やはり作品ごとに、必要なテイストが違いますよね。
例えば、『秒速~』みたいな作品であれば、あまりアニメ的な演出をしていない作品ですから、いわゆるキャラを立てたり萌えたりする対象としてではなく、観ている人が自分自身を容易に感情移入することができるようなキャラクターであってほしかったんです。
ですから、声優さんではなく、より自然な聞こえ方をする俳優さんの声を選んだんです。人は普段しゃべるときに、声優さんのようにはしゃべりませんからね。
といっても、僕はもちろん声優さんの演技を否定しているわけではまったくありません。声優さんの持つ特別な声は、アニメ的な絵とのマッチングによる相乗効果で1人の人格を作り上げるときには、素晴らしい力を発揮するものだと思います。
最新作『星を追う子ども』は、『秒速~』に比べるともっとハッキリとしたアニメーションのキャラクターなんです。異世界を走ったり、大きな声で泣いたり、おそろしい敵と戦ったりもします。
アニメーション的な絵、普段の日常からかけ離れた物語、そういう世界観の作品に必要なのは、やはりスペシャルな声が出せる声優さんです。「絵」と「声」、その組み合わせで1人のキャラクターとなるわけですから、作品のコンセプトによって、必要となる声も違うし、こだわりも違いますね。
ですから、作り手の側が「どういう作品なのか」「どういうキャラクターなのか」「どういう声を求めているのか」を明確にすることが大事だなと思っています。
「こういうふうに感じてもらえたらいいな」という、理想のようなものは、全くないわけではないです。やっぱり、なにかを「わかってほしい」と思って作品を作っていますから。
でも、作品を観て、それぞれの方がどういう感想を抱くか、どんなメッセージを受け取るかは、僕にはコントロールできないことです。
僕は、作品の中身はもちろんのこと、作品とどういうふうに出会うかもすごく大事なんじゃないかと思っています。
いつ、どんな気持ちのときに、誰と一緒に観るのか。一人で観るのか、友達と観るのか、彼氏彼女と観るのか。
体調は? 天候は? 今どんな悩みを抱えているのか?
それによって、同じ作品でも、受け取り方って大きく変わるんじゃないかと思うんです。
僕自身、同じ作品を観ても、すごく感動するときもあれば、全然ピンとこないときもあります。「つまらないな」と思っていた作品でも、数年後に観たら「なんておもしろいんだ」と思ったり。
ですから、僕としてはとにもかくにも、観てくださる方ひとりひとりにとって、僕の作品との出会いが「良い出会い」だと思ってもらえるよう、祈ることしかできません。
この作品を必要としている人が観てくれますように、と願うしかないです。
できれば何度も観てもらいたいですし、そのたびに新たになにかを感じてもらえるような作品であるといいなと思っています。
CMというのは15秒という短い中で、メッセージを伝えなくてはなりませんよね。信濃毎日新聞のCMは、『大切なことを、伝える。』というキャッチコピーだったんですね。
それで、僕が考えたストーリーは
「ある日、お父さんが遠くに行ってしまう。女の子は、そのときになって、ようやくお父さんに大切なことを伝えようとした。」
というものです。
もしかしたら、2人の関係がうまくいっていなかったのかも知れないですね。
だけどCMでは、ストレートなつくりにはしていなくて、最後に女の子が「ありがとう」とつぶやくんですが、それはお父さんには聞こえていないんですよ。もう電車に乗ってしまっているから。
でも、伝えようとする気持ちが大切なのではないか、という話なんです。
娘が自転車に乗って、電車を追ってきてくれたということ自体がお父さんにとっては大事なんだろうし、コミュニケーションってそういうふうに100パーセント理解しあえるわけじゃないけど、でも伝えようとする努力というのは、なんらかの形で伝わるものなんじゃないかと。そういう気持ちを込めたCMです。
一本の映画を作り始めるとそちらのほうに気持ちが集中してしまうので、なかなか平行して別の仕事というのはできないんですよね。
そんなにあれもこれもと器用にできるほうではないので……。
でも、短い映像って、作っていて楽しいしおもしろいので、よいタイミングの出会いがあればまたやりたいなと思っています。
10代の方、20代の方、場合によっては30代の人もそうですけど、相談のメールをいただくことがあります。学校でうまくいかないとか、受験がうまくいかないとか、就職活動がうまくいかないって。そういう悩みって、みんなが抱えている事だからしょうがないんだけど、、。
アニメーションには、フィクションには現実でどうしてもうまくいかない時、それを少しだけ助けてくれるチカラがあると思う。バンドエイドみたいに傷ができたところに貼ると、傷の治りがちょっとだけ早くなって。
でも役割を終えたら剥がして捨てちゃうじゃないですか。アニメって、そういう存在で良いと思うんです。
つらい時とか、こういうのを観たいなっていう時に観て。それで慰める事ができたら、大人になったらアニメの事を忘れちゃっても良いと思うんです。
フィクションには、少しその人の事を助けるチカラがあるから、だから悪いものじゃないよなって想う。いつか忘れてしまっても良いから、でも必要な時にその作品を観て何かを感じてもらえればうれしいです。
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