ossan_2014 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
One And Only……ワンマン・アーミーの意味するもの
鉄と油のにおいが漂ってくるようなメカが、強烈な印象を残す。
ポリマー臭や電子臭のするようなメカよりもツボに入ってくるのだが、主人公が単独で修理、運用するストーリー上の要請とぴたりと噛み合って、一つの世界を構築する強力なピースとなる秀逸なデザインだ。
評価は決して低い方ではなく、発表後30年たっているが、本作の後継と目されるような作品は、いまだに目にすることはできない。
本作の、独特の印象的な作品世界を生み出す設定も演出も、すべてがひとつの主題のために緻密に用意され構成されているのだが、同じ主題がないため、必然的に同じ印象の後継作が登場しえないように思える。
本作について、主人公キリコ・キュービーの魅力が語られることは多いが、主題が話題になることはあまりないようだ。それは、ある意味、キリコ自身が主題そのものと言っていいからだろう。
そう、本作のテーマは、社会的な主題が多い諸作品とは異なり、言ってみれば実存的なのだ。
主人公キリコの行動は、最初から状況に強制された緊急避難として登場する。そして以降の52話に及ぶ全ストーリーにわたって、状況に流されながらひたすらに今日を生き延びることを求めて駆け抜けてゆく。
この行動に、何か目指すべき目標や理想といったものは皆無だ。求めるものは、ただ今日の生存であり、ストーリーの一つの軸であるキリコの出生と世界の秘密にしても、「生存のために必要な」知るべき情報である限りにおいて、キリコの関心を呼ぶに過ぎない。
出生と世界の秘密自体は、それを知ることによるアイデンティティの確立が、その「秘密がもたらす状況」の圧力が、自身の生存に対して決定的な影響力を持つ、という媒介を経てしか、キリコを動かすことはない。
文字通りのワンマン・アーミーとして、全世界が自分を殺しにかかる状況に、一人、自身のみで対抗するキリコにとって、生存こそが究極の目的だ。
こう言い換えられるかもしれない。生存=実存が究極の目的であると。
(潜在的に)全世界がキリコ一人に敵対している、という状況は「唯一無二の私が、ひとりで全世界と対峙している」という実存主義哲学の世界観と全く構造を同じくしている。終幕において、神=全世界と同一化するものとして生存を保証される誘惑をキリコが退けるのも、「私」という実存こそが主題であることを示しているように思う。
この「実存」という主題は、優れて「青年」的であるといえる。
バトルもののアニメでは、2つ(あるいはそれ以上)の勢力の争いとして設定されている作品がほとんどだ。
古典的で典型的な例では、「正義の味方」が「悪の軍団」と戦う物語。
主人公が、正義の勢力の代表として、「みんなの期待と希望を一身に集め」、悪を撃つ。
主人公と「みんな」の意識がブレなく一致して発揮される一体感は、少年誌のキャッチフレーズ「友情」「努力」「勝利」と同型的で、自他の自我があいまいに溶けあっているような、極めて「少年」的なものだ。
あるいは共同体の一員である主人公が、その責任ある大人の当然の義務として、防衛の戦いを遂行する物語。
いわば「成人」的な類型か、(青)少年的な類型、アニメでは主流のこれら類型に比して、中間である「青年」に主題を置いた作品は、ほぼ見られない。
自他があいまいで他者も自身と同じであることを無自覚に信じる少年期と、自立した個人として所属する共同体の義務を承認する大人。
両期の移行において、「唯一無二の自分と全世界の対峙」を経験する「青年期」にフォーカスしたアニメ作品は、やはり本作にとどめを刺す。
(作中の描写としてキリコに同調者が登場しないわけではないが、第一義的には生存のための都度の協力者という側面が強く、少年類型的な仲間とも存在性格が異なり、成人類型的な共同体を構成しているわけでもない。)
ワンマン・アーミーの戦いを特に好むのは、青年期の実存に二重映しするからかもしれないが、時代遅れの感性だろうか。
何かというと国家の特務機関や秘密結社に所属したがるラノベ原作アニメの主人公を見ると、後継作への期待は望み薄だが、本作が観かえされる機会が増えるといいなと思う。
ラストで虚空へと漂流する主人公。
生存を行動原理とするゆえに自殺は絶対に選択し得ない主人公が、「世界」に叩き付けたこのギリギリの回答に、「青年」特有の決断を見て、今でも深く感動する。