「寄生獣 セイの格率(TVアニメ動画)」

総合得点
79.6
感想・評価
1612
棚に入れた
7756
ランキング
495
★★★★☆ 3.8 (1612)
物語
4.1
作画
3.7
声優
3.8
音楽
3.6
キャラ
3.8

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ネタバレ

ぽ~か~ふぇいす さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 4.0 作画 : 3.0 声優 : 3.5 音楽 : 3.0 キャラ : 3.5 状態:観終わった

連載当時の世相を強く反映した作品。安易に現代に置き換えたのは失敗?

原作は20年ほど前の漫画です
中学生くらいの頃に初めて読んで衝撃を受けました
今思えば月刊アフタヌーンってホント
当時からすごい雑誌だったんだなぁ
大衆受けしないけどカルト的な支持を受ける作品を
この20年でいくつも世に送り出しています

原作はグロ描写やらバトルやらが多い作品なのは確かですが
この漫画の本質はそんなところにはありません
これは人間と人間以外の知的生物の邂逅と交流を描いた
非常に強いメッセージ性と哲学的なテーマ性に富んだ作品です
漫画版も絵柄で敬遠されがちですが
ちょっと我慢してでも読む価値があると自信を持ってお勧めできます
しかし、それがそのままアニメが面白いという事とイコールで結べないのが
メディアミックスの難しいところであり面白いところです

肝心のアニメの方の出来栄えですが
まぁ、原作組はアニメを観始めて違和感だらけだったと思います
ミギーの声・メガネ君・幼馴染など・・・

ミギーに平野綾ってキャストはマジでありえない
原作イメージからかけ離れ過ぎ
・・・と思って観始めたはずが
何だか観ているうちにだんだんミギーがかわいく思えてきました
原作のミギーは画風のせいもあって
たとえあーやが声を当てたとしても
ちょっとかわいいとかいう感想は出てきそうにないですが
アニメのミギーはところどころコミカルな動きをしたり
なんだか憎めない愛嬌のある寄生生物です
そんな彼からとぼけた調子で吐き出されるミギー哲学が何ともシュール
これはこれで面白いかも?
いや、むしろハマリ役のような気さえしてきました!

そのほかネットでは不評だったメガネも
ストーリーとうまくからめて覚醒の演出に使ったのは悪くなかったし
女の子達も全体的に原作よりかわいかったと思います

いろいろ改変しなくてはいけなかった最大の理由は
時代の変化にあると思います
それは原作が古臭くて時代遅れになったという事ではなくて
原作がその時代の世相を強く反映したもので
現代の時流に合っていない部分があったからでしょう

しかし、時代の変化に対応させたのは
ファッションとか小物とかそういった部分だけでした
これを2015年の作品にするために本当に変更しなくてはいけない部分
90年代と今とで大きく変わってしまった部分というのは
もっと思想的・哲学的な部分のように思います

作品初期のミギーとシンイチに与えられた役割は
人間の持つ二つの側面
「公」と「私」
あるいは
「理性」と「感情」
にありました

作品が形成された時期というのは
アメリカに追いつきそして追い越せ!
という高度経済成長時代の意識が時流に合わなくなりつつあり
バブル崩壊という一つの転換期を迎えていた頃です

それまでの理想とされていたような
受験戦争に打ち勝ち
一流企業に就職し
社内での出世争いを制し
ライバル会社を出し抜いて
世界と戦っていくような企業戦士の
「理性」的な「公」の部分を重んじる考え方と
家族を思いやり
恋人や友人を大切にし
生き物を慈しみ
敗者に情けをかける
「感情」的な「私」の部分を再評価する動きが
互いに綱引きをしながら
日本中が葛藤していた時期です

手という言葉は昔から仕事や仕事をする人の意味で使われています
シンイチの利き手である右手を乗っ取り
冷徹に合理性を追求する初期のミギーは
そんな「理性的」な「公」の象徴

昔は心臓とかHeartなんて言葉からわかる通り
洋の東西を問わず胸部に存在するとされていた心は
科学の発展とともに脳にあるものと考えられるようになってきました
幸運にも脳の奪取を回避し
ミギーの考え方に相容れないものを感じながらも
生きるためにミギーに従うしかないシンイチが
そんな「感情的」な「私」の象徴

そこからスタートして最終的には
{netabare}
ミギーを失ったシンイチは後藤に勝ち目のない戦いを挑みつつ
「いま俺を動かしているのは、勇敢さでも人間側を代表して戦わなきゃって言う使命感でもない。明日になれば俺が連れてきた怪物によってさらに多くの死を見ることになるかもしれない。いい加減俺の番だろう。俺だけが生きながらえているのは何かがおかしい。俺がけりをつけるべきなんだ。そこには確実な死しか待っていないかもしれないけど」

「道で出会って知り合いになった生き物が、ある日突然死んでいた。そんな時、なんで悲しくなるんだろう」
という問いにミギーは
「そりゃ人間がそれだけヒマな動物だからさ。だがな、それこそが人間の最大の取り柄なんだ。心にヒマ(余裕)がある生物、なんと素晴らしい」

どちらも初期に割り振られていた役割とは真逆の性質のセリフで{/netabare}
そこに至るまでの過程を含めこの到達点こそが
当時の混迷を照らす一つの灯りのような道しるべだったように思います

原作から20年の間に色々な社会の変化がありましたが
そのうちの一つが勝者に関する意識の変化です
古い時代の勝ちというのは
軍国主義の時代も高度経済成長の時代も
相手を打ち負かし叩き潰す事であり
自分が敗者にならないために常に他者を打ち負かし続ける
弱肉強食のwin-loseのモデルです

しかし21世紀に入ったあたりから
win-winという言葉が一般社会にも浸透していきました
足を引っ張り合って相手を打ち負かすゼロサムゲームではなく
協力してお互いに利を得るプラスサムな勝利が理想になりました
つまり個として頂点に立つのではなく
「勝ち組み」という流行語からも読み取れるように
勝利陣営の中に自分を組み入れることを目標とするようにシフトしていきました

他者との協調の価値を見出さない初期のミギーの考え方は
古典的なミニマックス戦略に則っており
合理的ではあるが人間味に欠けるものでした
しかしより現代的なゲーム理論を取り入れて考えていくと
その考え方は合理的ですらないことになります

協調戦略が最も合理的である場合が存在することを
有名な例をあげて解説しておこうと思います
苦手な人にもできるだけわかりやすくを心がけてはおきますが
興味のない方は読み飛ばして構いません

{netabare}紹介するのは囚人のジレンマについて

あなたは友人と海外旅行に来ています
友人とカフェで日本のアニメの話で盛り上がっていたら
突然武装した現地の秘密警察に逮捕されてしまいました!

どうやらサイコパスや残響のテロルについて語っていたのを
テロの計画を練っていたと勘違いされてしまったようです(笑)

あなたと友人は別室で取り調べを受けています

あなたたちが二人とも自白した場合は
両者とも国家反逆罪で懲役10年の刑です

あなたたちが二人とも潔白を訴えた場合
紛らわしい行為で混乱させた罪で二人とも懲役1年の刑です

もしもどちらか片方だけが自白し
もう片方が容疑を否認した場合
自白したほうは司法取引で釈放され
否認したほうは懲役20年の刑です

別室の友人が自白しているのかどうかはあなたにはわかりません
さぁどうするべきでしょう?

{netabare}もしも友人が自白していたら・・・

あなたが自白すると懲役10年
しなかった場合は懲役20年
自白したほうが刑が軽くなります

もしも友人が黙秘していたら・・・

あなたが自白すると無罪放免されます
しなかった場合は懲役1年です
自白したほうが刑が軽くなります

つまり相手が自白しようとしまいと
自分は自白したほうが刑が軽くなるのです

{netabare}秘密警察の執拗な尋問と
友人の裏切りへの恐怖から
あなたはついに自白させられてしまいました

そして同じように自白を強要された友人とともに
懲役10年の刑が言い渡され
刑務所に護送されていきます・・・

もしも友人と連絡を取りながら
相談して態度を決めることができるならば
二人とも否認して懲役1年で済んだはずです

他人の利害を無視し
自分の利益のみを考えれば
相手がどんな選択をしようと
自白したほうが有利です

これは初期のミギーの考え方そのものですね
しかしその選択は両者の協調の結果と比べてみれば
ちっとも合理的でないことがわかるはずです{/netabare}{/netabare}{/netabare}

ミギーがシンイチの持つ書物から知識を得るならば
高校生の持っている本の内容なんてたかが知れているので
他者とのコミュニケーションの機会を一切持ったことがない以上
協調の合理性に気が付かなくともおかしくありませんが
インターネットを使って知識を手に入れているアニメのミギーであれば
この程度のことは簡単に理解できたはずです
つまりインターネットなんてものを
何も考えずに出してしまった時点で
ミギーはもっと柔軟で現代的な思考ができないと筋が通りません

という事で小物や服装を現代にしても
ミギーやシンイチの思考の推移はあくまで90年代の総括なので
現代の物語としてしまうと大分意味合いが変わってきてしまう部分があります
しかしその部分を変えてしまったら完全に別作品になってしまうわけで
時代設定の変更自体が原作の奇跡的なバランスを殺してしまう暴挙であるとわかります

しかし、アニメだけであれば20世紀の時代設定のままでのアニメ化もありでしょうが
実写映画のプロモーションの意味合いが強いアニメなので
実写側が現代という時代設定で行くことが既に決まっていたら
この作品は90年代じゃないと意味がないんです!
なんて突っぱねるわけにもいかないですし
ある程度の設定変更は仕方ない部分なのかもしれません

でも結果出来上がったものを見て
この作品はお勧めできますか?と聞かれたら
アニメや映画ではなく原作を勧めるしかないですねぇ・・・

投稿 : 2015/04/10
閲覧 : 446
サンキュー:

39

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