plm さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
沼地語
物語シリーズセカンドシーズンのうち、神原駿河をメインとした全5パートのお話。
アニメのセカンドシーズンとは別枠で放送され、作中時系列的には最も後の物語。
ざっくりとした感想を言えば、これまでの物語と比べると真面目系ですっぱりとした内容だった。
掛け合い的面白さでいえば、全5パート中2パート目の焼肉編がピークで、
キャラの滑稽な会話を楽しみにしている人にとってはパート2だけ観れば十分といった具合。
それ以外は主に、花物語の新出主要キャラである"沼地蠟花"の人生哲学を聴いていくような内容。
他人の思考や生きる姿勢(スタンス)に興味がある人なら、こちらも楽しめるのではないかと思う。
語(かたり)シリーズなことを思い出すぐらいに、今作は一人語りを長々としているので、
正直アニメを観ているというより絵のついたラジオを聴いてるような感覚かもしれない。
■今回の件から得るべき教訓は……
{netabare}
「大抵のことは逃げれば解決する」
これは頑張りすぎてしまう人に向けて効果的な考えだと思う(例:逃げちゃダメだ。逃げちゃダメだ。)
もちろん"あらゆることを逃げに徹するのが良し"とするのは極論だろうが、
世の中には"何事にも立ち向かわなければならない"とする極論も少なからずあるであろうから、
これに対するならほどよい反抗姿勢だろう。
時として自分にも他人にも厳しい考え方は、誰も幸福にしないし、
一つの考え方に凝り固まってしまうと、視野が狭くなって目の前が真っ暗になってしまうこともある。
多くの苦悩は未来に対する不安からくるものだ、というのも一理あるのだろう。
そのため考え方の多様性を示唆するため、あえて極論を持ち出すのも大事なことだと思う。
「人には多面性がある」
・好きな奴が好いてくれるとは限らないのと同様、嫌いな奴が嫌ってくれるとは限らない
・全方面に対する悪なんて存在しない。どんな悪も何かを救っている、どんな正義も何かを傷つけている
これも物事の一面だけみて良し悪しを判断してしまうのは軽率である、別の視点で見れば違うという話。
本作の主人公の神原駿河も、今までのシリーズからすると、
阿良々木くんと変態的な会話を弾ませるキャラといった程度の印象で、
即自的な掛け合いは面白くても、いまいちキャラとしての個性や魅力が分かっていなかった。
本作では素の神原駿河というキャラクターを知ることができる物語、という位置付けもあるようだ。
人は他人がいることで、自分という個を認識できる。他人との違いが自分の個性であるから。
つまりキャラクターというのは、そもそも相手がいることで成り立つものであるのだろう。
それ故に"阿良々木先輩が望むようなキャラ"を演じることが神原のアイデンティティになっていた。
他者の存在によって人物像は変わる。これもまた人の多面性を示すエピソードの一つだと思う。
阿良々木くんの存在によって多くの登場人物が色を得ていた、と言い換えることもできるかもしれない。
「やらずに後悔した方がいい」
やらずに後悔するよりやって後悔する方がいいという言葉について問答する場面があった。
これもよく物事を押し進める際に使われる言葉であるが、何事にも当てはまる言葉ではない。
何の根拠もなくやって後悔した方がいいという決断を下すのは愚かだ。
やらずに後悔した方がよっぽどいいことも多々あるだろう。
こういった格言はそれっぽくて説得力があるが、物事を単純化させて思考を奪ってしまうこともある。
沼地のセリフは、こういった考えの固形化に対して警鐘を鳴らすものばかりで教訓めいていると感じる。
"一番いいのは、やって後悔しないことだ"
その一方で神原が出す答えは、訓示を受けた上で自分が出した答えであった。
やらずに後悔するか、やって後悔するかという提示された二択に甘んじない答えをだすこと、
それができたこと(それに向かっていこうという意気込み)は、自身で考えた結果であるからだと思う。
{/netabare}
■花も恥じらうお年頃の物語
{netabare} 阿良々木フィルターを失った素の神原は、作中どのキャラより素朴で
個性が薄いくらいのどこにでもいそうな普通のスポーツ少女になってしまった。
「花物語」で掛け合い的面白さが薄いのは、身も蓋もないが主人公が阿良々木じゃないからなんだろう。
けれど話の展開としては阿良々木パターンを踏襲しているように思う。
自分が出る幕ではない(その必要がないと分かっている)ことに首を突っ込む。
見て見ぬふりをしてもいいし、何の得にもならないようなことだけど、自分の納得のためにやる。
自分が必要とされない状況に打ちのめされながらも、決意を固めて立ち向かう。
散々奇妙な会話を交わしつつも、そこに行き着くのは"ひねったようで王道"な物語シリーズらしい。
阿良々木くんに言わせれば"青春をしたんだ"らしいが、
阿良々木くん今回なんもしてないし、お前の好きにやればいいさとか、
なんで無責任に知った風な口を利いているのかと、阿良々木くんはちょっと大二病だと思う。{/netabare}
■焼肉編
{netabare} 笑えて面白かったパート2だけれど、見方によっては切なくなる秀逸なパート。
というのも貝木は前の物語で死を仄めかすようなラストを締めくくっていた。
詐欺師だから死んだように見えたのも嘘だよ~んといわれれば、なんだそうかと納得してしまう人物で、
何事もなかったかのように登場していたが、しかし今回のお話の肝となっているのは"幽霊"だ。
あの貝木が奢ってやるだなんて似合わないことを言い出したのも、
この世に残った未練だったからと思えば納得がいくし、
神速天使の神原に圧倒的走力で追い抜いてきたことにも説明がつく。
幽霊に行き会う話として統一されていたとすれば、物語としても辻褄が合う。
あいつはやっぱり幽霊だったのか……
そう考えると貝木が焼き肉店から去っていくシーンが、もう二度と会うこともない
最後の施しのシーンだったのかと、どうにも物悲しく感じてくる。
……でも個人的にはそれを見越した上で生きてました的な、やっぱりギャグだと思っている。
なんかこんな議論をされるあたり面白キャラすぎるだろう貝木。{/netabare}