オキシドール大魔神 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
見事に騙された
海上でのコナンたちのパートと、陸上での平次たちパートで進む物語、コナンや蘭の超絶アクション、周到にばら撒かれる伏線と回収の仕方、園子や探偵団の泣き演技など、かなり面白いと言える出来だった。特にラストは、前述のとおり泣き演技の良さに持ってかれた。園子にポコポコ叩かれる目暮、涙する佐藤刑事に胸を貸す高木など、細かい動きもグッド。皆が泣き喚く中、一人冷静に状況を分析し電波時計に気付くコナン、艦の走査機能を使うも、反応がなかったことで周囲の絶望感がより一層深くなり、さすがのコナンも打つ手なし、コナンの周りを回転するカメラワーク、BGM以外無音、コナンの頬を伝う一筋の涙、からの「らあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!」の叫び。新一を幻視し気力を取り戻す蘭。止めに小五郎の金の名刺によって蘭発見。この一連の演出や伏線の回収の仕方には久々に感動した。あのコナンが涙したのも良かったし、「お前がどこに居ても見つける。俺は探偵だから」的な回想もいい前フリになっていた。平次と和葉にはにやにやできたし、ゲスト声優もヘタではなかった。唯一運が悪かったのは、和葉の声優が病気でボロボロだったこと。
自分は今作、コナンが泣いたと思っていた。しかし青山先生と柴咲コウの対談を見る限り、コナンの頬を伝った一筋の水滴は、涙ではないとの事。ではあれは何か。おそらくは汗だと思われる。となると、泣いているとも取れるあの描写は一体何なのか。その答えはおそらく、コナンの「泣かない」という設定を逆手に取り、インパクトを与えるための演出だと思われる。事実自分は、コナンは泣かない設定を知っていて、だからこそ、相応の絶望や、蘭がどこに居ても見つけると言っていたくせに何もできない不甲斐なさに対して泣いた事(正確には涙を流したというミスリード)を評価していた。見事に騙された、と思う反面、少しがっかりしたところもある。というのも、並大抵の状況ならともかく、あまりにも絶望的だったりする状況には、涙の一つくらい流してくれないと人間味をあまり感じられないから。要は自分としては、本当に泣いていた方が良かった。ただ、泣けと言っているわけではなく、涙を流したとも取れる描写をしたのなら、泣いていた方が良かったという意味。そして、作者が「涙ではない」と言い切ってしまったのも残念。せめて「あの水滴は皆さんの想像のお任せ」程度ならこちらとしても勝手に悦に浸れたのに、完全否定されてはそれすらもできない。明らかに泣いているとも取れる描写をわざとしといて、少なくとも自分は泣いたと思い感動したが、冷めてしまった。上手いと言えばうまい魅せ方だが、卑怯と言えば卑怯だと思う。
コナンは泣かないというルールを知った上で、今作を冷静に客観視すれば、あの描写でも、ああ、これは涙のようにも見えるけど、汗でも流れているのかな、と思えるのかもしれない。今作を見る前に対談を見ていればなお冷静に見られるだろう。そして、キャラがこれまで積み重ねてきた描写だけでなく、泣かないという確固たるルールがある以上、それを破るのは批判を食らうかもしれないし、マイナスイメージにもなるかもしれない。だがそれは、並大抵の描写に留まってしまった場合のみだ。相応の描写ができたのなら、それは記憶に刻み込まれるようなインパクトに繋がる。今作の絶望感とコナンの心境を考えれば、泣かない方が不自然とは言えないまでも、泣いてもおかしくないレベルではあるだろう。だからこそ泣いたと思ったし、感動したわけだが。今回、泣かないルールは知っていたけど、ミスリードによってコナンが泣いたと思わされ、それがルール破りで残念だという人が居たとすれば、泣いたって仕方ないとその人に反論できる程度の説得力はあったと思う。キッドがコナンの正体を知っているのは劇場版だけとか、その設定を活かした銀翼や天空だってあるし、劇場版でくらいコナンが泣いたっていいのではないか。本編ではできない事をやれるのも劇場版の強みではないのか。……とにかく、今後は中途半端な描写はしてほしくないと思う。