kwm さんの感想・評価
3.6
物語 : 2.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
『説明不足』 気合が空回りした大作
全26話でGONZOの10周年記念として作られた作品。
父親が残した『ヴァンシップ』と呼ばれる小型飛行艇に乗って空の運び屋を営んでいた少年『クラウス』と相棒である幼馴染の少女『ラヴィ』
二人は運び屋の仕事中に遭遇したある事件をきっかけに世界を揺るがす大きな流れに巻き込まれる事になる。
運ぶための空はやがて戦うための空へ。というお話。
ノスタルジックな懐かしさを感じさせる雰囲気と全編を通して舞台となる空の描写はとても気持ちが良い。
世界観も作り込まれているし作画も良く、描写は非常に細かく丁寧で2003年作品とは思えない。
個人的だがお気に入りの男性声優『森川智之』『石塚運昇』両氏が役を務めているのも見逃せなかった。
しかし蓋を開けてみるととても良い作品なのに『説明不足』が多すぎて作品に引き込まれるのにとても時間がかかる。
新しく接触する人物や勢力の立ち位置、何故戦っているのかといった根本的な部分の説明が欠如していて、それはもはや説明不足というよりは最初から説明する気が無いような完全な視聴者置いてけぼりの展開になっている。
とても印象的だったのが、主人公の幼馴染の女の子が『水』を注文するというシーン。
ある酒場で彼女が水を注文するのだが、それに対しマスターが『時価となっており本日は80クラウディアで御座います』と返し、彼女は『は、はちじゅうクラウディア?!』と驚くという一連の流れがあるのだが、それまでに水の価値がいかほどかを一切説明していないので、視聴者側に驚きが全く無い。
この世界では水がとても貴重な資源で飲み水の他にもヴァンシップが飛行する為の燃料の一部としても使われているのだが、作中にはこうした説明はなく、これらは全てWikiなどで調べないとわからないのだ。
彼女が水を注文した時点で視聴者側に水が貴重な資源であるという認識がなければならないし、80という通貨で他に何を買う事ができるのか知っていなければ、その価格設定に対する驚きに視聴者である我々は共感する事ができない。
水資源の貴重さ、更には物価を知っていて初めて一緒に驚く事ができるので、それがない状況では『そ、そんなにするの?!』と驚かれても、見ているこちら側としてはポカーンと眺めているしかない。
せめて驚いた台詞の後に『そ、それなら一週間分の食料が買える値段よ?!』とか一言付け足すだけでも印象は180度変わったのに、それすらなかったのが非常に残念でならなかった。
書ききれないので最もわかりやすい一例としたが、こうした完全に視聴者置いてけぼりの展開は悪い言い方をすると『製作者側の自慰作品』とも言えてしまうのであまり良い作り方ではないと思う。
細かい部分を無視して雰囲気だけでアニメを見るのに六時間以上も時間を使える人は少ないだろう。
作画と世界観は作りこまれているが、他の部分に穴が多い『ハリボテ』作品のように感じられた。
素材の素晴しさ故に『はぁ…』と溜息が出てしまうほどもったいない作品。