東アジア親日武装戦線 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 3.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
ゲルニカを彷彿させるかな
考察系です。専門用語あり。
【総評】
タイトルに記述したとおり、{netabare}本作はスペイン内戦を市民目線で印象的に表現した{/netabare}反戦作品。
海外作品であるがセリフがないので視聴のハードルは低い。
{netabare}スペイン内戦(1936/7/17-1939/4/1)は我が国ではメジャーではないがWW2以前に起きた代理戦争(独伊とソ連)として有名であるほか、コミンテルン(第三インターナショナル)による左派合法政権(スペイン革命)の樹立とそれに対する抵抗から軍事衝突へと至った。
内戦とはいえども戦闘は苛烈極まり、コミンテルン主導による人民戦線戦術(暴力革命)が失敗した唯一のケースでもある。
当時のコミンテルンは共産革命を目指し世界中で工作活動をしていたが、スペイン革命は流血を経ずに王政を倒したコミンテルン戦略のモデルケースでもあった。
共産主義といえば多くの方々はソ連式の「マルクス=レーニン主義」を連想すると思うが、南欧の共産主義は少し毛色が違う。イタリアやポルトガルでは「マルクス」よりも「バクーニン」の影響が強い。
これは「第一インターナショナル」設立の際にバクーニンが南欧で布教していたことにもよるが、束縛を嫌う南欧の気質も統制型社会よりも統制を前提としないバクーニン主義の方が受け容れ易かったのかもしれない。
バクーニンの思想は所謂「アナキズム」であるが、コミュニストの仲間内での政治闘争におけるマルクスへの反発にしか過ぎないというのが正味の評価だ。
共産主義の理想は中央政府を保有しないことにあるのは事実だが、理想は理想であって現実がそれを許さない。
今まで空念仏を唱えていた学者マルクスにとって、第一インターにおける論争から自らの信念に「現実」が抜けていることを痛感し「革命の前衛としての政府樹立はやむを得ない」との認識に至ったことが理想に燃えるバクーニンには受け容れがたかったようだ。
こういう経過で第一インターではバクーニンは失脚し、アナキズムは共産主義ではないとのレッテルを貼られる。
後年、ソ連のトロツキーがバクーニンと似たようなことを主張してレーニンに愛想を尽かされ失脚し、現実派のスターリンが権力を掌握したのも理想と現実との闘争の結果だ。
連合赤軍(日本赤軍)の「総括」なる粛清も理想と現実の争いだが、コミュニストは100年近くも、くだらない観念的競合で殺人を平気でやるような連中だ。
バクーニン主義はその後様々な過程を経てユーゴスラビアの統治体制の一つに加えられる。
ユーゴとソ連は犬猿の仲であったが、政治思想史から観測すると必然だろう。
スペイン革命の主役は主にコミンテルン支持のコミュニストと、従前からの欧州社会主義の勢力だったが、そこにバクーニン支持層が加わり、右派の形勢が不利となったことで右派のフランコを中心に軍事クーデターを画策し、そこに独と伊が加勢し、左派にはコミンテルンを中心とした人民戦線が編成されソ連が加勢する。
ざっとこういう経緯で内戦が勃発するのだが、所謂軍事目標に限らない無差別空襲もこの内戦でドイツ空軍により実行される。
特に「ピカソ」の作品で有名なゲルニカ空襲は悲惨を極めた。
スペイン内戦は、WW2を経験していないスペイン市民にとっては我が国における原爆同様に忘れることができない惨劇ではなかろうか。
戦争が起きると日常を壊され真っ先に犠牲となるのが、弱い一般市民であるということを訴えたのが本作であろう。
女の子は一般市民、罠で傷ついた男は人民戦線、女の子と男を殺しかけているのがフランコ軍兵士の各暗喩であろうと思う。
そして兵士たちがまた「罠」を仕掛けるが「罠」は内戦の暗喩であろう。{/netabare}
制作者の"César DĺAZ MELÉNDEZ"氏の思想までは定かではないが、作品の性質やキャラ接点、メッセージから考えて左側の人物ではなかろうかと思う。
芸術家は職業の性質上どうしてもフランス啓蒙が直撃して左に靡く傾向があるからね。
反戦モノの多くは戦争の悲惨さをクローズアップするために、どうしても鬱作品となるのは宿命であろう。
ただ、砂絵のアニメーション手法は日頃2Dや3Dを見慣れていることからか、斬新で目をひくものがあった。
本作はストレートに反戦であり、誤魔化して反戦を強調する一般の左派作品とは区別して評価をするが、僅か三分弱における作品から放たれるメッセージは極めて濃密である。
音楽に関しては効果音と作品のマッチングが素晴らしいと思う。
作品の性質上、声優は評価のしようがないのでデフォルトとする。
キャラが立っているからこそ作品からしっかりとしたメッセージが受け取れる。
しかし、芸術性が高い作品全般に言えることだが、エンタメ性を考慮しないために作り手の独善となり、考察でもしない限り暗喩の理解は一般には厳しい。
したがって減点評価とする。
{netabare}スペイン内戦{/netabare}を予習してから視聴すると分かり易い。
物語★★★★★★★★★☆4.5(評価点)
作画★★★★★★★★★☆4.5(評価点)
声優★★★★★★☆☆☆☆3.0(評価なし)
音楽★★★★★★★★☆☆4.0(評価点)
キャラ★★★★★★★☆☆☆3.5(評価点)