田中タイキック さんの感想・評価
4.5
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 5.0
状態:----
こんな日くらいは奇跡を信じたい
2003年11月8日公開 上映時間92分
クリスマスの晩、三人のホームレスがゴミ捨て場から赤ちゃんを拾うという小さな奇跡から始まる
喜劇的かつ人情味あふれるジェットコースタームービー。
自称、元競輪選手のギン、元ドラァグクイーンでオカマのハナ、家出少女の高校生ミユキ
生きてきた歴史がまるで違い、各々が複雑な過去を持った三人がホームレスという同じ境遇の下
聖書もドストエフスキーも投げ捨てて、寒さに耐える防寒着と飢えを凌ぐ食べ物を求めながら日々をギリギリで生きてきた。
そんな三人が偶然拾った赤ん坊のためにおむつを替え、ミルクを用意し、本当の親の元へ帰すため東奔西走する。
三人が赤ん坊との関わりの中で忘れかけていた愛情を取り戻し、冒険の中で関わりあう人物との触れ合いで人情を取り戻す。
仄暗く冷たい東京の背景と相まって人の温もりがより強調されているよう。
よく言う「悪い人が一人もいない世界」では決して無いけれど、本作の登場人物はどれも人間臭くて憎めない人ばかり
たとえ自分にとって最悪な人がいても、その人は別の誰かにとっては掛け替えのない人だったりするわけで
そんな当たり前すぎること、故に忘れがちなことを思い出させる作品。
そういう温かさと同時にエンターテイメントとしても非常に良く出来ている。
最初にジェットコースタームービーと言ったように展開が止めどなく流れ続け
シーンとシーンの間の有機的な繋ぎが抜群に上手い。
物語を動かし続けながらも主人公3人の内面を「家族」というキーワードで呼び起こし
しっかり掘り下げることで起伏のある展開なのも良い。
そして感傷的な気分になりかけているギリギリの所で再びコメディパートへ引き戻される。
右へ左へ揺り動かされる感覚はとても楽しいが、やはりこの部分が強引でご都合すぎて気になる人はいるかもしれない。
終盤、一段ギアを上げるようにアクション性を高めたスラップスティックや、画面全体の明度の低さを感じさせない人物の表情作画。
万札の諭吉の顔や、ミユキが何枚も重ね着した衣服を脱ぎ捨てる演出等もストレートかつ効果的に決まっていて
リアリティのある背景やキャラデザの中でアニメ的ケレン味を終始感じさせてくれたのも大きな魅力だった。
【総評】
物語のシンプルさゆえに感想も簡単なものになっちゃうけど、只々楽しい。
笑って笑って、泣きそうになるけどまた笑って、そしてほんのちょっと暖かくなる。
作品を構成する要素の全部がどうしようもなく楽しい作品でございました。
去年の冬に初めて観て今年もまた観てしまって、毎年1回は観たくなる数少ない映画のひとつになりました。