どらむろ さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
凄絶な忍者バトル!忍法版ロミオとジュリエット。愛する者よ、死に候らえ…
甲賀と伊賀、憎しみ合う二つの忍者集団が10対10で壮絶な忍法バトルを繰り広げる!
双方の若き頭領同士は愛し合っており、なのに避けられぬ死闘が始まってしまう悲劇的ストーリー…。
原作は山田風太郎による1958年掲載の小説で、現在の能力バトル漫画の元祖的な重要作品です。
…故に、アニメに限らず漫画やラノベ等のサブカルを愛する人は、一度は必ずチェックして欲しい名作です。
「天膳殿が『また』死んでおるぞー!?」
キャラデザにクセがあるのと、かなり血生臭いグロ多い故に、そこがとっつき難いかも?
{netabare}『物語』
…時は慶長十九年(1615年)。江戸時代最初期。
甲賀卍谷(こうがまんじだに)と伊賀鍔隠れ(いがつばがくれ)二つの忍者集団は数百年に渡り憎み合う敵同士であったが、全忍者のボスの服部半蔵によって「不戦の約定」という不可侵条約を結ばされ、かろうじて冷戦状態にあった。
そんな折、甲賀の首領の孫で後継者の弦之介(げんのすけ)と、伊賀の頭目の孫娘の朧(おぼろ)は愛し合っており、もうすぐ結婚が決まっていて、二人の愛と縁組により長年の対立も溶ける…と思われた矢先。
…大御所の徳川家康が、二人の孫のどちらが三代将軍になるかの後継者争いの為、甲賀と伊賀それぞれ代表10人同士で殺し合う事を命じる!
かくして愛し合うふたりは敵同士となり、壮絶にして悲劇的な忍法バトルが始まるのだった!
なんたる理不尽にして悲劇的な宿命か。ショッギョムッジョ!
まさに南蛮の草子「ロミオとジュリエット」の如し…
こうして壮絶な死闘が開始されるのですが、アニメ版は原作が(漫画版だと)全5巻の比較的短いお話をオリジナルエピソードで主に心情面や関係性を掘り下げているのが特長です。
1話からして、原作では流されていた甲賀弾正と伊賀お玄の悲恋を掘り下げ、今後の悲劇の予感を高めている。
愛し合っていたのに骨肉相食む結末となった老人ふたり…その悲劇は孫の世代に引き継がれる。
その後もアニメオリジナルで主に回想により、各忍者たちを掘り下げる事で、物語の深みが増しています。
そのお陰で両陣営20人もいるのに、各陣営の忍者全員の魅力や愛着が出せています。
…中盤以降、それが些かテンポダウンを伴う弊害はありますが。
総じて原作補完が丁寧かつ功を奏しているのがこのアニメの魅力でしょう。
また本作は勧善懲悪は全然関係無いタイプで、甲賀も伊賀も悪くないです。
視聴者はどちらかといえば、甲賀贔屓したくなるのでは…
前半戦は初手の情報アドバンテージにより、伊賀圧倒的有利で甲賀可哀想なので。
でも甲賀も怒涛の巻き返しで、ここも熱いです。
原作より遥かにキャラの掘り下げ丁寧なので、両陣営それぞれに愛情やそれ故の憎しみのドラマが白熱かつ、切ない。
(一人の例外除いて)悪人はおらず、ただ、愛する人への想いが…宿命に翻弄され結果的に悲劇的死闘が加速していく…。
恋愛物として見ると、弦之介と朧は終始状況に抗えず蚊帳の外に置かれざるを得ない為、終盤以外はやや地味です。
しかしその分は両陣営の忍者たちの愛憎劇でカバーしてます。
バトル面では、忍者と言うよりも異形超人バトルに近いです。
特に1話、甲賀の風待将監(かざまち・しょうげん)VS伊賀の夜叉丸(やしゃまる)のバトルは凄まじい。
…細かい描写含めて非常に原作再現度が高く、これをアニメ化しただけでも値千金です。
以降も異能忍者たちの奇天烈なバトルが手に汗握りますが…
バトル的な醍醐味のピークが前半で終わってしまい、中盤以降はクールダウンして地味になるのは残念。
その分、ガチバトル以外での謀略や不意打ち騙し討ちなどの「戦闘力以外で決着する」展開が特徴です。
戦闘力低くても相性や状況次第で番狂わせ頻発、果たして誰が勝って誰が討たれるのか、全く予測不能。
両陣営ともに最強クラスのチートな二人(弦之介と朧)が極力戦い避けたがったり、甲賀最強クラスの室賀豹馬(むろが・ひょうま)が意外な相性で討たれたり…
ここら辺は、近年(いや、かなり昔から)の能力者バトル系作品とは一線を画しています。
以降の作品でも殆ど例が無いタイプのバトル展開、全く目が離せない!
…この醍醐味も前半がピーク、終盤に向けては予定調和気味なのが難ですが、それでも戦闘力だけでは決まらぬニンジャのイクサは括目する価値あり!
…哀しき死闘の末、愛し合う弦之介と朧の悲劇的結末は圧巻。
最後の最期まで意外性と悲劇性を保ったまま、悲しいけれど美しい結末。
服部響八郎のエピローグがせめともの救い感じさせ、悲劇ではありますが意外と後味悪くないのも良い。
総じて
原作尊重しつつも大幅に追加エピソードで物語の深み増している
手に汗握る、単純な戦闘力では決まらぬ殺し合いの緊迫感
愛憎渦巻く切ない悲恋
…面白さ的に前半にピークが来て以降地味なのが難ではありますが、十分名作級だと思います。
『作画』
キャラデザが非常にクセが強く、好みが割れそうです。
女性陣は美女揃いですが、メインヒロインの朧の目が、なんだかタヌキっぽいw
とはいえ慣れれば十分可愛いと思いますけどねぇ…。
どう見ても人外のバケモノ多いですが、別のベクトルで彼らもカッコイイです。
バトルは序盤~前半がピークで以降地味。
でもピークのバトルシーンの凄まじさは一見の価値あり!
…月が日数経過しているのに終始満月なのはご愛敬か。
OPで「下弦の月が~」て言ってるのに満月じゃねーか!とツッコミたくなったりw
『声優』
儚げなヒロイン・朧を水樹奈々さんが、イケメン貴公子・甲賀弦之介を鳥海浩輔さんがバッチリ好演されてます。
全般にいぶし銀のベテラン勢揃いで超豪華声優陣。
蓑念鬼(みのねんき)の内海賢二さん、小豆蠟斎(あずきろうさい)の青野武さん等、今は亡きベテラン勢の異形ニンジャ絶品。
蛍火の沢城みゆきさん、陽炎の早水リサさん、朱絹(あけぎぬ)の渡辺美佐さん、お胡夷(おこい)の木村はるかさん等、女性忍者は水樹さん以上に魅力的。
…私的に本作のMVPは、薬師寺天膳の速水奨さん!
ゲスいけれどどこかドジっこな悪党、天膳殿!
天膳殿、速水奨キャラでもベスト10に入ります。
『音楽』
山田風太郎作品の大ファンだという陰陽座というバンドグループによる主題歌「甲賀忍法帖」が素晴らしい。
バンドと和風テイスト融合したカッコイイ曲調からの、主題を完璧に捉えた格調高い歌詞。
00年代のアニソンでも上位に入る名曲です。
朧(水樹奈々さん)のED2曲も良い感じ。
BGMのバリエーションに乏しいのがやや難ですが、雰囲気はバッチリです。
『キャラ』
甲賀と伊賀合計20人もいるにも関わらず、全員が強烈なインパクトと魅力を放っており、一人も捨てキャラがいないのは素晴らしい。
回想や交流エピソード追加で、一見異形で残忍に見える忍者たちも実は人間味あるのが分かるので。
…美男美女組が優遇され、異形組はやや扱い悪い面はありますがw
(OPでも、美女組はちゃんと歌詞に合わせて目立ってますが異形組は雑)
水のように優しく~♪(朱絹)花のように激しく~♪(お胡夷)震える刃で貫いて~♪(陽炎と蛍火)
…基本、一人の例外除いて、全員良い奴らです。
「甲賀弦之介(こうがげんのすけ)」
クールな美青年。ロミオポジ。温厚誠実な平和主義者、朧がホレるのも納得ですな。
クールだが内面は激しい…のだろうけれど、分かり難い人物。
必殺技「瞳術」は作中最強、彼が最初から本気だったら伊賀アッという間に殲滅されてた…
…もし不戦の約定解かれた情報を甲賀が先に知っていたら、初手の段階で不毛な死闘止められたのでは。
「朧(おぼろ)」
メインヒロイン、ジュリエットポジ。美少女なんですが…タヌキっぽい目のキャラデザが賛否ありそう。
忍術使えないドジっ娘…だが実は「破幻の瞳」という両陣営合わせて圧倒的最強技の持ち主。
性格は世間知らずな箱入りお姫様、死闘開始しても弦之介様への愛を貫き苦悩する。
…終始伊賀の足引っ張っているお荷物と言われそうな姫様だが、伊賀忍者から終始慕われているのが、逆に他の伊賀忍者たちの好感度アップに一役買っている。
「甲賀弾正(こうがだんじょう)」
弦之介の祖父。回想での若い頃がめっちゃイケメンです。
針手裏剣の使い手で織田軍圧倒、流石強い。
伊賀のお玄との数十年に渡る悲恋と悲劇の結末は壮絶にして切ない。
「伊賀のお玄」
朧の祖母(とは違うっぽい)。1話では妖怪オババ…と思いきや、若かりし日はめっちゃ美人、多分作中一番美人。
甲賀弾正との数十年に渡る悲恋は哀しき忍びの定めを強烈に印象付けた。
「風待将監(かざまちしょうげん)」
甲賀の異形忍者の一人。どうみてもバケモノ、コワイ!
必殺技は口から膠(にかわ)吐いて敵を捕らえる。
伊賀の夜叉丸とのバトルは凄まじく、1話にして作中ベストバウトであった。
多分、(チートな瞳術除けば)甲賀最強の武闘派だった。
「鵜殿丈助(うどのじょうすけ)」
ひょうきん者でスケベな性格だがどこか憎めない甲賀忍者。
伊賀との和睦を望む弦之介にとって数少ない理解者であった。
実はキレ者だったり、非常に面白味のある男。
もし弦之介が先に不戦の約定解除知っていれば、彼も和睦の主力になってくれただろうに。
トリッキーな風船ボディーで戦闘力も頭脳も高かったが、どんなに強くても討たれる時はアッサリ討たれる、非情である。
「地虫十兵衛(じむしじゅうべえ)」
蛇のように超高速移動できる異形忍者だが、冷静沈着な占い師でかなりカッコイイ。
多分甲賀随一の頭脳派、戦闘でも初見殺しの技で十分脅威。
普通なら勝ってたのに…相手が悪かったです。
「お胡夷(おこい)」
左衛門を兄様(あにさま)と慕う性格幼い妹系忍者。可愛いです。
近年のアニメ美少女にはあまり居ないタイプのムチムチ系なのも良し!
戦闘力はあまり高くない…と思いきや、まさかの異形の体質で伊賀の男どもを食った!
これぞ、くのいちらしいナイスな戦い方ですな。
可愛さも、活躍ぶりも、兄様を想いながらの最期も、印象的であった。
「陽炎(かげろう)」
甲賀もう一人の女忍者。大人の色気漂う美女。ヤンデレ。
弦之介を慕っており、その弦之介が敵の朧を好いている事で…作中一番ヤンデレになります。
愛しても報われない悲劇的ヒロイン度は朧より高いかも…
戦闘力低いですがお胡夷と同系統のハニートラップ技で伊賀の男どもを撃破!
でも一人は相手が悪かった…。
「如月左衛門(きさらぎさえもん)」
お胡夷ちゃんの兄さま。妹には甘い感じが微笑ましい。
妹には甘いが敵には冷酷無情なのもイカス!
細目キャラは強キャラ…な法則通り、甲賀でも上位の戦績を上げた。
能力は変装術、バトル系作品では地味なんですが、これが猛威を振るう辺りが本作が普通のバトル系じゃないのを象徴している。
バレた時はモブ侍にすら討たれちゃう弱さなんですが、その彼が異形武闘派組より戦績良いんですよねぇ。
…アニメオリジナルで、罠にハメた伊賀の女忍者の心情に思うところある描写あり、人間的魅力増している。
「霞刑部(かすみぎょうぶ)」
甲賀の怪力大男、十分異形だが他がバケモノ過ぎるので普通に見える。
大男はカマセ…な少年漫画やラノベの法則は、彼には当て嵌まらない!
堂々の試合形式のバトルでの強さよりも、奇襲初見殺しが強い本作、神出鬼没の絞め技で猛威を振るった。
本領発揮すれば強いはずの伊賀のエース級も、奇襲がハマればアッサリ討ち取れる。
…過去回想のショタ刑部かわいい。
本当は心優しい男だった…天膳殿の悪さが際立ちます。
「室賀豹馬(むろが ひょうま)」
弦之介の叔父にして師匠。過去回想でのショタ弦之介に指導するエピソードが微笑ましいです。
弦之介よりイケメン度高い気も…
(夜限定で)弦之介と同等のチート技・瞳術を使う、状況次第では彼一人で伊賀殲滅も可能であったが。
まさかの意外な相性負けで戦績悪い辺りが本作らしい。
「夜叉丸(やしゃまる)」
伊賀の若きエース。一番正統派のイケメンにして、一番(少年漫画やラノベ的な意味で)正統派の能力者。
糸使いは強キャラの法則通り、一番中二病的にスタイリッシュなバトル見せてくれた。
1話の風待将監とのバトルはベストバウトなのでは。
かなりの強キャラなのに、初見殺しの奇襲でアッサリやられる…
なんたるニンジャのイクサの厳しさか!サツバツ!
…蛍火とのラブコメは、朧と弦之介組よりも分かり易いです。
「筑摩小四郎(ちくまこしろう)」
夜叉丸と並ぶ伊賀の若手エース。異能も少年漫画っぽいカマイタチ使い。
朧を姫様と呼び幼い頃から密かに慕っている…が、それを隠して朧への忠誠と甲賀との争いの狭間で苦悩する。
内向的で心優しき忠犬。
両陣営合わせて男子組では一番ドラマがある男です。
負傷して戦力外かと思われたが、それがまさかの番狂わせで甲賀の主力討ち取った。
「蛍火」
伊賀の女忍者。夜叉丸を一途に慕う、可愛い。
作中一番ラブコメの波動を感じた。
愛の為に残虐になれるので伊賀のヤンデレ枠だが、想いが素直な分、甲賀の陽炎より幼い印象。
蛇や蛍を駆使する幻術は幻想的で、かなり異能バトル的に映える。
…甲賀の狡猾な男に弄ばれちゃう蛍火ちゃん…かわいい。
「朱絹(あけぎぬ)」
伊賀の女忍者。かなり落ち着いた大人の美女。
OP「水のように優しく~」の通り慈愛に満ちた女性で、朧の悲恋を見守った。
筑摩小四郎への密かな想いなど、女性陣の恋愛ドラマは情が深い。
…攻撃力は乏しいけれど、血を用いた異能は結構強かった。
「小豆蠟斎(あずきろうさい)」
ぬらりひょんみたいな頭の妖怪ジジイ。
見た目も性格も邪悪っぽく、前半の伊賀の悪役っぽさの代表格の一人。
でも回想シーンにて、普段は気の良い老人なのが分かる。
異形の武闘派としてかなり強かったが…堂々の戦闘では無いやり方で討たれてしまう。
「蓑念鬼(みのねんき)」
毛むくじゃらの鼻毛妖怪。蠟斎、陣五郎と並び伊賀異形トリオの一人。
甲賀に贔屓して観ていると彼もかなり邪悪に見えるが…
朧の幸せを願っていた追加シーンのお陰で好感度アップ。
「雨夜陣五郎(あまよじんごろう)」
ナメクジ体質の異形の伊賀忍者。両陣営合わせて風待将監と並び一番妖怪っぽい。
見た目は不気味だが性格は意外とドジっこだったりw
ピンチが多いが水さえあれば逆襲できる為(甲賀贔屓で見ていると)油断ならぬハラハラ感あった。
…最期は両陣営合わせて一番雑で可哀想w
「薬師寺天膳(やくしじてんぜん)」
不死身の伊賀忍者。
モブ侍「てっ…ててて天膳殿が…また死んでおるぞー!?」
天膳「種子島をくらい…早々に死にましてござる」
卑劣にして狡猾な男だが、かなりのドジっこだったり…
でもドジ踏んでも平気なので!
初見殺し得意な甲賀忍者涙目なチートキャラであった。
…伊賀も甲賀も善人揃いな本作で、唯一悪であった。
美人を見境なく襲おうとしたり、返り討ちで「また」死んだりw
結局この人が諸悪の根源なのですね…。
外道中の外道なんですが…何故か妙に憎めないんです。
いや~、天膳殿、速水奨キャラでもベスト10に入るくらい好きです♪{/netabare}