くらうち さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
ヤマアラシのジレンマ
言わずと知れたアニメ史に残る名作。
14歳の少年少女の、周りや大人達との関わり方に対する戸惑いや葛藤の描写がとても秀逸な作品でした。
{netabare}
●シンジ
シンジは、自ら人と関わることをしようとしません。エヴァに乗るのも、周りに流されて。
自分には価値がなく、誰も自分を必要としていないと思っている。
これは、人と関わることから逃げる方が楽だから。他人との間に壁を作り、閉鎖された自分だけが心地いい世界に逃げ込んでいる。
でも、人は1人では生けていけない弱い生き物。だから、さびしくなる。他者から承認されることを求めずにはいられない。
この狭間で、シンジは苦しみます。
まっさらな自由な世界を与えられたとき、シンジは自分自身を認識できなくなってしまいます。
人は他者との違いによって自分を、現実を認識している。
つまり、真実なんてものは人の数だけあるのであって、自分が真実だと認識しているのは、思い込みにすぎない。
シンジが自分に価値がないと思っているのも、シンジの認識した現実にすぎない。
自分を好きになれない人が、他人を好きになれるはずがない。他人を好きにならない人が、他人から好かれるはずがない。
自分の最大の理解者は自分自身。自分の価値を認められるのも、自分自身。
自分には価値がないという思い込みを捨て、自分を好きなれるかもしれない。このことに気付けたことで、シンジは自分の殻からでていくことができるのでしょうね。
しかし、その先は茨の道です。
ヤマアラシのジレンマという言葉が出てきます。ハリネズミは、身を寄せ合おうとしても、お互いを傷つけてしまうから近づけない。お互いを傷つけながら、ようやく、そうならない距離を見つける。
人とわかり合おうとする過程に痛みはつきものです。
それでも、
「人は他人を完全に理解することはできない。自分自身だって怪しいもんさ。100%理解し合うのは不可能なんだよ。まっ、だからこそ人は自分を、他人を知ろうと努力する。だから面白いんだな、人生は。」
加持さんのこのセリフに尽きますね。
●アスカ
アスカは、エヴァに率先して乗ろうとし、他の二人よりも戦果を挙げることに異常にこだわります。シンジやレイに負けると尋常じゃない悔しがり方をする。彼女は、エヴァに乗れることだけが自分の存在価値であり、それによってしか自分を他者に認めさせることはできないと考えています。
エヴァに乗れなくなってしまうと、完全に自分の価値を見失ってしまう。
この自己評価が異常に低い点において、シンジと共通する葛藤を持っているのですが、シンジとは異なりTV版では自らの殻を破ることはできていません。
この点は劇場版に期待ということで。
●ミサト
1人ではさみしいのは、大人も一緒です。
でも大人は、他者を求めるためにもっと快楽的で安易な方法に走ってしまう。
NERVの人間関係はドロドロですw
そうして、ミサトもリツコも傷付いていく。
やはり、痛みなしに、本当に必要とされる関係を築くことはできないのでしょう。
●あまりにも時間が足りない
セカンドインパクトのときに何が起きたのか。アダムとは何なのか。
使徒とは何なのか、エヴァとは何なのか。人間とはどういう関係にあるのか。
結局、人類補完計画とは何なのか。
こういったことは、アニメ版を観ただけでは明確にはなりません。
尺の関係で(26話の冒頭で、あまりにも時間が足りないとテロップがw)、庵野監督がやりたかったことの一つであろう、子供達の心理描写に特化したのではないでしょうか。
ここは、より高いクオリティを出せる劇場版への余白を残したと肯定的な評価もできるかと思います。
{/netabare}