もけもけぽー さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
不朽のボクシング作品
昭和のスポ根の中でも自分の中で一際鮮烈に輝いている作品です。
ボクシングに短い一生を捧げた青年の姿を、ひたすらストイックに、そして時として人間臭く描いています。
以下全文ネタバレ全開です。汚い表現もあるのでご注意を。
{netabare}
両親に捨てられ施設で育った矢吹丈(ジョー)は、日々喧嘩に明け暮れる毎日を送る荒んだ生活の末、鑑別所→少年院→特等少年院と着実にステップアップしていきますw
そこで出会ったプロボクサー力石徹に完膚なきまでに叩きのめされたことが、ジョーの人生をボクシングへとシフトさせることになります。
友人もライバルもいなかったジョーにとっては、生まれて初めて対等に力をぶつけ合える存在だったのでしょう。
捌け口としての暴力から、ボクシングというルールあるスポーツの技術へと変化していきました。
力石は特等少年院で交わした約束…ジョーとプロのリングで戦うために過酷な減量を自らに課します。力石の階級はウェルター級の66kg。ジョーはバンタム級で53kg。もともと絞った状態で66kgの力石がそこからさらに13kg落とすわけですから、命を削る作業です。一滴の水のために発狂寸前の力石。彼の鬼気迫る様子を作品は見事に描いています。
そんな二人の試合の結末は力石の死という悲劇で幕を閉じました。
過酷すぎる減量と、ジョーが撃ち込んだテンプル(側頭部)への一撃で脳内出血を起こし、力石は帰らぬ人に。
ジョーは目的とライバルを失い、放浪生活へと旅立ちます。
一年の時を経て、「結局自分にはボクシングしか無い」と再確認できたジョーが戻って来てからが「あしたのジョー2」の物語。
戻ってきてからのジョーは「人生すべてがボクシングのためにある」とでも言わんばかりに、以前にも増してボクシングへストイックに入れ込みます。力石を失ったことにより、ボクシングのためなら他の全てを失っても構わないという意気込み、他人から見たら危うい悲壮感が垣間見えてきます。
しかしながら悲しいかな、その意気込みと反比例して心と身体が言うことを効かなくなります。
かつて力石を死に至らしめてしまったテンプルへの一撃。ジョーの心と身体に「顔面を撃ったらダメだ」という重い呪縛。それでも己の心に打ち勝とうと渾身の力をこめて相手の顔面へパンチを繰り出した途端、リング上で嘔吐してしまうジョー。
意志と心と身体が正反対に向かってしまい、身体がパニックを起こした結果でした。
このシーンは子供心にショックでしたね。なんせ格好いい主人公のジョーがゲロ吐いてるんですから。
その後も何度も何度も吐きながら顔面へとパンチを打ち続けるジョーですが、意志の力では心と身体という本能には勝てませんでした。
そんなジョーを救ったのは、南米ベネゼエラからやってきた無冠の帝王こと、カーロス・リベラ。噂では世界チャンプが逃げまわるほどの強さという触れ込み。
試合で吐きまくって干されてたジョーは、カーロスのスパーリングを買って出るのですが、凄まじい威力の一撃を食らい、その瞬間かつて特等少年院で力石に貰ったパンチがジョーの脳裏に蘇る!その圧倒的な強さがジョーの心に火をつけたのです。
強い相手に勝ちたい一心でボクシングに励んでいたあの燃えるような気持ちが、ジョーの心に蘇った瞬間でもありました。作品を見ている自分も「ああ、これだ!」と嬉しく感じたのを思い出します。
カーロスというライバルと出会い、水を得た魚のように息を吹き返すジョー。あんだけゲロゲロやった後だけにカタルシスもひとしおです。
そんな二人は激しい撃ち合いでフルラウンドを戦い引き分けという、 歴史に残る一戦を繰り広げました。カーロスはやっと決まった世界戦を延期してまでジョーと試合をしてくれたのです。カーロスもまたジョーとの戦いに燃えるものを感じていたのでしょう。
そしてカーロスの世界戦。
試合は1分で終了します。勝ったのはカーロス・リベラ…ではなく、チャンピオンのホセ・メンドーサ。
カーロスのセコンドの談話で「カーロスは世界戦以前にジョーとの戦いで身体が壊されていた。」と日本のジョーに伝えられます。
ジョーにとって大切なライバルである力石につづいて、カーロスまでもがジョーによって壊されてしまったという事実。
「今度はカーロスかい・・・」というジョーの寂しげな言葉が印象的でした。
そこからのジョーはボクシングで快進撃を歩んでいくことになりますが、これまでの激しい戦いがジョーの身体を蝕んでいきます。
パンチドランカーと呼ばれるその症状は、まっすぐ歩けなかったり、何もないところで転んでしまったり、指先の痺れから服のボタンが留められないなど…。
ジョーはその事実をひた隠しにしますが、たったひとり気づいている女性がいました。
それは力石が所属していたジムの女性オーナー、白木葉子。
彼女は力石の過酷な減量も目の当たりにしており、カーロスが来日した際には彼の試合のプロモーターを引き受けるなど、ジョーとは因縁浅からぬ関係です。
彼女はカーロスがパンチドランカーとして廃人になってしまった経緯から、ジョーの症状がパンチドランカーのそれだということを見抜いていたのです。
そんな折、とうとうチャンピオンのホセ・メンドーサとジョーの世界タイトルマッチが決定。ドヤ街の不良少年だった男が、とうとう世界一の座を賭けて戦うところまで昇りつめました。ジョーの生活圏であるドヤ街だけでなく、日本中のボクシングファンがお祭り騒ぎ!…ジョーと葉子を除いて。
白木葉子は必死にジョーを止めようとします。雨の日も風の日もジョーのもとへ足を運んでは必死に訴えかけますが、ジョーは会おうともしません。何を言われるのか解っているから。
さらにジョー陣営にとって追い打ちをかけるかのような事実が判明します。
カーロスを廃人にしたのはジョーではなく、チャンピオンのホセ・メンドーサだったということ。
カーロスの症状を詳しく調査した結果、カーロスのダメージはホセが得意としている「コークスクリューパンチ」のものだと。
ホセとジョーの強さを比較する上で、鬼強いカーロスを倒したのはホセではなくジョーだという世間の風評は大きな位置づけをもっていました。
それが覆されるとなると、ジョーが大きな拠り所にしていた強さの根拠がひっくり返ってしまいます。
ましてや、パンチドランカー寸前のジョーがホセのコークスクリューパンチを貰ったらどうなるか考えたら…。
しかしながら肝心のジョーは世間の風評だとか、強さの根拠とかそういうことには無関心を貫きます。
ただ世界一強い男と戦いたいだけなのだから。
いよいよ世紀の世界戦。
試合前の控室に、あの白木葉子がやってきます。ここなら会えるだろうと。
今からでも試合を止めて欲しい、そのための違約金は全て自分が面倒みるから止めて欲しいと。
ジョーは葉子の厚意に初めて心のこもった感謝の意を伝えますが、自分にはボクシングが全てであること、リングの上で世界最強の男が待っていること、リングの上で真っ白に燃え尽きること。力石もカーロスもそうだったという想い。
そしてジョーは前言通り、真っ白に燃え尽きたのでした。
あらすじ 以上。
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ジョーの生き様についてはあらすじが殆どを物語ってると思います。
あまり僕の言葉でジョーについて語らないほうが良い気がするので、そこは実際に作品を見て感じて欲しいなと思います。(とは言え長々と書いてしまいましたが)
この作品の肝はまさにジョーの太く短い一生ですが、そのほかにもジョーを取り巻く人間たちのドラマも大きな見どころだと思っています。
まずはジョーにボクシングを叩き込んだ「拳キチ」こと丹下段平。ジョーの野性的な姿からボクシングの才能を見出した彼は、かつてボクシング界から追放された(己の素行が原因ですが)意趣返しとして、ジョーにボクシングを薦めます。
少年院時代を経て、本気でボクシングの取り組むようになったジョーにとって、まさに家族とも呼べる間柄になりました。
天涯孤独のジョーの帰る家を作り、ずっと維持してきたのが丹下段平です。ジョーが試合を干されようが、放浪の旅に出ようが、警察の厄介になろうが、常にジョーの味方になってくれたオジサンでした。
ジョーにとってのボクシングが生きる意味を持っていたのと同じように、丹下段平にとってのジョーの存在が人生そのものになっていたのでしょう。
ジョーに依存してるとも言えなくもないですが、老体にムチ打ち献身的にジョーに尽くす姿は忘れられません。
次にドヤ街の子どもたち。
おそらく7歳~10歳くらいだと思われる少年少女。サチ、キノコ、太郎、チュー吉、トン吉。彼らはジョーを兄貴分と慕っており、時折ジョーと河原で遊んだりパチンコに行ったりと、それまで荒んだ生活を送っていたジョーの優しい部分が垣間見えるのが嬉しかった。ジョーの試合の応援はいつも彼らが先頭に立って仕切っているのも印象的。
ジョーがテンプルを撃てなくなってスランプに陥っている時、頭に鍋やヘルメットを被って「自分たちの頭を殴って練習してくれ!」とジョーに訴え出たシーンは胸を打ちました。
ヒロインの一人である林紀子。
ジョーの身の回りにいる数少ない若い女性。ジョーからは「ノリちゃん」と呼ばれ、自らジムの食事の世話を買って出るなど、明らかにジョーのことが好きな女の子w
ボクシングで傷つくジョーを心から心配しており、身を削るような生活を送るジョーに胸を痛める姿が多く見られた。
女っ気の無いジョーに初めてデートに誘われた時の嬉しそうな表情と声は今でも忘れられません。
しかしボクシングを「ジョーを傷つけるもの」と考えるノリちゃんと、「人生そのもの」と考えるジョーとの間には、大きな価値観の違いが浮き彫りになっていく。
世間の若者が青春を謳歌しているというのに、ジョーはリングの上で汗と血にまみれて「全然楽しくなさそーじゃない!」とキレてみせます。
対してジョーは「リングの上で完全燃焼して真っ白に燃え尽きたい」と自分の気持ちに正直に返したところ、「わたし、ついていけない」とリタイアを宣言。
子供の頃は「意気地なしな女だな!」とか軽く考えてましたが、大人になって普通に考えれば彼女の思考はいたってマトモでした。ジョーがマトモではなかった。
そしてもう一人のヒロイン白木葉子。
ヒロインと称していいのか微妙だが最終的にはヒロイン。
常にジョーとは敵対陣営に身を置きながら、さりげなくジョーのボクシング人生のアシストを続けてきた女性。金で物事を解決しようとするクセがあるのは「財閥令嬢」らしい部分でもあるが、さすがに芯はしっかりしている。ジョーの身体の異変にいち早く気がついたのも彼女。
ジョーの世界戦を止めるために丹下ジムに足繁く通うも、ジョーに袖にされる彼女の姿は、それまでの「お嬢さま然」としたクールな物腰とは打って変わって、じつに人間らしい様子が描かれていた。雨にずぶ濡れになりながらジョーが出てくるのを待ってる時は、「ジョーさすがに出てやれよ」と思ったものです。
結局ジョーを止めることは叶わなかったわけですが、試合当日のジョーの控室にまで特攻しかけるという熱い行動力も見せてくれました。「試合を中止する違約金なら私が払います!」と、ここでも金にモノを言わせる説得をするあたり不器用な部分も見受けられ、そこも彼女の魅力に写りました。
何を言っても止められないと察した彼女の取った愛の告白は、「マジっすか白木さん!」と子供の頃は笑っちゃいましたが、今となっては「万策尽きても進んでいく白木さんすげえ!」と感じます。
結局はジョーがリングに立つことを受け入れ、ダウンしたジョーに「立ちなさい矢吹くん!」と喝を入れるくらい肝の座った様を見せてくれます。そこへ至るまでの彼女の心情を思うと、なんともこみあげてくるものがあります。
ジョーを傷つけるボクシングを彼から取り上げたいと願ったノリちゃんと、ジョーからはボクシングを奪うことは出来ないと悟った上で最後まで傍にいようとした葉子。どっちも切ねえ・・・。
{/netabare}
と、他にもまだまだいっぱいジョーを取り巻く人物いるんですよ。マンモス西とかウルフ金串とかゴロマキ権藤とか!
でも書いても書いても足りないので、僕なんかの感想文よりも一度作品を見て欲しいなってのが正直な気持ちです。
ここまでネタバレ全開で書いてしまってなんですが。
とはいえ、かなりの旧作なので登場人物の素行がかなり悪かったり、差別的な表現があったりします。そのあたりは時代背景ということを念頭に置いていただけたらと。