シェリー さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
こんこんと雪の降る冬の夜のような静けさ
あるところに、狭い路地を挟んだお向かいに少年カイと少女ゲルダが住んでいました。
2人はとっても仲良しです。互いの2階の部屋を通じるように木の板を置き、その上で2人一緒に薔薇を育てていました。
冬が訪れを告げる頃、カイは雪の女王の悪口を口にしました。
それを聞いていた雪の女王は怒ってカイに雪のかけらをぶつけます。
雪のかけらはカイの目と心臓に刺さりました。
かけらの刺さった目はおろかなものを見つめ、心臓に刺さったかけらはその者の性格を悪く変えてしまいます。
そしてカイは大好きだったはずのゲルダをいじめ、雪の女王と冬と共にどこかへ行ってしまいました。
大好きなカイを攫われてしまったゲルダはカイを取り戻すために動物や自然と会話をしながら探しに行きます。
少女ゲルダの冒険です。
1957年に作られたアニメーション作品です。
古い作品ではありますがこころに訴えるものがあります。
決してお粗末なものではありません。登場人物たちの動きも、画だってちゃんとしています。
それに僕は個人的にこういう方が好きだったりもします。
レコードで聴く雑音まじりの音や観客の声や拍手、咳が聞こえるものが好きなようにちょっと昔のアニメーションは好きです。
セル画の動きや、クリアではなくよく見るとざらざらとした感じが良い。
内容だってそこらのものではこれに敵いません。
「わたしのカイはどこ?」と叫ぶゲルダの諦めず屈しない想いがひしひしと伝わってくる物語です。
たくさんの人と出会い助けてもらいながらもひたすらカイを追い求めて彼女は進みます。
ひとりの少女に降りかかる苦難としてはいささか大きいながらも、
動物の力を借りながら進む様はファンタジックで素敵な反面、ゲルダはとても一生懸命に前を見つめます。
その懸命な姿は観ていて一緒に熱くなるようなものとは違い、見守ることしかできない苦しさがあります。
ゲルダはなによりもカイを連れ戻したい。その一心で行動します。
カイのことを訊くときは両手を伸ばし、すがるようにして彼のいどこをつきとめようとします。
後ろから触ればすぐに倒れてしまいそうな脆いゲルダの姿は観ていて少し辛くなります。
声もそうです。ロシア語で何を言っているかは字幕を見なければ分かりませんが、悲痛の叫びであることは分かります。
機械の性能上、あまり大きいと音が割れてしまうその声も感情を表わしているように感じました。
一番好きなシーンは山賊の娘との出逢いから別れ。
ここはちょっと泣いてしまった。
寂しさを埋めるためか、好きなものにいじわるをしてしまう不器用な女の子。
かわいいと思った動物をみんな檻に入れ枷を付けて閉じ込めていました。
けれどゲルダと話していると自分が不適当で間違ってる気がしてきてしまう。
最終的には、彼女はゲルダを助け、さらに動物たちも逃がしてしまいます。
「どっかいっちまえ!」って泣きながら鞭を打つ姿が悲しくもどかしい。
そのあとに彼女に寄り添う動物たちに涙です。
この映画が収録されているDVDには特典映像の中に『鉛の兵隊』という作品があります。
この作品も素晴らしいです。
鉛が足りずに一本足のまま作られたおもちゃの兵隊のお話。
彼はみんなと集団行動ができず、独り寂しい思いをしていました。
ある日、いつものように箱に入れず独りで外にいると湖面を踊るバレリーナと彼は出逢います。
お互いひと目で惹かれ合いました。
バレリーナには時間の制約があり、2人が会うことができるのはほんの一瞬です。
しかし、やっと幸せを見つけた兵隊の前に悪い魔法使いが立ちはだかります。
そのせいで2階の窓から外に落ち、さらに流され川に沈み、ついには魚に食べられてしまいます。
けれども、その魚も漁師に捕まり、兵隊のお家に売られ、奇跡的に兵隊は生還を果たします。
彼は急いで彼女の元へ駆け寄ろうとします。
しかし、暖炉を下りている途中にあの悪い魔法使いがまたもや邪魔を仕掛けてきました。
これも運の悪いことに兵隊は彼のせいで暖炉の火の中に落ち、行く手を火に遮られてしまいました。
もう戻ることはできません。彼は柳の木のように死を待ちます。
それを見たバレリーナは悲しみに暮れますが、それも束の間。
兵隊がお別れを言っているところに、決死の、最期のジャンプで彼の元へ飛んでいきました。
それを見た悪い魔法使いはショックで灰となり小さく消えてしまいました。
炎の中、片足の兵隊とバレリーナは見つめ合い、そして抱き合います。
熱によってお互いの身体が溶け、死が迫りくるのも恐れず、抱き合って最期を迎えました。
有名なお話ですが、なぜでしょう。このアニメーションは本当に素晴らしく、深く感動しました。
兵隊やバレリーナの寂しさや儚さを鮮明に描き出しています。
不条理な運命がどれだけ人を苦しませるのか、
また皮肉にもそこに秘められたなにかは僕らに美しさを感じさせてくれます。
このアニメ―ションは全体的に非常に良くできていますが、やはり一番は最後のシーン。
兵隊が別れを告げる最中に、バレリーナが自分の命を顧みずに彼の元へ飛び、
そして抱き合い、兵隊が首を落とし静かに目を閉じます。
僕はこの場面をなにかに憑りつかれたように何度も繰り返し観ていました。
「悲しいけれどすごく綺麗!」なんて平易な言葉ではこれを表わすことはできません。
どれだけ説明しても説明尽くせないものがこのシーンにはあります。人を惹きつける強烈ななにかが。
それは言葉を超越し、体を揺さぶるほどの感覚を映像を通して伝えてきます。並大抵のものではありません。
両作品共に素晴らしいものでした。
ロシアアニメの共通点なのかは分かりませんがこれらはどちらとも、
非常に静謐な描写で、たおやかでありながらその奥からとても強い力を感じました。
何を言っているのか分からないロシア語もその一端を担い、
その流麗な性質が感情を上手く表現しこころの琴線を優しく触れていきました。
僕はこの2作品がとても好きです。ぜひ一度観てみて下さい。