逢駆 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
~自己犠牲~
僕は運命って言葉が嫌いだ
生まれ、出会い、別れ、成功と失敗、人生の幸・不幸…
それらがあらかじめ運命によって決められているのなら
神様ってやつはとんでもなく理不尽で残酷だ
あのときから僕たちには未来なんてなく ただきっと
「何者にもなれない」ってことだけがはっきりしていたんだから―――――
不治の病である妹とその命を救うため謎のペンギン帽の命令で「ピングドラム」を探して翻弄する兄弟の物語。観れば観るほど脳の中が掻き乱される作品です!!!
この作品の特徴としては意味深なセリフや多用されるメタファー、そして独特な演出など・・・
万人受けはしなさそうな要因が多くありますがそれでも面白いと感じてしまう不思議な力を持っています。
個人的に感じたこの作品の魅力はたくさんありますが
まずひとつめは、能動的な楽しみ方ができるということです。
この作品は宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に始まり、アダムとイヴ、七つの大罪、アンデルセン童話『錫の兵隊』、竜宮伝説などいろんな要素がエッセンスとして盛り込まれています。
また終盤まで視聴してもなかなかストーリーの全貌が見えてこないという構成になっているため本当にいろいろなことを考えながら観たり、暗喩で表現された部分を調べてみたり・・・
そういった能動的な楽しませ方をさせてくれる点にとても惹かれました!
ふたつめは、言葉のセンス。
「可愛いは消費される」「きっと何者にもなれない」「透明な存在」
など心にグサッとくるような言葉が多く台詞ひとつとっても魅力的だなと感じました。
ピングドラムならではの独特な演出も魅力のひとつです!
モブキャラクターのほとんどがピクトグラム(絵文字)で表わされているなどこの作品にはトリッキーな演出が多々あります。
しかしただ面白いからそういう演出をしているわけではないということが観ていくうちに明らかになっていき見事だなと感じます。
また音楽がどれも良曲揃いで使いどころも秀逸です!
OP曲は『ノルニル』『少年よ我に帰れ』の2曲。
どちらも7分近くある大作で作品世界をうまく表現していてとても幻想的です。
ED曲はたくさんあり本編に合わせて変えていくという形でした。
どれも作中で登場する「トリプルH」というアイドルユニットの楽曲。
その全てがロックバンド「ARB」の楽曲のカバーです。
原曲の熱いロックナンバーを見事な編曲で作品に沿わせていて本当にシビれました!!!
アレンジの素晴らしさに脱帽です。
この作品には抽象的な台詞や表現が多いのでその点に関して賛否両論があるかもしれません。
しかしそういったシーンがもしもっと写実的に描かれていたとしたら…監督が何を伝えたいのか、という部分がうまく伝わりきらなかったと思います。
あれだけ様々な要素を投入しているにも関わらず、根底にあるテーマは最後までブレることがなかったことからもこの作品が具体的な形態から離れていないことがわかります!
また作中では95年に起きたサリン事件など、多くの実在した事件がモチーフとして組み込まれています。
「過去の総括をしないと自分たちの生きている世界を実感できない。
実感できないと「新しい幸せの価値」というものがイメージできない。
僕たちの心を振りまわす今の「幸せの価値」って
前の世代の人たちが作ったものだというのがわかっていても」
以前、監督がインタビューで語っていた内容ですが
これは監督の世代とこの事件を知らない若い世代とのあいだにある断絶が何かを明らかにしたうえでお互いを繋ぐ希望になるような作品としたいと考えているからです。
その点についてはしっかりと描けていたと思いますし、その上で提示したいテーマというものもうまく見せることができたと思います。
他にも魅力的な部分はたくさんありますがいずれも先の読めない怒涛の展開に魅了されます。
特に考察が好きな方や頭を使うのが好きな方にはおすすめの作品だと思います。
すぐに消費されてしまう面白さとは別の視点を見つけたような心に強く衝撃が残る作品でした。
私は運命って言葉が好き
たったひとつの出会いがその後の人生をすっかり変えてしまう
そんな特別な出会いは偶然じゃない それはきっと運命
もちろん人生には嫌なこと悲しいことだってたくさんある
それを運命だって受け入れるのはつらいこと
でも私はこう思う
すべてのことにはきっと意味があるんだって 無駄なことなんてひとつもない
だって私は 運命を信じているから―――――――
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ここからはレビューとは関係なく本編に散りばめられたメタファー的演出の意味を考えていきます。ネタバレあるかもしれませんので未視聴の方は見ないほうがいいかと。
物語全体の解釈についてはすでにいろいろな方が考察しているので
ここでは少し違った視点からこの作品を考えたいと思います。
上でも述べましたが能動的な姿勢によって楽しめる作品でもあるので監督の意図とはまったく違うかもしれませんが少しでも参考になれば嬉しいです!
◆運命日記について
この作品のキーアイテムですがよく見ると表紙に亀と竜宮城の絵が描かれています。ではなぜ竜宮城なのか。
竜宮城といえば理想郷の象徴。そして亀はその理想郷に連れて行ってくれる使者ともいえます。このことから
日記に書かれている(苹果が実行しようとした)内容=桃果が思い描いた理想の世界
桃果や苹果=理想の世界に連れて行ってくれる亀的な役割
その暗喩として竜宮城が使われていたものと思われます!
だから苹果の周りは海をイメージさせる演出が多かったのかなと。
◆診療室に置いてある天球儀について
眞悧の診療室にある天球儀には赤く光っている玉が回っています。
これは蠍の炎でもあり相手を思いやる心でもあると思います。
それがくるくるまわっています。まさに『輪るピングドラム』ですね!
◆桃果について
この作品の登場人物の名前はある程度の縛りが設けられていて
映画『南極物語』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』が元ネタとされています。
ここで気になったのが桃果という名前。おそらく桃果という名前は縛りの中に入っておらずオリジナルだと考えられます。ではなぜ桃果にしたのか。
考えられるいくつかを挙げてみます。
・「桃」は古代中国で「聖なる果実」と考えられ邪気を払う実と信じられていた
・理想郷に関する伝説は、日本では寓話の竜宮伝説、そして中国では桃源郷伝説である
・愛のメタファーである桃果。愛=ハート。作中に出てくる桃のマークを反対にするとハートマークに見えなくもないような…
こじつけの部分もかなりありますがこのぐらいしか出てこなかったです。
他にも作中に散りばめられた伏線は多々ありますがまた思いついたら書き足していきたいと思います!
・・・嫌だわ、早くすりつぶさないと・・・