逢駆 さんの感想・評価

4.6
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態：観終わった

～七転八起～

めげそうで　しょげそうで　泣きそうでも　
咲きそうだから
そう　もうすぐ咲きそうだから
だから私は叫びたいんです―――――


ドラマチックな生活を夢見て温泉旅館へ移り住んだ主人公･松前緒花が
旅館で出会う仲間たちとともに様々な経験をし成長していく青春『おしごと』ストーリー。
独特の優しい空気に包まれているどこまでも前向きで清々しい作品です。
辛いことや悲しいことも、どこか温かい目線で描かれていました。

本作の重要な要素のひとつとして『走る』という行為があります。
それはキャラクターであったり電車であったり…。
特に主人公の緒花はいつも走っている印象がありました。
迷ったらとりあえず動いてみる。どこに向かっているのか分からないときもあるけれど、
それでも自分の気持ちに正直に前へと進むために。
真っ直ぐにしか走れないから、その分たくさんの困難にぶち当たったりもします。
でも踏み出す足を止めないからこそ乗り越えていくことができます。
頭でいくら考えても良い答えが思いつかず、つい打算的になってしまうとき、
そんなときは一度、全速力で走ってみるのもいいのかも。
電車のように自分の道を全力で走り抜ける緒花に何度も胸を打たれました。

また緒花を取り巻くキャラクターは、癖の強い人たちばかり。
2クールかけてじっくり描くことによってみんなに愛着を覚えました。
そんな彼らはまるで、作中に登場する｢ぼんぼり祭り｣のぼんぼりのように
ぽつぽつっと進むべき道を迷子にならないように緒花を照らしてくれているかのよう。
みんなが照らしてくれるから、みんながぼんぼっているから、真っ直ぐに走ることができる。
そして彼女もまた誰かのぼんぼりになっていました。
仲間たちとの繋がりが力強く描かれていて本当に素敵でした。

物語としては、若干すっきりとしない話があったりしたものの
ラストまで観るとあれはあれで良かったなと納得できるものがありました。
作画についてはもう流石の一言。文句のつけようがありません。
少し靄のかかった淡くて清々しい朝の風景や、息を呑むほどに美しい雲。
喜翠荘も実際にあの丘の上にあるんじゃないか、そんな気分にもなりました。
どの場面をとっても本当に素晴らしく、場の空気が見事に伝わってきました。
もちろん背景だけでなく細かい芝居の部分も丁寧に描かれていて良かったです。



せわしなく過ぎる日々の中で花を咲かそうとしている蕾たち。
たくさんの光を浴び、風を感じ、水を飲む。
これから咲こうとしている彼女達の姿はとても眩しくて、愛しくて、気持ちよかったです。

やりたいことも、楽しいことも、見つけられるかは自分次第。
「明日も一日、ぼんぼるぞ！」
未来への意志を感じさせるP.A.WORKS 10周年記念作品に相応しい一作でした。