今作、というか僕自身、ジブリ作品から受けている影響はすごく大きいです。
ジブリ作品はあらゆるアニメ制作者にとって一番大きな存在でもあると思いますし、日本人にとっても、もう日本人全員が知っているブランドですよね。テレビでも何度も放送されていますし、「毎年夏にはジブリ作品を観にいく」というスタイルができあがっているといっても過言ではないくらい。
そこまで巨大な存在なので、意識的であれ無意識的であれ、どうしても影響を受けている部分はあると思います。
ただ、それだけではなく、今回の『星を追う子ども』ではジブリ作品を連想させる部分が確かにあると思うのですが、それはある程度自覚的にやっているという部分もあります。
先ほど、僕は子どもの頃に世界名作劇場を観ていたとお話ししましたが、あの頃の世界名作劇場の絵のタッチというのが今のジブリに受け継がれているんじゃないでしょうか。
世界名作劇場がもう終わってしまったので、あの絵はジブリにしかないと思っている人がいるかもしれませんが、もともとジブリ独自のキャラクター造形というわけではないと思うんです。
ですから、『星を追う子ども』は、ジブリ作品に似ているというより、東映アニメーション、世界名作劇場、と連綿と受け継がれ積み上げられてきた、日本のアニメーションの典型的な一つのかたちなのではないかと。
あのキャラクターの型が、これだけ長い時間を経ても変わらずに残っているということは、やはり物語を語る器としてとても性能が高い、普遍的な容れ物なんだと思うんです。その普遍的な容れ物で、今の自分が伝えたいと思っているテーマを語りたいという気持ちがありました。
それと実際に今回の僕たちのスタッフの中にも、世界名作劇場やジブリで仕事をしてきたスタッフが大勢いるので、スタッフにとって描きやすい、演技をさせやすいキャラクター画にしたいという気持ちもあったので、打ち合わせの段階から、作画監督・キャラクターデザインの西村貴世さんと「意図的に世界名作劇場を連想させる絵にしましょう」と話し合いました。
アニメーションのキャラクターデザインって、あまりに洗練されすぎていくと、ある程度、観る人が限られてしまうのでは……と思うんですよ。普段あまりアニメを観ない人に対して「僕にこれがわかるのだろうか」と距離を作ってしまうんじゃないかと。
でも、名作劇場はそもそも子供向けとして作られていたアニメーションなので、とても親しみがありますよね。
名作劇場的なキャラクターはどういう点が優れているのかというと、入口が広くて敷居が低いところだと思います。
また一方で、「少年少女の冒険モノ」=ジブリ、というふうに思われているところもあると思います。
ジブリの少年少女の冒険モノといえば、まずパッと思いつくのは『ラピュタ』ですよね。
『もののけ姫』も、たしかに少年少女の冒険モノかも知れませんが、でも若干テイストが違うかなと。
『ナウシカ』も少し違うジャンルでしょう。
じゃあ他には?……となると、実はそんなにないんじゃないかと思うんですよ。
テレビで何度も繰り返し放送され、ずっと見続けてきたから、「ジブリ的な冒険活劇」が豊富にあると思われているのかも知れないけど、でも実は数としては少ないんですよね。
だから実はこの25年くらい、ジュブナイルの冒険ストーリーというのはアップデートされてこなかったんじゃないかと思うんです。
ですから、世界名作劇場のキャラクターのような間口の広い器を使い、ストーリーとしては少年少女の冒険を扱っていて、その中で今現在のメッセージを伝えてくれる作品があってもいいんじゃないかという気持ちがずっとあって、今回の『星を追う子ども』はそういう手触りの作品になりました。
今まで僕は、自分の作品を「子どもが観る」ということは、正直なところ、全く念頭においていなかったんですよね。
特に『秒速~』は、30代くらいの人たちに観てほしいなと思って制作していました。
もちろん10代の人でも楽しめると思っていましたが、でも「子ども」という観客は考えていなかったんです。
なので、僕の作品では、今の自分の年齢に近い人物を主人公にすることが多かったんです。
でも今回は明確に「もう少し低い年齢の人にも楽しんでもらえるような作品にしたい」という気持ちがあって、主人公をアスナという小学生の女の子にしました。
それと、先ほどの『秒速~』の海外での上映の話でも言ったように、日本的な共通前提がなくても楽しめるアニメにしたいという思いもあり、対象年齢を広げたんですね。
でも同時に、今までの作品を楽しんでくださっていた大人の方にも観てもらいたいという気持ちももちろんあり、これまでの僕の作品テーマを引き継ぐ存在として、モリサキという大人も登場します。
子供の視点、大人の視点、両方の軸がある作品になっていると思います。
えっ、目力ですか!?
目力……あるのかなぁ~(笑)。
多分、目のハイライトの入れ方とか、そういうことなんじゃないかと思います(笑)。
キャラクターデザインの西村さんや、視線でも演技をさせてくれたアニメータたちの力ですね。
でもアニメのキャラって絵にすぎないのに、そんなところまで読み取っていただけるなんてうれしいです。
おもしろいアニメが見たい!
アニメ選びで失敗したくない!
そんな仲間達のためのランキング&口コミサイトです。