはやりすぎだ。

原作の設定では1999年に日本は核攻撃を受けて東京が壊滅する。
それと同時期に第4次世界大戦勃発。
本作においては、第4次世界大戦によってアジアで大量の難民が出たとのことだが
放射能粉塵除去技術が発明されたのが原作設定では2015年。
S.A.Cでは東京に招慰難民居住区があるとのことだが放射能粉塵除去装置が世に出る以前では
東京は放射能汚染で人が住める状態ではなかったので300万を超えるとも言われる
難民を受け入れることができたのは2015年以降となる。
日本の経済復興に招慰難民が寄与したというならば、福岡を含む西日本への首都機能移転計画に
難民が関わっていないと理に合わないのだが、
(というのは個別の11人が自決場所に選んだ「九州電波塔」が日本復興の象徴であるから)
首都機能移転は何年くらいで終わったのかという疑問が残る。
2019年には原因不明の電脳障害が起こり医学界で話題となり、
というか、2011年の羽田沖飛行機事故をきっかけに草薙少佐は義体化してる。

このような未来的技術が生まれてしまう時間軸の中で難民が経済復興に貢献したとかいう
解釈を成り立たせるのは無理がありすぎるし、そもそも先に経済的に復興しなければ難民の受け入れ
とか不可能な話ではなかろうか?

原作の設定では米国が日本を核攻撃し、亜細亜連合VS(米国などの)非亜細亜諸国の構図で
第4次非核大戦が勃発するのだが、大東合衆国(亜細亜連合)が勝利する。
米国=米帝の敗因は何であろうか?
第3次核大戦による大打撃、経済力と国力の衰退、戦後復興の遅れ
そしてなによりもポセイドン・インダストリアル(が有する超テクノロジー)が無かったこと。

色々な経路はあっても因果関係を結ぶ条件が変わらないなら結末は同じ、それがパラレルワールドというものだろう。
別の経路を辿るというパラレルワールドの展開でも、その方向性を変えるような大きな力学が作用しない限りは
S.A.Cで主人公が最後に失踪するように、米帝も衰退の運命を辿る。

3分裂し、経済的にも国力的にも疲弊してる米帝に同盟国としての価値も利用する価値も既にないと考えるべき。
米帝にはこれから先、核を保有し維持していく国力がなく、
身の丈に合わない核兵器を無理に維持していこうと思うなら経済的負担で自滅する。
親米派の官房長官にしても合田にしても、目測を完全に誤っている。
第3次核大戦の核攻撃で東京が壊滅してること自体が、米帝の核の傘に意味がないことの証明だ。
(英雄を求めて彷徨った合田がかつて勤めていたポセイドンこそが
神の申し子と言えるほどの怪物企業だったのは非常に皮肉な運命。)

この設定の中の日米安保など一方的に凍結か破棄で十分。
第3次核大戦の有事の後で今更、今こそ安保再締結とかぬかしている総理大臣も見当違い。
放射能粉塵除去技術、米帝の経済力国力の疲弊、ハイテクパワーの自衛軍、米露連合、アメリカ合衆国
そのすべてが外交カードとして使える今となっては、逆にもっとこっちから圧力かけない方がおかしい。
これほどヌルイ総理なのに保守主義者とかいう設定も意味不明。
今まではともかく(仮に親米主義者の官房長官の手引きはあったにしても)
同盟国に核攻撃をするモーションを見せた相手には国交断絶と宣戦布告で応えるべき。
大量殺戮兵器で世界の秩序を乱す侵略者米帝に天誅を与える聖戦を亜細亜諸国に呼びかけ、
大東合衆国を建設し、最終的に米帝を降す。
すべてはパラレルワールドの結末に辿り着く。

そもそも原作の設定自体がかなり危ういトンデモ展開なのに、それを部分的であれ
迂闊に採用しその前提に乗っかって現実的テーマを表現しようとか滅茶苦茶で
アニメとして一番やってはいけないことではないだろうか・・・
{/netabare}

投稿 : 2015/01/28
閲覧 : 317
サンキュー:

6

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