ブリキ男 さんの感想・評価
4.4
「木を植えた男/フレデリック・バック作品集」に収録。15分の短編作品。
一人の男の手によって森の木から切り出され、削られ、磨かれ、彩色され、顔を描かれ(笑)誕生した揺り椅子と、その揺り椅子に見守られながら生きた人々の、儚くも喜びに満ちた物語。
色鉛筆による柔らかなタッチと色彩からは、生き物のみならず、モノの持つ暖かさ、質感、感情さえも伝わってくるようです。実写トレースや、CGによる無機質なグラディエーション、ベタ塗り、フィルターなどの半自動化作業では実現困難な、バック監督手ずから描いた膨大量のイラストからなるアニメーションは、画面の細部に至るまで、豊かな奥行きと、強い活力を感じさせる躍動感に満ち溢れています。
※ジューズ・ハープから始まる冒頭曲並びに、作中で奏でられる全ての楽曲は実写映画音楽の作曲家としても活躍されているノーマン・ロジェ氏によるもの。2度の植民地時代を経てもなお、ケベック文化に色濃く残る、アメリカ・インディアン、イヌイット由来の原始的な音楽性を背景に、フランス由来の軽快さ、ケルト由来の物悲しさが連なり、刻々と移り変わる時代の流れを表現している様でした。
生まれ、傷つき、壊れ、直され、それでもまた壊れ、捨てられ、拾われ、治され、愛され…。時に優しい人々に囲まれ、時に残酷な人々に無碍に扱われ……。視点を変えれば、モノが誕生してからその後に辿る紆余曲折の道は、わたしたちヒトの歩む人生と似ています。
わたしがまだ年端もいかない子供だった頃、両親と一緒に祖父母の家に遊びに行った時の話。そこには重い鉄のペダルを持つ足踏みミシンと、その対となる、明るい色のびろうどを座面に打ちつけた小さな椅子がありました。玩具もTVゲームも無い祖父母の家で、わたしはその椅子に乗っかったり、潜ったり、逆さにしたり、横にしたり…乗り物や隠れ家にしたりして、よくもまあ色々な事を思いついて、長い事その椅子と飽きずに戯れていたものです(笑)
お針子だった若い頃からこの椅子に座り、その姉妹とも言うべき足踏みミシンを魔法の様に操っていた、矍鑠たる祖母はもういません。ミシンは生前、祖母自らの意志で処分され、椅子だけが残りました。椅子は祖父母の家と共に母に受け継がれ、今もなお、来訪する人の目を楽しませたり、本来の役目を果したり、時たま踏み台にされたり(汗)昔とあまり変わらぬ姿でそこに居続けています。よくよく見ると、びろうどは擦れ、色の鮮明さは薄れ、さながら歳経た老人の姿の様ではありますが…。
そんな昔話に思いを馳せると、本来、良き家具の寿命というものは、わたし達人間の寿命よりもずっと長く、逞しいものなのではと言う気がしてきます。わたしたちが愛をもってそのものたちに接するならば…。
消費社会に対する警告と辛辣な皮肉を込めた作品の多いバック監督の作品の中では、ひときわ優しく、美しい、現れては消える命の営みを、一脚の揺り椅子の視点から朗々と謳い上げた珠玉のアニメーション作品。
どうか、皆さんの心に暖かな火を灯す一編となりますように!(…酷暑に火はイカンですね。笑)
※:口琴の一種。びょ~ん、びょん、びょんという感じの(笑)振動音を発する楽器。日本ではアイヌに伝わる竹製のムックリが有名ですが、木製の他、金属製、動物の角や牙で作られたものなど、世界各地に多種多様の口琴が存在します。
英語圏ではtrump(トランペットの略)とも呼ばれている様で、元々はオランダ語のJeudgtrump(子供のトランペット)が語源らしい。根拠の定かでない説として"ユダヤのハープ"、"顎のハープ"とかも。
わが家にも一つありますが、トランプともハープとも呼ばれている様に、その演奏法は吹くとも弾くとも言い難し…。音の余韻に独特のやわらかさがあり、奏でると和みます(笑)
ワドルディ隊員 さんの感想・評価
3.5
このアニメは、トイ・ストーリーの
元になった短編アニメである。
おおまかなあらすじとしてはこんな感じ。
主人公は、新品のおもちゃである鼓笛隊のティン・トイ。
胸に期待を膨らませ、部屋を眺めるのだが、
人間の赤ちゃんが部屋に入って来る。
可愛らしい赤ちゃんの姿を見て、ティン・トイは嬉しそうな表情だが、
おもちゃの乱雑な扱いに、ドン引きし逃走を試みる。
ところが、動くたびに楽しげな音を出すおもちゃに興味を示した
赤ちゃんが追いかけてきて…。
この作品は、おもちゃであるティン・トイ
に焦点を当てることで、おもちゃに感情移入がしやすい
作りに仕上がっている。それがこの作品の魅力にも繋がっている。
赤ちゃんのCGが妙にリアルなため、妙な気分になるが
とにかく怖いという感情が脳裏から離れなかった。
赤ちゃんの声と、おもちゃの音を除けばほぼ無音状態なので
スリルに一層磨きがかかる。
怪獣映画でも見ているかのような臨場感を味わえる。
これはサバイバル映画かと一瞬思ってしまった。
気になったのは、やはり赤ちゃんのCGだ。
赤ちゃんの動きを念入りに研究されているのはよく分かるのだが
CGが追い付いていない。顔も正直言って、可愛く見えない。
怖い。というか不気味。赤ちゃんをCGにするのはまだ早かったのだ。
しかも、おもちゃのCGは滑らかに動くので違和感が生じる。
おむつも物凄く硬そうに見えてしまう。あのおむつ、冷凍した
豆腐並の強度がありそうだ。
全体的な出来も、すこぶる高いわけではないため
気軽にはオススメはしにくいが、トイ・ストーリーが好きな方で尚且つ
この作品を視聴していない方は見るべきだと感じる。
個人的には良作だと思う。
yuugetu さんの感想・評価
3.8
1988年ピクサー制作のフル3DCGの短編アニメーション。時間としては5分ほどですね。
トイ・ストーリーの元となる作品であり、アカデミー賞短編アニメ賞を受賞しています。
トイ・ストーリーとは雰囲気がちょっと似てますね。
おもちゃはデフォルメされていてかわいいのに赤ちゃんがリアルすぎてコワいのが玉に瑕ですがw
トイ・ストーリーの特典映像なので手軽に見られますし、演出やカメラワークや効果音もとても良いので私は好きです。
ただ赤ちゃんのCGはちょっと心の準備はしておいた方が良いかも?
{netabare}
主役は追いかけられるおもちゃの方で、一番作り込まれていました。おもちゃの丸い頭に反射する蛍光灯の光がリアルでかわいい。
おもちゃの心理の描き方がこの頃から変わってないのが良いですね。
子どもに遊んで欲しい、でも乱暴すぎる扱いは怖い。それでも子どもをあやすのはおもちゃの使命、でも自分より箱や袋に興味を奪われるのも気に入らない。なんとも可愛らしいです。{/netabare}
ちょっと心の温まる作品ですし、トイ・ストーリーが好きなら見てもいいかも知れません。(2018.3.15)
鸐 さんの感想・評価
3.7
フォトリアルな3DCGにおいて、課題の一つとなっている不気味の谷。
不気味の谷とはリアルさを追求した人間を作ろうとするとき、一定のリアルさを持ったところから、現実に近づくまでの間に感じる一定領域で違和感から不快に感じるゾーンのことです。
この作品、ブラックな面白さがあり、個人的には好きです。
不気味な赤ちゃんの造形が、怯えるおもちゃと無邪気な赤ちゃんとの対比をより濃いものにしています。
現代のピクサーのCGレベルから行くと、この作品のクオリティは低の上程度に留まりますが、ただの習作ではなくエンタメに昇華させているのはさすがでしょう。
面白いです。