三崎鳴 さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
黒い鉄格子の中で私は生まれてきたんだ
Production I.G制作オリジナルアニメーション作品。ドラマ『踊る大捜査線』の監督として知られる本広克行が、虚淵玄をメインライターに迎え入れて企画された一作。近未来SFと警察ものをコンセプトにしている作品だが、世界観自体は古典SF作品の数々を彷彿とさせるもので、オマージュあるいは原点回帰的なイメージが強い。人間の心理すらも数値で統制される社会、心理傾向をサイコ=パスとして個々人の犯罪傾向を犯罪係数として割り出し、銃で裁く。完璧かのように思われたシステムはしだいに矛盾を露呈し始め、それに対抗すべく主人公、常森朱監視官は立ち上がる。哲学者の言葉の引用が多く、台詞も説明口調が散見されるため、硬派を地で行く作風であり、何より『攻殻機動隊』を彷彿とさせる。ネットを扱った事件や学園を舞台にした事件など、前半はオムニバス形式だが、後半はひとりの犯罪者を追跡するパートになる。一話丸ごと説明に費やしている回もある為、構成は良いとはいえないが、2014年に放送された新編集版では1時間の尺を取っているため、こちらが丁度良い。作り上げられた秩序と平和に疑いの目を向けた時、社会の基盤は崩れる,『法が人を守るんじゃない、人が法を守るんです』とは本作の台詞からの引用だが、この一言に全てのテーマが凝縮されていると思われる。つまり、我々が法(=社会の基盤であり、システムである)に忠実でいようとも、法は我々に完全な安寧をもたらす事はない。虚淵作品では魔法少女(まどマギ)やAIロボット(ガルガンティア)、アルドノア(ALDNOAH ZEROといった)システム(あるいは強大な力と言い換えてもいい)のもとで展開される物語が多く、頼っていたシステムが牙を向いた時のキャラクターの反応を通して人間性を描いているのだ。
余談だが、2014年7月26日、長崎県佐世保市にて女子高生殺害事件が起きた。これが本作の王稜瑠華子篇の内容に酷似しており、新編集版4話は放送自粛された。マスメディアのように“アニメの影響”などと騒ぐつもりはないが、人間は判断力と理性を持ち合わせている生き物であるという基本認識は再考に値するだろう。