sekimayori さんの感想・評価
2.9
物語 : 1.5
作画 : 3.5
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
踊る少数報告 OSHII KOUKAKU COMPLEX ファイナルカット(酷評注意) 【30点】
心理状態や適性が数値化された世界で、それをもとに犯罪の取り締まりを行う公安局メンバーと犯罪者との戦いを描く、近未来SFポリスストーリー。
新編集版で観たけど、内容同じようなので感想はこっちに。
はっきり言って、出来が悪いと思います。
特に最終盤には、色相曇りました。
私も各話の引きの良さと中盤の面白さに、途中まで楽しみに観てはいたのですが。
【○良い点】
①監視官と執行官の、上司/部下とも恋愛感情ともつかないバディの信頼関係
②男性執行官陣のキャラ配置:ベタだけど機能してた。
③OP/ED:EGOIST人気に納得。
④各話の引き:脚本の引きとEDの入りは巧み。
⑤中盤:特にヘルメット事件、淡白な演出が逆に恐怖を煽って素晴らしい。
【△少し残念な点】
①キャラの掘り下げ不足:狡嚙の動機となる元同僚すら魅力が描かれなかったのは残念。
②刑事ドラマ:掘り下げ不足がたたってテンプレ感が。
③ご都合主義:狡嚙の推理力高すぎんよ……。
④槙島の小者化:笑い男のような社会変革を目指す啓蒙的思想犯かと思いきや……。
自己承認欲求で動く駄々っ子に落ちた揚句、「ライ麦畑で捕まえて(はぁと)」エンドかー。
「シビュラ後」のパラダイムの提示を期待したんだけど。
ただ、槙島・狡嚙二人の物語としては綺麗に纏まってたと思います。
【×悪い点】
①「法」というテーマの扱い方
②雄弁すぎるセリフ回し
③雑な設定
先述のように良い点はもちろんあるのです。
繰り返しになるけど、中盤はとても盛り上がりました。
ヘルメット事件とか、製作者の意図と内容・演出がかみ合ったほんと素晴らしい出来。
ただ、上で書いた欠点があまりに大きく感じられて、ここからは批判ばかりになります。
批判書くより新しいアニメ観る方が建設的だし色相にもいいのにね……。
■セリフ回しと衒学的要素の拙さ
{netabare}
とにかく説明口調のセリフが多すぎ。
設定も推理も感情も過去の出来事も、口頭で説明しすぎて非常に陳腐です。
その弊害として、衒学的なセリフが上滑りになっていた。
名著・古典からセンテンスを丸ごと抜き出し、いちいち著者名までつけて解説してくださる。
なるほど親切でわかりやすいし、啓蒙的にも容易な道でしょう。
でも「わかりやすいペダンチックさ」って、それ自己矛盾な気が……。
断片的情報を自発的にググらせてこそ、ネット社会の衒学趣味とか啓蒙だと思うんですが。
また、ペダンチックな引用が物語に(例えばメタファーとして)関連したり、作中の雰囲気作りに一役買っていたりもしていない。
本広総監督はパトレイバーや押井守のファンらしく、押井チックな衒学語りをしたかったようです。
でも劇パトを見るに、押井さんの衒学趣味って、独特の長回しや都市情景の描写、サスペンスとして質の高いプロットとかみ合って初めて、あの重苦しくもインテリっぽい雰囲気を醸し出すために機能してるように思える。
そのあたりの配慮を欠いて、しかも設定ボロボロな本作で賢しらな引用を繰り返されても、寒いだけでした。
作中で「スタンドアローン」って言葉を(ネットワーク上にあるコンピューターに対して!)使ったり、攻殻機動隊とか押井守に対してかなり過敏になって作られてしまった作品に思えます。
もちろんマーケティング戦略もあったのでしょう、宣伝で攻殻の名前出してたらしいし。
その点、出自が不幸だなと感じる部分はあるんだけど、ただやっぱり私の期待からは程遠い出来でございました。{/netabare}
■設定厨的な戯言
{netabare}
ディストピアSFの体裁取ってるにしては、設定はガバッガバです。
SF詳しいわけじゃない自分が普通に観てて「は?」とフリーズするくらいの瑕疵が多いのは、さすがにいただけないですよ。
例えば、ヒューマンインザループの不適切な配置。
画一的な判断を回避したりシステムの暴走を抑えたりするために、機械的なシステムの一部に人間を組み込んで判断形成に関与させる、っていうことなんですが。
公安局はその発想で作られてる一方、安全保障的には同等以上に重要な他のセクションでは、ひたすらに人間が排除されている。
シビュラシステムがあるビルも食糧生産工場も、警備は全てマシン依存。
いくら監視網が発達してるからって、シビュラさん余裕こきすぎです。
小麦による食糧自給も、かなり驚愕。
単一作物に自給を依存してるって、おい……。
生物進化の歴史=環境変動に備えた突然変異の集積、だという進化論的見地に立てば、このシステムの設計者は中学生物レベルの知識がないか、もしくはリスクヘッジって言葉をそもそも知らないとしか思えない。
そりゃ普通に考えて狙われるよアホかと。
あとまぁもちろん、シビュラの警察機能は欠陥多すぎ。
刑法上の刑罰目的論としては、応報刑論ガン無視で目的刑論一辺倒なシステムです。
応報刑論:犯罪処罰の本質は、犯罪に対する社会全般の応報(≒報復)感情にあるとする。
応報感情は犯罪の重さに比例するので、刑罰も犯罪の重大さに比例(罪刑均衡)。
目的刑論:犯罪処罰の本質は、犯罪の予防にあるとする。
一般予防(社会全体への威嚇)と特別予防(犯罪者本人の再犯防止)がある。
刑罰は重いほど抑止につながるので、不当に刑罰が重くなる可能性をはらむ。
犯罪を事前に取り締まる=目的刑論しか考慮してない、っていうのはもちろんヤバいんだけど、SF的には無視しても大丈夫というか、元ネタのマイノリティリポートがそういう作品なので突っ込むのは野暮。
ただそれを考えても、やっぱりうまいシステムじゃない。
被害者も係数上がって処罰されまくるってのは、結局犯罪者扱いの人間をどんどん増やしてるってことで、対処療法に過ぎない上に一般予防が果たされていないという。
あと、センサーに映らなければ係数確認されないからプライベートルームに侵入して殺人→室内で遺体処理ってのも、普通に監視カメラに映ってないのかな?
女学生殺しでも、学校にセンサーつけとけと思いながら観ておりました。
機械依存とか食糧自給とか監視カメラ社会とか、社会風刺しようとしてるのかもしれない。
ただ総じて、作中であまりにツッコミどころ満載に描かれてるので、現実に引き付けては考えられないんですよね。 {/netabare}
■「法」というテーマの杜撰な扱い方
{netabare}
長く書きすぎてますが、最後に。
ぶっちゃけ、本作の「法」というテーマの扱い方に反感を覚えました。
シビュラの設定については、刑罰目的論以前に、罪刑法定主義とか適正手続保障とか推定無罪(疑わしきは罰せず)、といった近代法の基本原則から逸脱したものです。
ところがそんなトンデモシステム導入の経緯については、かなり不透明。
つまり、一応民主主義的・立憲主義的な現在の日本社会との接続が全く語られなかった。
この時点で、シビュラと法律を関連付けてまともに語るのは設定上厳しくなります。
単なるディストピアSFとして見るなら、そこは問題にするところじゃない。
そーゆー設定なのねってことで、システムと法は峻別して流すべきです。
ただ、本作は最終盤でいきなりシビュラシステムを「法」と同列に扱い、シビュラの現状維持を認める過程で、朱に語らせます。
「法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです」
「人間のよりよい世界を求める祈りが築き上げてきたのが法なんだから」と。
ここに至って、本作の「法」に対する扱いの雑さが顕現してくる。
基礎法学の講義とか受けてたので、後半部分には完全に同意です。
ただ、それを前半の理由づけに使ってはいけない。
人々の努力の結果だから、誤っていたとしてもそれを順守しなければいけない、というのは、「悪法も法なり」と言うのと同じです。
ソクラテスはそう言って毒杯を仰ぎましたが、先述の近代法の諸原則にのっとり「法の支配」のもとにある現代では、「悪法は法ではない」と言ってよいと思います。
法の支配:国家権力を法で拘束することで、民衆の権利や自由を守る、という考え方。
(追記:この「法の支配」の理解は、「日本の」「通説的」なものです。
イデオロギー色強めだよね、というご指摘を頂きましたがその通りです。
元々の英米のrule of lawはもっとフラットな、機構の記述的な色彩が強いようです。)
本作をある種の思考実験と捉え、視聴者にシビュラの是非を考えさせるという意味では良い結末かもしれない。
また、警察機能以外での貢献とシステム崩壊に伴う混乱を考えれば妥当な落としどころ。
余談だけど、ウロブチさんってまどマギでも「特定の領域・人物の犠牲による最大多数の最大幸福」を結末にもってきてて、現実主義的・功利主義的なお話が好きなんでしょうか。
しかし、それまでに「法」をテーマとして語っておらず、設定上も法律を扱うには無理がありすぎるにも関わらず、いきなり「とりあえず悪法も法だけど、いつか誰かが壊しに来るから」でオチっていうのは、個人的にはかなり神経逆なでされました。
ザルシステムを提示した揚句、唐突に「法」という理解も描写も欠けたテーマで大きく見せ、結局現状維持でFAというのでは、現実主義を気取って視聴者を煙に巻き結論を放棄した、とのそしりを免れないと思います。
たかがアニメに何を青筋立ててるんだって言われると、それまでなんですけどね^^;
要は、設定穴だらけの深みのない脚本で知ったかぶりで法律語るのはさすがに失礼じゃねえか虚淵?って話でした。
ひたすらとげとげしいレビューで、気分を悪くされた方もいると思います。
申し訳ありません。{/netabare}
やばい2時間以上レビューに費やしてしまった。
マキシマムが朱ちゃんのヘルメット攻撃に沈んだ時点で、ギャグアニメとして観るか視聴断念しとけばよかったよ。
自分に合うアニメか否か、係数で示す技術をだれか発明してほしいものです。
【個人的指標】 30点
(2014.10.12)
追記:2014.1013