景禎 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
最後に引き金をひいてやろう
世間の評価はかなり低めですが、自分的には最高レベルの評価です。
完全オリジナル作品。坂道のアポロンや、最近ではスペース☆ダンディを手がけた渡辺信一郎さんが監督。音楽は菅野よう子さん。ジャンルは社会派アクション。社会派作品としてのメッセージは受け取り方によってはかなりインパクトが強いと思われます。まずは製作側の勇気とそれを許したフジテレビの決断に脱帽します。
テロ=悪の図式を覆す内容なので、さすがに「テロ」とは言わずにドイツ語で「テロル」と言ったのかも知れないですね。もちろん語感もあるとは思いますが。
社会派と言ったのですが、日本政府や米軍や既存の政党に対して何らかの政治的なメッセージを発信することが、この作品の目的ではありません。その意味で言えば「迷える若者(高校生ぐらいの)の青春もの」と言うほうが適切なのかもしれないですね。
しかし、青春ものとしてこの作品を鑑賞するにしても、国家とは何か、軍とはなにか、とりわけ米軍とは日本でどういう役割を担っているのか、といった政治的知識が無ければ意味不明になるか、全くの誤解になる場合が多いのも確か。そういう意味でかなりハードルの高い作品と言えるのかも知れないですね。
さて、いつもどおり平たく言ってしまえば、ある特殊な施設から脱走した恐ろしく頭のいい二人の少年と、家庭と学校でいじめを受けるダメダメ女の子がテロをする、というお話。純粋にシリアスです。ギャグ要素は全くなし。
1話アバンは雪の中、{netabare}青森県の核燃料再処理施設から核物質が奪われるシーンから入ります。{/netabare}オープニングを挟んで、蝉が鳴きまくる真夏の東京へ。気温差40度のこのコントラストの強さが、最終回ラスト15分への表現上の伏線となります。1話目の{netabare}都庁崩壊シーン。2001年の米国同時多発テロを髣髴させるシーンですが、{/netabare}この衝撃シーンも、最終話のさらに衝撃的なシーンへの表現上の伏線です。
ところが、物語の序盤~中盤、いや終盤になっても主人公二人組みの行動の目的は不明のまま。さらに中盤以降は米国から来たヤンデレ女も加わり、いったい彼らは何のために何をしようとしているのか?という疑問は深まるばかり。これはこの作品の演出方針なのでしょうが、このあたりで脱落していく視聴者が続出したものと思われます。
この作品の特徴というか、まず一番目を引くところは、何と言っても爆発や破壊シーンのリアルさです。{netabare}1話目の都庁崩落や警察署の爆破{/netabare}なんか、見ているこちらでさえ思わず頭を手でかばってしまいそうになるほど。{netabare}地下鉄爆破{/netabare}もすごいし、{netabare}羽田空港の飛行機の爆破シーンの、爆発する機体が前のめりになって滑走路に擦り付けられるところ{/netabare}なんかリアルそのもの。実写以上です。
次に、ヒロイン三島リサの天然ドジかわ。なにをやらせてもダメダメな彼女。{netabare}最後は大逆転の大手柄みたいなのがあるのか?と思いきや、そういう期待もあっさり裏切り、最後までナインとツエルブの足をひっぱり続けます。そんなリサに、ツエルブは心から「ありがとう、リサ、君に会えて、よかった・・・」と言います。{/netabare}これがこの作品のメインのメッセージであろうと思います。
最後は、全11話を一つの作品として統一的に捉えたときの形式美、といえるかな。1話冒頭の強いコントラストは最終話ではさらに強いコントラストとなって現れる。一話の{netabare}都庁崩落{/netabare}という衝撃的なシーンは、最終話の{netabare}核爆発{/netabare}というさらに強烈なインパクトへ。白い羽根が舞い上がる印象的なシーンが繰り返し使われ、最後に最終話のEDで使われる。というようなところ。
この作品の見どころは、なんと言っても最終回。まさかの{netabare}原爆爆発シーン{/netabare}の大迫力、というか美しさには本当に参りました。「本物より本物っぽい」の極み。誰も見たことのないシーンのはずなのに、なぜこんなにリアルに描けるのか・・・
{netabare}美しすぎる爆発シーンのあと、高高度核爆発が引き起こす電磁パルスによって、すべての情報機器が麻痺して静かになった日本。そんな中、施設跡の廃墟で三人が過ごす平和過ぎるほど平和なひと時のシーンが、BGMと相まって印象的。そこへ柴崎刑事が現れ、これで幕引きかと思った直後、いきなりすぎる米軍へリ出現。ツエルブ射殺。ナイン慟哭。リサ放心。
普段ほとんど感情を表に出さないのに、このときだけは感情をむき出しにするナインと、それとは逆に普段から泣き虫なのに涙ひとつ浮かべないのリサの対比は、目の前で起きたことに対する衝撃の大きさがどれほど大きかったか、でしょうね。{/netabare}
あっという間に1年が経ち、{netabare}彼らの命日。ナインとツエルブの墓参りに来た{/netabare}リサと柴崎が、どこにでも有りそうな小さな川にかかる橋の上で偶然出くわし、二言三言立ち話。そして、白い羽根が下から上へ降る象徴的なシーンとともに青空へパンアップ。そしてエンドロール。この辺りの「あっさり感」も私好み。
{netabare}結局最後は米軍が彼らの思惑どおりに幕引きできたようです。こういうところも爆発シーンと同じで実にリアルですね。現実の世界と同じだな~。と思っていたら、なんとエンドロールの中に「協力 米国防総省」の文字が・・・あるワケないだろ。しかし、それにしても生々しい。米国筋からなんらかのクレームが上がっても全く不思議はない。{/netabare}
この作品を貫くポリシーには「コントラストの強さ」または「対比」があるのでは?と思います。1話冒頭の真冬と真夏、氷のように冷徹に見えるナインと太陽のように明るく暖かく見えるツエルブ。ナイン、ツエルブの能力の高さとリサのダメダメさ。そういうコントラストの強さの表現の総まとめとして、最後の{netabare}核爆発の強い閃光と爆発後のオーロラの淡い光{/netabare}があるのではないか、と思います。考えすぎ?
Steins;Gateのそれを思わせるOPの動画、OPが動ならこちらは静のEDの動画。そしてそれらのバックの音楽とあわせて、芸術作品と言ってよいほどの完成度だと思います。BGMは全編をとおし画面とマッチしていてすばらしい。さすが菅野さんです。