イシカワ(辻斬り) さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
幻想美の世界
記載されているレビューに対する反論・論戦を行いたい人は、メッセージ欄やメールで送りつけるのではなく、正しいと思う主張を自らのレビューに記載する形で行ってもらいたい。したくない時、受諾しない時は以降の文章を読み進めないこと。受諾する方のみ文面を読んでもらいたい。参考になったと思うときのみ、参キューしてほしい。
蟲。生命の根源が現象とも生物ともはっきりいいきれない特異なものとして浮かび上がってくる存在。
過去にあった怪異をネタにする作品とは明確に違う独自性がこの作品にはある。
この作品を分析すると二つの大きな軸で成り立っているのがわかる。
まず第一の軸は、人間の目から一瞥すると、幻想的かつ夢想のようにしか思われない謎として現れてくることだ。
一夜にしか掛らない橋であったり、天から降りてくる一本の糸であったり。
なぜ、そのような現象が起きているのか、まず想像もつかないのである。
第二の軸は、蟲の行動が、実に合理的かつ理論的なものであり、何より生物学的な見地から正体と生態が割り出される事にある。
この二大軸によって、過去にあった妖怪や怪異のように、説明するにも文学的な遊びが先行し、それらを定義づけてきたのとは根本的に異なる形となった。
大半のものは生態として明確化してしまうのだ。
葉や樹木に擬態している生物と同じように、蟲はさまざまなものに擬態する。
それが虹や雲、最後には人にまで及んでいく。また、子孫の作り方までしっかりと考えられているのだ。
蟲師ではない人間から観た擬態は夢想の産物としか思えない不可思議なものであり、現実の中に現れた抽象的な存在として目に映る。
この抽象画めいたものを題材として完成させたのが、蟲師という作品なのだ。
主人公・蟲師のギンコがどうやって生計を立てているのかなども、あえてぼかし、わざと説明せずに済ませたりしていないことも好印象だ。
パトロンとも呼べる存在や、蟲にまつわる物品の売買などのシーンが登場する。
それが一見して荒唐無稽な蟲師という存在に生々しい息吹を与えている。
幻想的な蟲という存在を主軸にしている中にリアリティがある、それが物語を支えているのだ。
蟲を単なる害蟲として排除するようなストーリーではない。時として、難儀な問題を抱えながらも共に生きることを選択していく。それがギンコの処し方であるが、言葉として出されることはない。視聴を続けていくことによって自然とそれがわかってくるのである。
スタンスからプライドを滲ませる演出は深い感慨を与える。無言のメッセージは重厚だ。
OP・EDともに人の姿は描かれておらず、ほとんど資金を使っていない。
逆に本編での細部に渡る映像の書き込みは、まず他のアニメでは見ることができない美術的な価値がある。
予算を一番大事なところだけに集中させて使おうという配慮がうかがえる。
説明しにくい蟲という存在を、これほどまでに追及し、ストーリーとして完成させることの難しさは驚異ですらある。
淡々として進行していく中に描かれる緻密な設定とストーリーを是非堪能してもらいたい。
あまり知られていないが、紛れもない名作だ。
追記
レビューに記載された言論を規制したい人は、個人の意見を以てするのではなく、あにこれの法的論拠に基づいて規約に記載する必要がある。
運営諸氏に連絡し、説得し、規制を規約に付け加えてもらうこと。