しかchan さんの感想・評価
4.1
物語 : 5.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
生きるということは嬉しいこと半分、辛いこと半分なのですよ
古代中国思想を基盤にした異世界ファンタジー作品である。
【良い】
・物語の構成
{netabare} 特に、「風の万里、黎明の空」は完成度が非常に高い。
主人公である中嶋陽子の物語を軸に据え、大木鈴と祥瓊のそれぞれの物語が展開される。
鈴と祥瓊は共通して「自分の境遇に納得できない、訴えてもそれを理解してくれない」という思い込みを持っているが、次第にそれは大きく変化していく。
この変化は「月の影、影の海」における陽子の成長と重なる部分があり、そして、境遇は違えど慶王に関心を持ったことから、必然であるかの如く同じ事件に巻き込まれる。
分散された三つのストーリーが最終的には上手く一つに収束するという面白い作りになっている。{/netabare}
・独特の世界観
細かい設定を生かし、考え抜かれた独特の世界観がある。
難しい専門用語が出てくるが、主人公と同じ視点で物語を追いかけると十二国の世界の仕組みや価値観を徐々に理解できるようになり、その世界観に引き込まれる。
【悪い】
・オリジナルキャラクターとしての杉本優香の描き方
原作に登場しないオリジナルキャラクターをストーリーに深く関わるキャラクター、そうではないキャラクターに大別できると考える。
前者の場合はそのオリジナルキャラクターが物語を進めるにあたって重要な存在であることが多く、また、ストーリーに深く関わるということで必然的にアニメの物語は原作と少なからず異なるものになる。
そして、本作のオリジナルキャラクターである杉本が前者の類型に属することは明白である(原作に「杉本」という少女が登場するが、これは杉本がオリジナルキャラクターであることを実質的に否定するものではない)。
しかし、本作での杉本の扱いは全く不当である。
{netabare} 序盤での杉本のインパクトは物凄く強烈であり、勘違いを起こして突っ走る姿には迫力があり、その存在感は主人公である陽子を圧倒するほどである。
中盤では日本に戻っていた泰麒(高里要)と出会い、今後とも物語に深く関わっていくことを期待させる展開だったが、泰麒の話自体が中途半端に終わってしまったためか、急にストーリーから消えてしまう。
これまでの物語に深く関わっていたキャラクターを何の手当てもなく退場させたことにより、大きな欠落が生じ、違和感を抱かざるを得ない状態になっている。
まさに竜頭蛇尾、一発屋のような扱いなのが残念である。{/netabare}
【総評】
人間という生き物の良い部分、悪い部分が描かれており、メッセージ性の強い作品である。
{netabare} 陽子を取り巻く環境は日本でも異世界でも不信や欺瞞や裏切りに満ちており、彼女は信じた相手に何度も裏切られる。
その度に陽子の中から甘さが消えていき、強くたくましくなっていくが、一方で心に不信や敵意を溜め込むようになり、自分を助けてくれた楽俊を裏切って生き延びようとする。
人に裏切られるとどんなに善良な人でも他人を信用できなくなり、逆に相手を利用して自分だけ生き延びようと利己的な性根を持つようになってしまう。
現実には悪人だけでなく、正しくあろうとする人がいるが、粗悪な環境で過ごすと出会う人間を全て悪人であるかのように邪推してしまうのである。
人に褒められれば、褒め殺しかと疑い、親切にされれば、裏があるのではないかと勘ぐり、善行を成している人を見ると偽善者だと決めつける。
陽子は苦しんだ末に楽俊と再会し、彼を信じることで救われるのだが、もし楽俊に出会えなかったら、どうなっていただろうか。
そのような人間の弱さを感じさせられ、そして、それを乗り越えることもできる人間の強さを感じさせられた。{/netabare}
生きている限り、誰かと関わることは避けられず、どのように関わって生きていけば良いのかを考えなければならない。
NHKということもあり、教育的で深く考えさせられる作品である。