退会済のユーザー さんの感想・評価
3.8
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
タイトルなし
本作は人間の生をテーマにしたドラマが主に展開されているが、それよりも、シリアスな設定をコメディに仕立て上げるセンスにとくに感心することが多かった。
全身不随の佳奈、限られた命であるならばせめて女としてより多くの体験をしたいと望むカズミ。日常パートでおもに身体を張ったギャグを披露したのが、この二人なのが驚きだ。
シリアスな設定の重い気持ちを、シリアスな雰囲気で長ったらしく語らせるのではなく、ふとした場面でポツポツと呟かせるに留めているのが良い。彼女らが望んでいるのは、そんな重苦しい非日常なんかではなく、憧れていた日常なのだから。
また、カズミに限らず、誰からも人として、女性として接してもらったことがないであろう彼女らが、可愛らしいチョロインとして描かれることも、本作では大きな意味がある。
そこに、研究所の存在や自分らの境遇を憂う者はいない。それこそが、彼女らの望んだ日常だ。
暗い設定を序盤のうちに提示し、要所要所に盛り込むに留めるからこそ、彼女らが過ごすなんら変哲もない普通の日常が特別楽しげに映るんだ。そこで和気藹々とラブコメやギャグに興じる彼女らの可愛さも。
そんな彼女らの日常を支える主人公が、これまた良い造形をしている。
機転の良さ、洞察力の高さを持ち合わせながらも、自分の中にある感情を常に優先させ、感情を押し通す為に知性を駆使する。
一直線のバカであったなら視聴がストレスになっていたかもしれない。でも、こういう賢いバカは大好きだ。おっぱいの好みに関しては、分かり合える気がしないけど(カズミの胸を馬鹿にしたことは許さんぞ)
彼が本当に賢いだけの人間であったなら、ヘクセンヤクトの理屈に動かされていたかもしれない。それはつまり、九とも同じになってしまう。九に向けた「俺はお前とは違う」と、ヘクセンヤクトに対する「あんた等のやってることは、九と同じだ!」の発言は、村上良太という人物を実に的確に表現していると言えるだろう。
一方で、物語の転がし方、終盤の構成は欠点に挙げざるをえない。
物語の転がし方についてだけど、全体的に雑。どこが、とか一々指摘してくのがわずらわしく感じてしまうぐらいの多さだ。序盤の方で挙げていくならまぁ勿論薬が無くなってしまうという展開だよね。
個人的に、とくに「は?」ってなったのが、寧子=クロネコと判明するキッカケとなったのがギャグパートで、そこからいきなりシリアスになって主人公が泣き崩れる流れな。他にやりようはいくらでもあっただろうに……。
また、全体的に漂うチープさも如何ともし難い。
作画面では別に気にならなかったんだけど、個人的には人が溶ける場面を初めて観ても同様しなかった主人公に対して「お前ほんとに一般人か?」ってなったり、研究所から偶然脱走して無一文のはずの寧子らが私服を所持していたりと、細かいツッコミどころが少なくない。
勿体なかったのは、主人公の【一度見たものは忘れない】という設定が、もうひとつドラマを盛り上げる要素にならなかった点かなぁ。
終盤はこれに加えて構成自体もお粗末と言うしかない出来。
もっとも、終盤でOPが変わったことから考えても、制作現場でクールの短縮とか、なにかしらの事情があったのかもしれないけど……。(前期OPの方が好き。なんやあの後記OP。ふざけてんのか……)
それでも、同じく原作5冊分を圧縮するにしても、もう少し構成のしようはあったはず。
圧縮したことに関して、不満はない。なんせ物語はまだまだこれから。アニメで一区切りつけるには、多少無理矢理にでも区切りの良いところまでもっていった方がいい。
・寧子が、研究所を出てから村上との今までの記憶を忘れてしまった
・佳奈は動けるようになった代わりに予知能力を失った
・薬による延命は約束されたけど、ヴィンガルフとの対決はおそらく避けられないでろうこと
といったように、先が気になる要素は充分にある。ヘクセンヤクトと協力関係が結べるのかも、注目。
アニメではポッと出で終わってしまったが、ヘクセンヤクトも充分に物語を盛り上げられる要素だろう。
不評は大いに頷ける作品だけど、僕は大好き。