アニメーションの仕事は分業が前提なので、自分の意思をどうやって伝えるかというシステムはある程度確立されているんですよ。
そのための方法として、まず絵コンテがありますよね。絵コンテは描く人の個性がとても表れるものだと思うんです。ざっくりした絵を描く人もいれば、綿密に描き込む人もいます。僕はどちらかというと絵コンテを細かく描くほうですね。
あくまでもラフな絵なんですが、「ここは美術で」「ここはセル(作画)で」「光はどの方向から、どのぐらいの強さで、どのあたりに当たっているのか」とか、そういう情報をスタッフと共有するために、自分の頭の中にあるイメージを絵にして伝えるというのがアニメーション作りの最初のステップです。
その後、スタッフからあがってきたものが、自分のイメージと少し違っていた場合は、「ここをこう直してみてください」とこちらの希望を伝えて、リテイクしてもらいます。修正指示を出すときはできるだけ具体的に、絵と言葉の両方を使って説明することを心がけています。
でも、実は自分のイメージと違うほうが、結果的に良い場合もあるんですね。やはり僕よりも経験豊富なスタッフさんが多いので、自分の希望を超えたものが上がってくるんです。
『ほしのこえ』までは僕はずっと1人で作っていたので、当然、自分のイメージと自分が描く絵の間に齟齬はないですよね。「思い通りに描けない」という技術的な未熟さはありますけど(笑)でもそれも想定の範囲内でしょう。
けれど、スタッフと一緒に作るとそうはいかない。正直、最初のころは「自分の望むイメージと違う絵があがってくる」ということに戸惑いました。でも「あっ、こっちのほうが、作品全体としてより良いものになるんじゃないか」って気づいたんです。
だから、最近はスタッフのアイデアを受け入れることも多くなってきました。
とはいえ、僕なりに「これはどうしてもはずせない」とこだわりたいポイントもありますから、それはもう時間の許す限りリテイクを繰り返して自分のイメージに近づけていったりとか、背景美術に関しては自分で直接手を入れることもあります。
もちろんどの制作工程も大事ですが、僕は特に、最初の「絵コンテ」と、最後の「撮影」にはこだわっています。
一般的には、日本のアニメは絵コンテで決まる部分が大きいと思うんです。絵コンテを描くときって、まるでテレビカメラで実際に撮るみたいに、架空のカメラをイメージするわけですよ。どれくらいの口径のレンズを使って、被写体からどれくらい離れて撮るのか、って。
それから、キャラクターがA地点からB地点まで歩くのに、何秒かけて、何歩で歩くのかということも絵コンテの中で指示するわけですよね。それも1秒単位じゃなくて、0.1秒単位で。
そういったあらゆる情報が詰め込まれているものが絵コンテで、それを読み取って頭の中で絵を組み立てて、みんなで作業していくわけです。ですから、やっぱり絵コンテというのは非常に重要なものだと思います。
それと、「撮影」というセクションも、僕は非常に重要度が高いと思っています。
「撮影」というのは、昔アニメをフィルムで撮影していた時代の言葉が残っているんですけど、コンピューター用語でいうところのコンポジット(合成)ですね。背景の絵とキャラクターの絵を合成する作業です。
といっても、ただ単純に重ねるだけじゃなく、そこで色を調整したり光を加えたりすることによって最終的な画面を作っていくんです。アニメーターや背景美術スタッフ、それぞれが作ったものをより一層すばらしい絵に仕上げてゆく、アニメの絵づくりにおける最終工程ですから、僕は撮影という作業はとても大切だと思って、こだわってやっています。
普通だと、撮影監督というポジションの人が別にいて、その人が担当してやるものなので、監督が直接撮影をするということはほとんどないと思います。
ただ、僕は、どうしても撮影に関しては自分でチェックしたいし、カットごとの色や光のディテールにもこだわりたいんですね。
なので、本当に締切ギリギリまで、他の撮影スタッフと一緒になってスタジオにこもって撮影作業をしています。
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