Dr.コトォ さんの感想・評価
4.2
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
あなたを乗せた飛行機が
宮崎駿氏の長編アニメ最後の作品(?)。
正直言って、「最後」の作品としては本当に素晴らしいものを見せてくれたと
思いました。
物語は、堀越次郎という実在の人物を元に、
美しい飛行機を作りたいと願う設計士の半生を描きます。
{netabare}
現実の堀越次郎は第2次世界大戦にて国内で多用された戦闘機「零戦」の設計者なのですが、
宮崎駿監督の物語の中で描かれる堀越次郎は、
ただただ、ひたすらに純粋です。
美しい飛行機を作りたい、
その飛行機にどんな人が乗ってもいい、
どんな用途に使われたっていい、
ただ美しく空を飛ぶ飛行機が作りたいと願い、努力し続けます。
そんな中、里見菜穂子という女性と出会い恋に落ちます。
しかし菜穂子は当時不治の病といわれた結核を患い、体は弱っていました。
二人に既に時間は残されておらず、二人は早々に結婚します。
次郎は変わらず美しい飛行機を夢見続け、仕事に没頭します。
体の弱った菜穂子は当然、次郎と会う事がなかなかできません。
しかし、菜穂子もまた、仕事に没頭する次郎を見るのが好きなのです。
{/netabare}
やがて次郎は、自身最高の飛行機を作り上げます。まさに夢の結晶。
しかしそれが何に使われるかといえば、戦争です。命を奪うために使われたのです。
だから次郎は、夢に向かって走り続けるうちに、すべてを失っていくのです。
いや、むしろこれではまだ有りがちな物語でしょう。
じゃあこの作品は単なる夢破れた者の物語なのかといえば、そうも見えません。
終盤、次郎は泣きはしますが、
苦渋に満ちた、あるいは生気を失った様な表情は少しも見せません。
むしろすがすがしさすら感じさせています。
きっとそれは、どんな悲劇を引き起こしたとしても、自分の夢を追い続けられたからでしょう。
どんなものが失われようとも、その記憶は単に自分の夢の色付けに使われていく。
これはエゴだと自分は感じました。
何かを作る人間が抱くエゴ…ですね。
だからこれで最後なんですね、何かを作る人間の究極の夢がここにあるのだと気づかされました。
だからこのキャスティングなんですね、庵野秀明氏。
何かを作って誰かに伝える人間のエゴを表現できた駿監督の友人。
賛否両論ありましたが、今ではこの声以外ではこの作品は成り立たないと強く感じます。
最後は自分も他人も全てがズタズタ…、でもそんな話題さえも酒の肴にできる。
良い悪いの議論にもはや意味など無く、
そういう人間だから作れる物語なんだと思います。