101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
先のことばかり気になっていたあの頃…
非常に繊細な青春アニメです。と同時にこれは今の時代には受けないとも感じました。
明かりのない田舎の山に来たら普段は見えない星が見えて来た…。
そんな感覚で心を静めて細かい心理描写を拾っていって、
初めて少年少女の揺れ動く心の機微を感じることができる作品だと思います。
こんな感想を宮沢賢治作の童話『グスコーブドリの伝記』の
酷評多数の2012年作のアニメ映画なんかでも感じた覚えがあります。
本作に対する純文学的作品との評はなるほど当たっていると思います。
私は特に先の事ばかり気にしてそわそわする少年少女たちと、
それを見守る大人たちの対比がうまく描けているなと感心しました。
青春時代、明日あの子と私はどうなってしまうの?とか
この一言が仲間の亀裂を深める可能性とか
先のことばかり気になってしょうがなかった。
そしてそれが傍から見れば挙動不審な言動となって表れる。
その一連の過程を本作は丁寧な心理描写で解明していたと思います。
それに対してそれを温かく見守る大人たちの何と落ち着いていることよ。
子供たちの突飛な行動を非行と否定せず、むしろほくそ笑んで楽しむこの余裕。
今起こった事を一つ一つしっかりと受け止めていく。
この地に足の着いた達観こそが大人なんだなぁと感じ入りました。
(もっとも過去の自慢話等で墓穴を掘り空回りしている悟れない大人も中にはいますが(笑))
正直“未来の欠片”を巡る一連の出来事については私もわからないことが多いです。
謎解きばかりに気を取られているとこちらまで迷宮に迷い込みそうになります(苦笑)
けれど本作をひと夏の経験を経て大人への階段を上っていく
青春物語として楽しめば十分に満足し得る作品だと思います。
仰々しくカタルシスを煽る昨今のBGMとは真逆の
心情に合わせて繊細に変化する音楽。
“未来の欠片”に気を取られて浮足立った少女が、
先を読み過ぎるとしくじるガラス工芸に挑んでいる構図。
私にとってはいろんな点でセンスを感じる逸品でした。