退会済のユーザー さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
見上げ続ける空、うつつと地続きの夢のあとさき
端々に不吉な予感が漂っているように見えてしまうのは、歴史の後先を知ってしまっているからなのか、音が効果的なのか?不吉さと浪漫とが混ざり合います。
技術の追求欲にとりつかれた者たちの、果敢で哀れで滑稽で純粋な生き様でした。力強くも儚く面白かったです。
昭和の暮らしぶりの描き込みも見応えありました。
様々なシーンが蘇ります。
上司の髪がわっさわっさ揺れながら飛び歩く姿もおかしかったです。
歴史を俯瞰的に見つめる視点は情景描写にも表れていて
関東大震災の起きる様が、ドン、と水面を叩いたあと円形に波打つように広がって、大地の上の家々も円形の波動を受けて大きく手前と奥と上下する描き方が、強力で斬新と思いました。
見返りを求めずやるべき事にたんたんと真っ直ぐ向かい、表情が読めない瓶底眼鏡の主人公。
しかし想い人の吐血の知らせに動揺しながら、向かう列車の隙間で身を屈めて仕事の書類に必死で書き込みながら、涙がボタボタと落ちる様は、言葉にならない哀れさが伝わりました。
この人は飛行機を作っているけれど、列車が似合いますね。
混み合った客車を避けて、接続部分近くに後ろ向きか横向きに腰を下ろして。行き先に向かって、止められない列車。
創造と破壊の荒風の中で作り続けられる、夢の飛行機。
東日本大震災で津波に工房をさらわれた木工作家の方の記事で、
瓦礫の中でぼうぜんと立ち尽くしていたら、ふと木製のおもちゃのクルマや人形を見つけた…
かつて、生まれた子供に遊んで欲しくて、喜んでくれるのが嬉しくて作った、素朴な形の物だけが、道標のように残されていた…
賞取りや作家の力量を現すために作ったものは全て流されていたのに。
これから作るべき物がそこに示されている気がした、という文章を読みました。
そんなふうに足元に小さな真理を求める人もいる。
宮崎監督にとっては、そういう原点的な素朴な作品は、「パンダコパンダ」でしょうか。
この主人公は足元は見ず、関東大震災にあっても「風が吹いている」と空を見上げ、舞い飛ぶ火の粉に飛行機を重ね、先に続く大きな仕事のことを夢見ていた。
幼い頃、夢の中の先達の語りかけに「ハイッ」と大きな寝言を言えた程の素直さそのままに、「美しい」夢だけを追い続けた。
この、繰り返される夢の地続きな示し方も、昔の邦画のようで心憎いですね。
庵野秀明の声。
wikiに監督による主人公の声のイメージは「滑舌良く早口で明朗」とありましたが、そのイメージは少年期のみでは…?
青年期担当の庵野声はモソモソとうわの空で腹に力入ってませんよ?でも、それがよくあっていたと思います。この主人公はうわの空がぴったりですよ。菜穂子さんを抱いていても、人体肋骨と鯖の骨のラインの違いと飛行性能を考えていたかもしれません。
そう納得するととても自虐的で、やはり大人向けで、うーん、面白いです。