ossan_2014 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「絵」の効果
原作は日常の謎を主題とした本格推理小説シリーズ。
本格としてのルールに忠実な原作をアニメ化するにあたって、推理の場面で伏線を振り返って齟齬のない様に、整合性をもって映像を設計するのはさぞかし大変な苦労があったと想像できるが、その甲斐あって再視聴に耐えうるスキのない構成を実現している。
推理物としてしっかりと作りこまれてはいるが、アニメではキャラに焦点を当てている印象で、もともとが「日常の」謎だけに、あまり推理物という意識を持たずに学園青春ものとして視聴していた人も多いのではないだろうか。
これは単に現代的でスマートなキャラデザインの効果だけでなく、アニメ化そのものが孕む、ちょっとユニークな働きがあるように思える。
原作小説は、主人公の視点で語られる一人称小説だが、その小説世界は、時として不自然に感じるほど(ささやかな)「悪意」に満ちている印象が強い。
アニメでも『愚者のエンドロール』で、{netabare}いいように踊らされたことに憤る主人公だが、なぜ「素直に頭を下げて協力を依頼する」ことをせずに「手ごまとして踊らせる」ことを選んだのかと糾弾することはない。
「踊らせる」という悪意は素直に納得するのに、明らかに効率が良いはずの「お願いする」という手段をとらなかったことに対して、疑問が呈されることはない。{/netabare}
『心あたりのある者は』でも、{netabare}「押し付けられた」偽札をババ抜きのように「押し付ける」という悪意の想定から推理を展開していくが、単に「知らずに」使用してしまったと想定しても推論の全体にほとんど影響は与えないのに、当然のように「押し付ける」を前提にする。{/netabare}
このように「悪意」を殊更に見出そうとするかのような主人公の視点だが、この視点によって「世界」が記述される原作小説では、時として鬱陶しく感じるほど、物語世界全体がゆがんで見えることがある。
この原作小説に対し、アニメである本作がむしろ爽やかな印象を与えるのは、アニメ製作者による構成やキャラデザインに先立って、アニメであるということそのものの効果が大きく思える。
一人称=主人公の主観に映った世界の描写という原作小説に対し、アニメという「絵」で描写するという事は、小説で言えば三人称描写、いわば客観的な視点からの描写を強制されているようなものだ。
この、主人公を含む各キャラクターへの、三人称による距離感が、主人公の、「悪意」にセンシティブな強迫によってゆがんだような印象さえ与える一人称の原作世界(これはこれで「青春」の味わいがある)とは一味ちがう、爽やか青春ドラマの基礎になっている。
ここまでくると、〈原作-アニメ〉という関係ではなく、独立したアニメ作品としてみてもいいのではないかとさえ思える。
青春ドラマとして良質な本作は、冒頭でも記したように、推理物としてもよく作りこまれている。
論理展開を説明する部分では、特にアニメとしての表現の自由さをフルに活用した描写が繰り返され、今後さらなるミステリー・アニメの誕生が期待される、大きな可能性を感じさせる。
推理物として、学園青春ものとして、繰り返しの視聴に耐える力作だ。