ぽ~か~ふぇいす さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
異文化交流を描いた味わい深い作品
くろわーぜ・・・とはなんぞや?
と思って調べてみたところ
英語のcrossにあたる単語のようなので
異国迷路の十字架?
パリに奉公に出た湯音がキリスト教と出会うお話
・・・なのかと思いましたが
実際のところは宗教色を排したつくりになっています
crossには十字路・交差点というような意味もありますから
日本に生まれた湯音とパリの人々
本来交わるはずのなかった両者の運命の交差点
というような意味なのかもしれませんね
舞台となるのは19世紀後半のパリ
19世紀後半のパリというと
普仏戦争のパリ陥落からのパリコミューン
なんて流れを真っ先に思い出しますが
作中からそんな物々しい雰囲気は微塵にも感じられません
市井の職人に過ぎないオスカーが長崎へ渡っていることから考えても
もう少し先のフランスが次々と植民地を増やしていた頃なのでしょう
世界のリーダーとして日本を含む途上国を啓蒙してやろうという傲慢な帝国主義と
自分たちと異なる体系を持ったエキゾチックな日本文化に熱狂したジャポニスム
まるで正反対のベクトルを持った二つの思想が入り混じった不思議な時代です
そんな時代のパリの街並みを
フランス人から見ても違和感のなく精緻に再現するため
美術スタッフにフランス人を3人投入する力の入れようです
コーコーヤの手がけるBGMにはギター、バイオリン、クラリネットが使われていて
ゆったりとしたパリの下町の空気がよく表現されていたように思います
TV未放送の4.5話のエンディングテーマの「遠く君へ」も
洋楽に和のテイストを入れてほしいという無茶振りに見事にこたえたコーコーヤの楽曲を
中島愛さんが情緒豊かに歌い上げていました
丁寧に作りこまれた舞台の上で演じられる物語は
文化の違いがテーマになっていますが
それは、日本出身の湯音とパリの人々の異文化交流だけではありません
ブルジョアジーのブランシュ家
下町のクローデル家、浮浪者の少年など
資本主義の拡大とともに浮き彫りになる
階級間の格差とそこから生まれる対立
同じフランス人同士の間にも文化の壁が存在しているのです
そんな中で国境の壁も階級の差もどこ吹く風のアリスちゃん
悠木碧さんの好演もあって既存の価値観に囚われない天真爛漫な様子は
アニメの中でひときわ眩しく輝いていました
しかし、少し見方を変えてみると
いろいろなものに縛られつつも懸命に日々を過ごしている人々の中で
そのあまりに自由気儘な様子はいまいちリアリティに乏しく
一人だけ物語から浮き気味なようにも感じます
アリスのキャラクターを好きになれるかどうかで
作品全体から受ける印象もかなり変わりそうです
また、ストーリーに関して刺激的な展開を求める人には
ともすれば退屈に感じられるかもしれません
セリフの表面だけをそのまま流すように受け止めるだけでは
心になにも残らずに終わってしまうかもしれません
作中に直接は出てこない文化的な背景や
キャラクターたちの言葉にならない心の裡
そういったものを汲みとれなければ
いや、汲みとろうと努力しなければ
この作品の深い味わいを堪能することはできないと思います
そして、その相手を深く知ろうとする努力こそ
作品の主題である文化を超えた交流において
最も大切なものではないでしょうか?