erimingo さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:今観てる
アニメ業界は、今後どうしていくべきか。
キャッチコピーは「アニメーション業界の今が、ここにある。」
題名の『SHIROBAKO』は、制作会社が納品する白い箱に入ったビデオテープを
指す映像業界の用語である「白箱」に由来するそうです。
まあ、端的に言えば新社会人の萌えキャラがアニメ会社で頑張る萌え系日常アニメ。
本来は地味〜な風景であろう、アニメ制作の様子を見事に素晴らしいエンターテインメントに仕上げています。凄い。
各話タイトルや作中内で、"アニメファンが好きそうな要素"以外の部分は、全てアニメ業界がどうあるべきか、どうしていくべきか、アニメはどうあるべきかをテーマにしています。なぜ、そんなことを描く必要があるのか。
1つ目は、アニメ業界は儲からないということ。
もう昔からですが、底辺業界だと周知の事実です。
もちろん売れる作品や海外のアニメファンを開拓するような作品もたまには出ますが、それでも基本的にアニメ業界で働く人達の給料はあまりにも低い状況です。
2つ目は、アニメ業界もアニメファンも時代の移り変わりとともに世代差が出ること。
例えば、宇宙戦艦ヤマトや初代ガンダム、他にはSHIROBAKOの#6で登場するイデオン等でしょうか。こうしたアニメを好み、業界に入った、あるいはファンだったオタク第一世代。対して、ハルヒらき☆すた以降、萌えの爆発的なヒットでアニメを好きになったオタク第三世代。こうした世代間の差は、はっきり言ってとても大きいです。昔はアニメオタクは孤高の存在で、他の誰よりもアニメについての知識が豊富なことを誇りに思うような求道者でした。しかし群れる楽しさを知った時、アニメオタクはネットでのつながりやコミュニティで楽しむことが一番満足だと思うようになりました。周りの意見に合わせ、極端な意見は言わないように空気を読むようになりました。自分もちょうどその時期にアニメが好きになったので当事者として、そうしていました。時代の移り変わりとともに、アニメ制作における技術の進化もありますが、それ以上にアニメファンそのものがどんどんと別の人格へと変わっていきました。
当然、アニメ制作は客を楽しませてなんぼの商売です。そのために面白いアニメを作って客を楽しませ、お金を払ってもらう。というのが理想の構造です。
しかし、インターネットの普及に伴い、アニメは無料で視聴できるようになり、その感想は自由に発信できるようになりました。そうするとますますお金を払ってもらうことが難しくなる中で、制作側は客の意見をより取り入れることで生き残るしかなくなりました。客を見て、アニメを作る。客の要望を聞く。お客様第一主義と言ってもいいでしょう。
そうするとどんどんアニメはマニアックになっていきます。ジャンルは多彩になり、よりニッチな需要にも答えるようになり、結果としてアニメは大量に生産されるようになり、そのどれもがオタクが好みそうなジャンルを備えた同じような雰囲気のアニメになりました。
結果として、アニメファンだけの閉じた市場となり、1つの作品が回収できるお金は少なくなりました。大ヒットを飛ばせるのは宮崎駿等の一握りの作家だけです。
ましてや、アニメファンはコミュニティで楽しむためにはなんでもするとばかりに、アニメを売り上げだけで並べて遊ぶようになりました。作品内容は関係なく、売れたアニメを覇権、売れなかったアニメを爆死と決めつけ、それ以外の意見を排除し、まるでアニメ同士を対決させるかのような同業つぶしのようなことを始めました。映画と違ってアニメには批評が少なく、売り上げが芳しくなかった作品でも批評によって再注目、再評価されるといった土壌や環境はありません。そして市場は狭いにもかかわらず、ファンはその中で作品を並べて勝ち負けのゲームを始め楽しむ。これがアニメファンの私から見た今のアニメ業界です。
私がSHIROBAKOを見て思うのは、アニメが好きなファン、アニメオタク、アニメ業界の人達がみなで、これからアニメ業界はどうしていけば今の苦しい状況から抜け出せるのだろうか、ということをみんなで協力して考えていきましょうということです。
かつては山本寛さんが色んなところでアニメについて業界について必死に語っておられました。もちろん、彼の言葉には腹を立てた方も居るかと思います。しかし、アニメーターの給料、制作進行の激務等、アニメが好きな人なら耳にしたことはあるであろう業界の苦しい事情。これらが改善されればいいなという思いは、アニメが好きなファンなら、業界人が好きな方なら、それを抱くのが人情というものではないでしょうか?
かつて、「互いに議論し高め合わないものが啓蒙という言葉に過剰に反応する」と山本寛さんは水島努さんに怒っておられたように記憶しています。
しかし今、このSHIROBAKOで間違いなく、水島さん達はこの業界について議論し高め合おうとしているわけです。ヤマカンはやっと危機感が伝わったかと安堵するのか、それだけこの業界はもう行き詰まっていると嘆くのかわかりませんが、そういう一歩を踏み出した作品だと思います。
作中で主人公たちの制作会社である武蔵野アニメーションが制作しているアニメ「えくそだすっ!」とは"エクソダス"、"exodus"。出エジプト記より、出国,脱出を意味します。つまり、この苦しいアニメ業界の現状からの、「えくそだすっ!」ではないかと想像しています。
って感じでなんだか真面目に考えちゃってるんですが、実際はOPがストパンの石田燿子さんで大好物だったり、萌えを楽しんだり、太ったWUGに出てくる大田さんみたいな監督キャラとか若干ヤマカンっぽい演出の人とかを楽しんで見てます(笑)
沈黙の艦隊のポスターがおしゃべりの艦隊になってて草不可避..とか。
専門用語も多いですが、エンタメとして楽しめるようにとても丁寧な作り方がされていると思うので、あんまり気を張って見なくても楽しめるので、ぜひみなさんSHIROBAKO見てみてください。
気分を共有できる方がいれば嬉しいです。