こたろう さんの感想・評価
3.8
物語 : 5.0
作画 : 2.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
物語に釣り合っていない映像
小説原作。SF作品。
原作は日本SF大賞の受賞作だそうで、そのネームバリューからか期待度の高いアニメ化だったようです。
超能力が使えるようになった人類が迎える未来の世界のお話。
未来といっても、現代の文明は崩壊し、自然豊かな中で超能力を使う人類が細々を暮らしている世界観です。
主人公(女)の子供時代から始まり、思春期、大人に成長した後の3部に別れた構成。
超能力人類の歴史にまつわる闇と謎を軸に物語が進んでいきます。
先に結論を述べさせて頂くと、非常に面白く、そして、”残念な”作品でした。
作画崩壊がひど過ぎる。第5話で既にヘロヘロになってます。
せっかく物語の核心に触れて展開していくという重要な回で、あまりにも言い訳のしようのない稚拙な作画。
描き込みが少ないだとかデッサンが崩れているだとか原画の個性出過ぎてキャラデザインとかけ離れているだとか・・・そんな類の作画崩壊ではありません。そういうのだったら、まだ苦笑して見過ごせます。
そうではなく、映像としてのいい加減さが明らか。
キャラの表情が台詞と状況にあっていない
動画のコマ数が少ない
その影響でカット割の変化が不自然
結果、なにが起きているのか非常に理解しづらいアニメーションになっています。
諸般の制作事情で作画の質が下がることなんて珍しくもないことですが、それを誤魔化す方法がお粗末すぎでした。
SF&ファンタジー系なのに本編にはロクな解説もなく、視聴者に映像やストーリーを追うことで世界観を理解してもらおうという作風であるにも関わらず、その映像に大きな欠損がでるのは致命的な失敗。
とにかく、これで本作に対する好感度は急下落。
大作ぶって、CSで別の番組枠(設定などを紹介する「新世界よりクロニクル」という番組)まで設けてプッシュしてるのに、このテイタラクには正直ガッカリでした。
秀逸なストーリーだ、本格的な大作なんだと制作TV局は誇らしげに煽っているくせに、他の回の作画も決して褒められるような出来ではないので余計に心象を悪くしています。
作画崩壊していなくても、アクションシーンやキャラの表情に不自然さが目立ち、それを独特の色使いと引きとアップを頻繁に切り替える画面構成で補って及第点ギリギリを何とか保っているんですから、見る目が厳しくなっても仕方ないでしょう。
この映像は、味のある演出なんだ。
この世界観を表現するための作風なんだ。
とでも言えば聞こえはいいですが、正道から外れた特殊な演出ってのは、ベーシックな事がちゃんと出来てる者がやってこそ意味があるもの。
超能力を見せるアクションにしては地味すぎる動画と、声優の熱演に全然追いついていない人物の感情表現など、素人の私には単に力量不足にしか感じられません。
暗がりでの行動が多いのに、明度の低い画風を採用して非常に見辛い映像にしている意味も不明。
「絵」としてのダメさを正当化する理由が見つけられないのは、私に審美眼のセンスが欠けているからなんでしょうかね?映像作品である以上、見る人に理解しやすい、わかりやすいってのが一番重要であって、それを演出だ芸術だで誤魔化されるのが気に入らんのです、結局。
とまぁ、作画は散々にコキおろさせていただきましたが、ストーリーは非常に面白い!
超能力者が普通に存在する世界、その事から発生するであろう社会問題や人間心理がちゃんと設定に盛り込んでありSFとしての考証の裏付けの仕方も説得力があります。
へんに飾らず、人間のナマナマしい部分にも向き合っており、骨太のSFファンタジーと評していいでしょう。
その世界観を少しずつ解き明かしていくミステリアスな話の運び方も秀逸。いい意味で適度に不安感と焦燥感が維持されていて、続きがどうしても気になってしまいます。
爽快さなどには無縁ですが、もの凄く多様な含みのあるテーマ性も特徴。
表面だけを単純になぞらえれば、悪いやつが居てその野望が・・・という十数年にわたる一つの事件を描いたものですが、根底に潜む人間の業や差別、人が作り出す醜悪な社会システムの異常性や残虐性などを考えずにはいられない内容。
主人公サイドの視点だけでは決して善悪を語れない深さがあり、視聴後も、いつまでも心に引っかかる印象深い作品でした。
ハッピーエンドでもバッドエンドでもない余韻の残る締めくくりがまたニクい。
複雑な気持ちになりますが、達成感や満足感は確かに得られるのがお見事です。
総評すると、
ストーリー展開でワクワク&ハラハラさせられ、
映像としての不備でモヤモヤ&イライラさせられた作品。
重くて含みの多いテーマは見る人を選びそうですが、物語としての面白さは文句なしです。
アニメ映像としての出来には文句を言いたい事だらけですが。
SF大賞受賞には納得の面白さ。
ハクの付いた原作を引っ張ってきておいて、ちゃんと完成度を高めることができなかった製作陣やTV局の責任ですね。つくづく勿体無いと思います。
作画なんか気にしないよ、面白くて深い話が観たい!って人にオススメです。