いいえ、実話というわけではありません。……が、細かいエピソードは、僕も似た経験があります。
実際に大雪が降って電車に閉じ込められたこともありますし、学生のころは「好きって言いたいけど言えない」という花苗のような気持ちも抱いていましたし、会社の生活が大変で会社を辞めるというシーンなども、僕の実際の経験を若干ヒントにしています。
水橋さんについては、僕は『月光の囁き』(塩田明彦監督)という映画を観ていて水橋さんの声が非常に印象深かったので、貴樹の声をお願いしました。
明里役の近藤好美さんは声優ではなくモデルさんでしたが、声がとにかく美しく愛らしかったことと、十代特有の声の感覚、たとえば人生に対する無根拠な自信と不安なんかがあって、それが決め手でした。
花苗役の花村怜美さんだけ本職の声優さんでしたが、明里とは違った活発さと愛らしさに加えて、声の裏側にやはり何かを不安に思っているような震えを感じることが出来たんです。それが決め手でしたね。
小説版は、映画の本編が出来上がった後、「ダ・ヴィンチ」という雑誌で連載するために書きました。
映画のストーリーというのは、もちろん僕自身が考えて作っているものなんですが、一本映画を作り終えると、その世界観に対する理解がより深まっているんですよ。この登場人物はこういう性格で、この世界はこういう世界なんだ、と。
でも、自分が作ったはずなのに、理解できていない部分も残っているんです。お客さんに「このシーンで、この人はどういう気持ちだったんですか?」「どういう気持ちでこのキャラクターはこういうことをしたんですか?」と聞かれて、うまく答えられない時があるんですね。でも、わからないながらも、「こういうことにしたってことは、無意識のうちに何か理由があるはずだ」と思うんです。
ですから、それぞれのキャラクターの気持ちをできるだけ深く掘り下げようという気持ちで、『秒速5センチメートル』の小説を書きました。
僕の他の作品、『ほしのこえ』や『雲のむこう~』は、他の作家さんの手によってノベライズやコミカライズされているんですが、そういう他の方が書いてくださったものを読ませていただいて、「こういうことだったのか」って気付くことってすごく多くて、おもしろいなって思うんですよね。「あぁ、こっちのほうが良くできてるんじゃないか」って思ったりするぐらい(笑)。
僕は、小説というものを書くこと自体、『秒速~』が初めての経験だったんですけど、今まで僕の作品を小説にしてくださった作家の方々と、せめて同等くらいにはキャラクターの気持ちを掘り下げたいと思っていましたし、「映画よりも出来がいいね」と言ってもらえるぐらいのものにしたいと思って書きました。
遠距離恋愛、アリだと思いますよ。でもやっぱり、タフさが必要ですよね。相手を信じるとか、自分の気持ちを信じ続けるとか。
Kairukkさんも遠距離恋愛中なのかな。頑張ってくださいね。
※次のページは、秒速5センチメートルのネタバレを含む質問と回答です。
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