モモンガ喪中 さんの感想・評価

4.8
物語 : 5.0 作画 : 4.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態：観終わった

リアル・スクールデイズ

まず、当事者ではない視聴者が彼ら登場人物の人間性についてとやかく言うべきではないと思います。確かにこの話に一人としてまともな模範となる人物は出てこないのです。では一体人間とは自分の特性を把握しそれを世の中に還元するのにどれだけの時間と失敗を重ねるのもなのか。

登場人物は世の中の仕組みも決まりも何一つ知らない15歳の少年少女です。
彼らの周辺には当然彼らを正道に導くであろうはずの大人の存在が皆無です。
伊藤誠に関しては両親は離婚し母親と二人暮らしのようで、その母親もあまり家にはいません。恐らく、母親と衝突するわけでもなく親の目から見ても手間の掛からない素直で聞き分けの良い子なのでしょう。そして本人も男女ともにそれなりに人気のある良い人間であるはずと自分を評価しています。
そのように人畜無害であるはずの自分に対して女になってしまった仲の良い同級生であるはずの西園寺世界や桂言葉はもはや自分の手には負えない「なんだか面倒くさいもの」でしかないのです。誠のなかには自分の行動を戒める父親といった存在も守るべき母親といった存在がなく彼の心は空っぽなのです。
女に目覚めてしまった世界は誠を早く一人前の男にしようと手を尽くします。世界はとても弱い女性でした。本来ならば強い男性にすがりつき自分自身を支え守ってもらわなければならなかったのです。しかし、家庭は崩壊しそれらを感じ取る事もなく形だけそれなりに成長した誠という人間は非常に愚鈍でした。元々家族とも強い結びつきはなかった。糸の切れた凧のようなそんな存在でした。
だから世界のまっとうな愛情を与え続けしっかりした男に育て上げる・・・それらは全て無残に失敗します。
最後には想像妊娠という形で誠自身を自分の子供にしてしまおうという三島由紀夫の「音楽」のような展開を見せますがそれも母性の拒絶という形で報われることはありませんでした。
世界は恋人になることに失敗し母親にもなれなかったのです。
そして誠も男ではありませんでした。男になるにはもっと多くの時間や軋轢が必要でした。

人物の設定ですがこれは占星術を参照にしても非常によく描かれていると思います。
伊藤誠は天秤座ですが彼の非常に八方美人で情に流されやすい態度に皆さん「誠死ね」と感じた事でしょう。天秤座というのは男女ともに容姿端麗で非常にモテる。平和主義者でバランス感覚に優れた美的センスに恵まれた…とあります。
確かに彼はパッと見異性を惹きつけるものを持っていて争い事や諍いが嫌いなようです。それではなにが問題だったのでしょう。それはバランス感覚というものが非常に曲者で彼自身の天秤でバランスをとるために彼の中での正義が歪んだものであるならば周りはそれに翻弄される事になる。それが天秤座というものであると感じます。
ちなみに最近まで日本の首相であった管直人氏も天秤座でした。一連の行動とそれによって日本中が味わった徒労感…これこそがschooldaysであったように思います。もちろん天秤座が悪いと主張しているのではありません。自分の特性も使い方をあやまるとschooldaysとなるということです。

西園寺世界は射手座でした。後先考えずそれは放たれた矢のように目標に向かって邁進する。そういった射手座の行動原理を如実に表しています。なんでも性急に良かれと思った事をどんどん実行に移します。一連の行動の後自分の本心と向かい合う事となります。それは常に絶望なのです。みんなでいる時は明るく元気で姉御肌な彼女は一人になると膝を抱えて部屋の隅で小さくなっています。そういう世界の真実を知っていたのは刹那だけでした。刹那は誠に自分の代わりに世界を支えることを望みました。しかし、その思いは誠には伝わらなかったのです。自分の家庭の歪さに鈍感な彼はあらゆるものに鈍感すぎたのです。

桂言葉はクラス中からいじめを受け女子達から日々徴発されています。彼女は不憫ですがそれ以上に何故あのような状況をわざわざ自分で作ってしまうのでしょう。
同級生にも彼氏にも敬語を遣い正直かなり浮いているのにそれをまったく改める事もしない。15歳の子供でしかない誠にとって本当にめんどくさい女です。
それに一緒にいて面白くないという理由で振られたのにもかかわらずそれを受け入れる事もしないで精神を病んでしまいます。そんな彼女の星座はやぎ座です。やぎ座は不屈の精神と強靭的な意志の強さを持ちどんな困難にも努力で立ち向かう。時には人口工作をもし目的の為には手段も選ばない。
…つまり言葉はクラスの女子の前で弱音を吐きませんでした。それどころかすべての課題をやり遂げてしまったのです。彼女をいたぶっていた女子達は全てが悪意に満ちていた訳ではなくもう少し砕けた関係になりたかっただけではないでしょうか。
（彼氏に振られたっていいなさいよ）という台詞も本当の気持ちや姿を見せてほしかったのでは…。弱音を聞きだして言葉の気持ちに触れてみたかった。しかし、それは受け入れられる事はありませんでした。
言葉は自分の努力を信じるタイプで女の子らしく周りに弱みをさらけ出し共有する事を信じませんでした。
その強靭なまでの頑なさは誠に一度も主導権を渡さなかった所にあります。自分の理想が一番大事でありその為にはプールと水着を使い、妹を使い…言葉はいったい誠のなにが好きだったんでしょう。最初から最後まで言葉は傲慢でした。自分の夢見た馬に乗って山小屋での初体験を最後までやり遂げた。しかしそれは誠でなくてはならなかった理由が僕には見えませんでした。

男は18まで結婚はできませんが女は16で結婚ができます。
それはボーダーラインということです。女は同世代の男よりも早く大人になってしまいます。だから女が女になってしまったり母親になってしまったり妻になってしまったり娘になってしまったりそれをはたして16歳の少年が誠でなくても受け止めきれる男ってなかなかいないよな。と思います。世界は最後誠の嫁さんになってました。誠にはそれは自分の理解を超えた存在でした。
世界の用意したクリスマスの料理に対して誠が言い放った言葉は（一人で早く喰えばいいじゃないか）でした。
つまり、愛する人と一緒に食卓を囲むとかそういう感性が毛頭無いのです。お腹を空かしてイラついている。だったら早く食べればいいのに。その位にしかこの期に及んでも理解できません。
こんな子供に二人は真っ当な男性からの愛情を要求したのです。
それはとうとう叶いませんでした。

誠はたしかに酷い主人公ではありますが本来フィクションや理想であるアニメーションの世界に突如として現れた酷い現実そのものであるともいえます。
それだけにこれだけの人の心をえぐるのだと思います