ゆき。 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
街中の街路樹で。
街中の街路樹、周りを見渡すと水彩画のような鮮やかな風景が広がっています。
その場所に、年若く見た目も幼い少年がいました。見た目は、童顔でふんわかとしていて可愛らしい。髪は、ミルクチョコレートのように茶色く、甘たっるい雰囲気も醸し出しています。名前は、二鳥修一。
その少年にはひとつの悩みがありました。思春期の男子が抱く普通の悩みとは違う独特の悩み。それでいて、どういう悩みか説明しようとすると、上手く説明が出来ない酷な悩み。まるで、生まれたての子羊が親を見つめて、何かを伝えようとするもどかしさを感じます。
彼は、女の子の衣服を身につけたかったのです。でも、それは、悩みの本質的な部分でしかなく、彼は女の子になりたいのか、それとも女の子の衣服をまといたいだけなのか、自分の気持ちに気づけないでいたのです。
その悩みは深刻で、お姉ちゃんの洋服を見るだけで、女装してみたいと云う気持ちは強まるばかり。ついには、その洋服を着ようと思って、手を伸ばします。
触ってみると、ふわふわしてて本のちょっと気持ちが良い。ぽかぽかとした感覚が体全体を覆って、自分の心が温まるようで...。
彼はゆっくりと可愛らしく、その衣服を身にまといました。鏡を持ってきて、自分の姿を見る、なんだかちょっと落ち着く。そういうエキセントリックな行動を何回も繰り返していました。
そんな彼ですが、男の子になりたい女の子、よしのちゃんに出会うことによって、自分が女の子になりたいのではないか、という疑問を抱き始めます。今までのモヤモヤが晴れるかのように、また自分の内面にあったものを吐き出すように、彼は胸のうちに秘められた願望を理解するのです。
でも、途中で、自分の気持ちが分からなくなります。「僕は、女の子になりたいんだよね、でも、本当にそうのかな。本当は、女の子の衣服を着て、弱い自分を隠して、満足したいだけなんじゃないだろうか」という天使と悪魔のような、彼の二つの思考が、頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱してしまいます。心の葛藤は激しく、劇の最中でも、その劇の脚本を書く過程でも、彼はうちに秘められた思いに振り回され続けるのでした。
そんな二鳥くんが心を悩ませる最中、よしのちゃんが、学校に男装をして登校してきました。二鳥くんは、よしのちゃんが男装をしている姿を見て、ついに自分の気持ちを抑えられなくなって、胸のうちに秘められた思いを爆発させます。その翌日、彼は女装をして学校に登校します。周りから見ると、分かっていた人もいるものの、ほとんどの人が知らなかったので、かなり衝撃的な出来事だったみたいです。その出来事の後、彼を避ける人も多く、気持ち悪いと罵る人も大勢いました。彼女とも、当然、別れを告げられます。
この出来事は、彼にとってショッキングな出来事だったでしょう。実際、その後、彼は不登校になり、土沼に吸い込まれるような、抜け出せそうにない精神的なダメージを受けます。友人に元気づけられて、再び登校は出来るようにはなりますが、心にしこりを残したままでした。
声変わりが訪れ、ショッキングな過去が蘇るかのように、彼の記憶が精神を襲います。そんな悩みと過去を彼は、胸のうちに秘めていました。
街中の街路樹、人は混んでなく、かといって少なくもなく、暖かな空気が周りを覆っている。吹き抜ける風は、ほのかに甘い匂いがして、ちょっと気持ちいい。
ボーッとしているうちに、なんだか昔のことを思い出してしまような、そんな雰囲気が辺り一帯に広がっていました。
二鳥くんは、その鮮やかでレトロな風景をぼんやりと眺めていました。まるで、その風景が彼に何かを訴えかけているかのような、道化師よりもタチの悪い写真家の演出方法。
さて、そんな風景から、彼はあることを感じ取っていました。その風景は、全体像は綺麗にレイアウトされたような精密さを醸し出していたのですが、もっと細かなパーツを見てみると、ちょっと歪で人の手が加えられていないところがったのです。それが、彼の心の扉を開けるキーになりました。
そう。世界は謎に包まれている部分は多いですが、身近にも分からないものはあります。本のちょっと、視野を広くすれば見えること。彼は、「女の子になりたい」という気持ちに拘りすぎて、もっと本質的な何かを見失っていたのです。
それは、詳細な言葉に出来るものではなくて、イメージとして何となく分かるもの。そして、それが「放浪息子」のテーマでもあるものです。「性同一性障害」ばかりに目を取られていて、見落としていたもの。というか、そもそも、二鳥くんは「性同一性障害」ではなかったんです。思春期の視野の狭の狭さに邪魔されてただけだったんです。本当は、女の子みたいにオシャレしたかっただけなんです。それは、「二鳥くんが男の子に恋心を抱かずに、よしのちゃんも、興味を持った女の子も、全員が女の子だった」ということが証明しています。彼は、女の子に憧れていただけなんです。
そして、二鳥くんが見た歪なものは、「実はどこにでもあるもの」だったんです。つまり、二鳥くんが見落としていた本当の気持ちというのは、誰だって一度は思い描くことだったんです。思い描いていたベクトルは違いますが、本質的な部分は同じだったんですよね。だって、オシャレをしたかっただけなんですから、そんなこと、思春期の青少年が思い描いても、おかしくないのですよね.....。
☆
街の街路樹。夕日が昇る頃。可愛らしい女の子が微笑ましい顔しながら、ちょっと小走りで、夕日の近くまで走っていた。まるで、何かを解き放ったかのような...そんな顔で。