101匹足利尊氏 さんの感想・評価
3.9
家族や多様性のアップデートを試みたメイドインディズニーな冒険譚
【物語 4.0点】
世界観は王道。しかし脚本は捻っており先読みは困難。
どう着地させるか?という興味が鑑賞の原動力になる。
高い山々に囲まれた国の状況打開のため外の世界に冒険に!
導入は、壁に囲まれ慣れた深夜アニメ視聴者にとっては陳腐とすら感じます。
ところが冒頭、主人公が旅の途中で{netabare}電気エネルギーを蓄えた植物を持ち帰り故郷に産業革命が起こる。
僅か四半世紀で馬車→浮遊電気自動車へ。{/netabare}
この件で、読めなくなっていく。
最後は常識が覆される系のドンデン返し。
事態に対する受容度によって、主人公たちの間で正義とヒール、上策と下策が二転三転するドタバタ感は勧善懲悪とは一線を画す。
そしてそれは本作が盛り込んだ家族、多様性、環境問題といった社会テーマの深化にも寄与。
異なる視点や価値観への寛容性を啓発したいという作品志向とも合致。
「この結末は、あなたの世界も変える」というキャッチコピーもまんざら嘘でもない。
私は(※核心的ネタバレ){netabare}『はたらく細胞』や『ミクロの決死圏』{/netabare}が好物なので美味しく頂けました。
【作画 4.5点】
61作目のディズニー長編アニメ。100周年記念作。
「ディズニー史上最も奇妙な世界」を自称。
スクリーンに某大穴探窟作品にも引けを取らない驚異の地下世界(何故か上ではなく下行きましたw)が広がる。
出血表現がないので刺激は弱いですが、主人公たちが複数回死にかける程度には危険な冒険です。
洋画ではしばしば、過剰にドロドロ、ネバネバ、ゼリー状あとは触手などが氾濫することがあります。
本作はそれらをさらに濃縮した感じ。
再現された生態系は奇抜であるだけでなく、自然、生態系全体が伏線。
回収時のカタルシスは、作画、背景による部分も大きいです。
人物のデフォルメは各パーツが丸くてデカい伝統のディズニー。
一方で肌はモチ肌に進化。ゼリー状のムニュムニュ感も進化w
急発展した中世風社会を再現した街並も○。
ファンタジー世界に好物の空中挺とか飛ばしてくれれば私は満足なのです。
【キャラ 3.5点】
ポリコレの最前線。変容する家族と多様性。
主人公・サーチャー・クレイド……偉大な冒険家の父を疎ましく思い、父と生別後は農業に勤しむ。息子には農家を継がせたいがウザがられる。
息子・イーサン・クレイド……農業より祖父のような冒険家に憧れる少年。
父・イェーガー・クレイド……家族も顧みず未知の冒険にのめり込む困った爺さん。
各々の人生観が衝突し合う親子3代の関係性。
家族だから無条件で理解し合い、助け合う物という価値観に一石を投じる。
冒険家のイェーガー父さんが残した熱い想いなんて、子のサーチャーは知ったこっちゃないんですw
白人系のサーチャーは当たり前に黒人系の妻・メリディアンと熱いキスを交わす。
飼い犬・レジェンドは“三本足”。
そして、息子・イーサンには告白したい“片想い”の“彼”がいる。
LGBTが抵抗なく受け入れられる時代に育まれたイーサンは、
常識がひっくり返っても柔軟に受け入れる感性が養われているという進歩的価値観の信奉。
一応、意味のあるLGBTではありました。
ですが、タダでさえ赤字の本作。
同性愛をタブー視するイスラム諸国の興行を捨ててまで、LGBTをねじ込む必要があったかと言えば私は疑問です。
ただポリコレはポリコレでも、本作は、親子3代の口論を通じて、
異なる価値観に戸惑う人間の意見を聞く耳があるだけ、
まだポリコレアレルギーの私でも発症せずに見ることができました。
多様性を謳いながら、異質な存在に怯える人間を古いと切り捨て、伝統を土足で踏み荒らすポリコレは独善的な自己矛盾。
ですが、本作は、変化を恐れるのも分かると譲歩した上で語る所を見るに、
拙速な進歩により分断を深めてしまうリベラルの課題を自覚はできているらしい。
でも、まぁ結局、寛容でもポリコレはポリコレ。
中間選挙でトランプ前大統領が推す候補に投じたファミリー何かには唾棄されるんだろうなとw
解決途上の社会課題を内包した割り切れない登場人物たちは、
有意義な思索の種ではありましたが、明快なアニメキャラではなかったかなと。
【声優 3.5点】
※日本語吹替版を劇場鑑賞
主人公・サーチャー役には原田 泰造さん。アニメ、吹替初挑戦で可もなく不可もなく。
息子・イーサン役には元・子役の鈴木 福さんが声変わり後も無難な少年ボイスを提供。
アフレコ経験不足の俳優陣中心の体制を、流石のじっちゃんボイスで引き締めたのがイェーガー役の大塚 明夫さん。
茶風林さんの円熟のナレーションと共に吹替の骨格となる。
【音楽 4.0点】
劇伴担当はヘンリー・ジャックマン氏。
勇壮な金管で冒険心を高揚させる王道構成。
あとはワルツでリズムに変化を付ける。管弦楽で効果音を兼任するディズニーの伝統芸。
時折、遊び心も交える手腕も手慣れた物。
ミュージカル要素はメインフレーズともなった男声テノールのクレイド家の紹介曲のみ。
ミュージカル苦手な方も鑑賞可。