N0TT0N さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
饒舌な雨。
とても素敵な作品です。
作家の個性が突出していると、嫌でも先入観をもってしまうものですが、
この作品の監督、新海監督もそんな作家の一人だろうと思います。
過去の作品を2作ほどみたことがあるので、自分も少なからず‥
いや、かなりの先入観をもってこの作品を観ました。
自分の中での新海アニメのイメージは、過剰なまでの美しい背景描写と、センシティブな‥へたすれば自慰的とも思えるほどのモノローグ‥。
そんな印象を勝手にもっていました。
言の葉の庭のパッケージデザインを見てもその印象に変わりはなく、「後回し」の位置に分類していました。
ここでの高評価のレビューに感じるものがあったのと、46分という中編の作品なのを知って視聴することにしたわけですが、
今これを書いてる時点で2度の視聴を終え、2度の感動を味わい、購入も考えている状態です。
では、何でこの作品を好きになったかを考えてみたいと思います。
まず最初にあげたいのは、映像の饒舌さです。
『言の葉の庭』
このタイトルで言葉が重要な役割を果たしている作品ではないかと想像できます。
ところが、思いの外言葉で解り合ったり、すれ違ったりするような話ではありませんでした。
その代わり、映像が言葉を語っていたのです。
映像が饒舌‥
なぜそうなったのか?
それはいろんな要素が奇跡的なくらい噛み合ったからじゃないだろうか?と思っています。
雨の日にだけ2人が逢うという縛りを設けたことで、雨のいろんな表情があざとくならなかったこと。
例えば「急に降り出した雨」と「感情の変化」を重ねるパターンがあるけど、それを同じ作品内で何度も使うのは得策とはいえないだろう。
でも、
雨は振り続いていて、それが感情を少しずつ補っているとしたら、そこに不自然さを感じることはないんじゃないだろうか?
そして、優しくてちょっとヒリヒリする感じのピアノの音色が絶妙にハマっていたこと。
エンディング曲のrain(秦基博)が奇跡的にハマっていたこと。
このハマり具合いはほぼ満点と言っていいかもしれません。
数え切れないほどの鍵の中から選んだ1本の鍵を鍵穴に差し込んで、それが「ガチャ」っと回ったときのような快感を伴う位の相性のよさです。
「着信とバイブの振動音のズレ」といった生活音にいたるまで細部にこだわっている姿勢もとても好感がもてます。
さらに、2人が会う場所の隠れ家感に無理がなく、普段暮らしている街とその場所との距離感が、まるでリアルと逃避の距離感のようでとても良かったです。
例えばファンタジーとかでは、リアルと魔界やバーチャル世界との距離感なんかが大事になってくると思うんだけど、その感覚を奥行きのある緑と水を通り抜けるという演出で成功させているのではないかと思う。
この公共の場所で、まるで人類最後の2人?、もしくは天空の城ですか?と思えるほど2人っきりになるのだけど、現実的かどうかは尺の短さのお陰もあって全く気にならず、隠れ家的という効果だけを表現できたのではないかと思います。
さらに、その場所が僅かに高い位置にあることで真横より少し下からのアングルが多めになり内面に寄り添うような映像を自然に表現できたこと。
個人的には、ストーリーを膨らませて複雑で長い話にすることを避け、代わりにベタでシンプルな物語にしたことは大英断だったと思います。
クライマックスの演出はハッキリ言ってベタです。
でもベタというのはつまり王道、鉄板ということです。
言ってみれば、クライマックスとしてのポテンシャルは高いが、手垢が付いている状態でしょう。
このポテンシャルの高さに安易に依存しているような作品はがっかりするけど、
必要な設定を丁寧に積み重ねていけば、やっぱりそのポテンシャルの高さがちゃんと伝わるものなのだなと実感します。
個人的には捻って寄り道して奇をてらった遊び心のある演出が好きです。
ですが、王道のクライマックスを1つ収穫する為だけにしっかり種を蒔き丁寧に育てる。
そういう直球の作品、そういう『言の葉の庭』という作品を、とても素敵な作品だと思います。