ナルユキ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
なろう嫌いであればあるほど楽しめる異世界転生ギャグファンタジー
日本が世界に誇る若者向け娯楽小説「ライトノベル」。年代によって流行したジャンルは異なるが、現在は専ら小説投稿サイト『小説家になろう』に投稿された“なろう系”作品がブームであり未だ落ち着く気配を見せない。
古い人間であるせいか、私はこのなろう系というのがあまり好みじゃない。むしろ嫌いだ(笑)
死ねば神様に出会えてチートが貰えるという究極のご都合主義、達観してるのかしていないのかわからない中途半端な主人公、苦難らしい苦難のない平坦なストーリーetc.
このような作品は、不幸な人生を今現在送っている読者(視聴者)が主人公へ完全なる投影を行い、異世界を無双する爽快感を擬似体験していくという楽しみ方しか出来ないのではないだろうか。
こんな偏見を持つ「なろう嫌い」だからこそこの作品の魅力にはすっかりハマってしまった。「これもなろうだぞ」なんてツッコミが何処からか聞こえてくるような気もするが、まあそれは置いといて3期も決まったこのシリーズの魅力、語っていきたいと思います。
【ココが面白い:なろうテンプレをことごとく外すギャグ展開(1)】
第1話冒頭で「わかりにくい」と思う人はいないだろう。なろう系ではよくあるオタクな主人公と異世界召喚型のストーリー。そのテンプレートを視聴者が理解している前提ではなく1から丁寧に説明してくれる。
主人公はトラックに轢かれそうになった女の子を助けようとして死んでしまう。死後は椅子しかない空間で主人公の行く末を決める神様が現れる────典型的な『なろう』テンプレを見せられて、最初はリモコンを構えてバックボタンに指を添えていたのが懐かしい。
しかし、この作品はそんなお決まりななろうテンプレをギャグにしている。主人公・カズマが女の子から庇ったのは暴走トラックではなく低速の「トラクター」。最高時速15kmしか出ない乗り物が人を轢殺するわけがない。カズマのしたことは完全に「余計」な行為であった。
女の子はむしろ後ろから突き飛ばされたことで怪我を負ってしまっており、肝心の死因はトラックに轢かれたと思い込んでの「ショック死」(笑) 勘違いして抱いた恐怖による失禁と心臓麻痺、蘇生を試みる医師や看護士、駆けつけた家族にさえも笑われて逝くというある意味、創作の中で最も惨たらしい最後を迎えて主人公・カズマは異世界転生をする場に辿り着いたのである。
そんなカズマの無様な死に際にこれまでなろうテンプレを貫いてきたであろう女神・アクアも大爆笑。『KADOKAWA二大駄女神』の一角を担うに至った最悪な本性を早々に晒け出すのである。
異世界転生やこのテのファンタジーの「御約束」をこの作品はギャグにしている。第1話冒頭から作品の雰囲気、作品がやりたいことをきっちりと感じさせてくれた。
【ココが面白い:なろうテンプレをことごとく外すギャグ展開(2)】
さて、このテの転生・転送なファンタジー作品の場合はその主人公になんらかの特典が与えられる。いわゆる「俺TUEEE」要素だ。この作品でも転生先の魔王と戦う義務が課される代わりに「1つ」だけ、特別な武器や能力などを貰ってから記憶を引き継いで転生することができる。
そんな大サービスをする理由として『魔王に荒らされている世界に転生したい人はいない。なので魔王を討伐するべく違う世界の人間に力を与えて即戦力として送っている』という理由付けがなされており、「前世の記憶を持ったまま転生」や「神様からチート能力を授かり~」といった異世界転生モノが嫌われる要素をすんなり受け入れられる設定が施されているのが本当に意外だった。
しかし再三書いているがこの作品、なろうテンプレはわざとと書いてもいいくらいに外してくるギャグ作品である。
『ね~早くして?どうせ何選んでも一緒よ。引きこもりのゲームオタクに期待はしてないから(ポテチポリポリ)』
(こいつ……!ちょっとばかり可愛いからって調子に乗りやがってええぇぇっ!!)
外面は良い、でも死に様の話から何度も何度も自分をバカにする最低な性格の女神に何かしら「仕返し」がしたかったであろう転生者・カズマ。そんな彼の選択する特典は──
『じゃあ、アンタ』
『…………それじゃ、魔方陣からは出ないように立って────今、なんて言ったの?』
呆気にとられるアクアの代わりに別の女神が出現し、転生の陣を“二人に”敷く。カズマは異世界で無双できるだろう最強武器やチート能力を得られる機会を捨ててまで、ムカつく女神を自分の異世界転生に捲き込むことを選択したのである(笑)
『ちょ、何これ……嘘でしょ?いやいやいや……ちょっとあの────おっかしいから!!女神を連れてくなんて反則だから~!!無効でしょ!?こんなの無効よね~!?』
顔面が崩れるほどに慌てる女神──いや、もう元女神か?──アクアの姿に、カズマはまるで悪役のような笑みを浮かべつつ高笑い。「NDK(ねえ、どんな気持ち?)」系の煽りまで入れてしまっている。
王道な世界観と設定なのに、その裏をかくようなキャラクターたちの行動や言動が異世界ファンタジーを『異世界ギャグファンタジー』へと昇華しており非常に面白い。
【ココも面白い:KADOKAWA二大駄女神の一角・アクア】
『なろう系』というジャンルは、神様や超常的存在から武器や能力を授かった主人公が、有らん限りの発想でこれを使い倒して中世文化の異世界を無双する、という筋書きが大半を占める。だが「チート」を自ら捨ててしまったカズマにはそうしたくても出来ない、自身の思い描く順風満帆な冒険が行えずカオスな状況にツッコみ続けるというドタバタなコメディ展開が常に待ち受けている。
「女神に言うこと聞かせりゃ同じように無双できんじゃないの?」と思う人もいるかも知れない。それをやっているのが2023年春アニメの『神無き世界のカミサマ活動』である。しかし、アクア様はミタマちゃんのような主人公に献身的なキャラではなく、基本的に「ヒキニート」と呼んでカズマを見下し言うことを聞かない。
{netabare}アクア自身が適切に自分の能力を使えれば問題は無いのだが、残念ながら彼女は「知力」のパラメータが平均以下を示した正真正銘のアホの娘。スキルは戦闘で役に立たない「宴会芸」まで習得して成長が早々に頭打ちとなっているし、アークプリースト(最上級僧侶)に就いたのにバトルでは支援を渋ったり何故か前線に躍り出て近接攻撃を繰り出しモンスターの返り討ちに遭ってしまったりする。
オマケと呼ぶには大き過ぎる問題だが運も極端に低く、やること為すことほぼ全て裏目に出てしまう。大穴なクエストを見つけたと思えば地雷(隠れたハイリスク)を引き当てるのは御約束。洪水の魔法で珍しくモンスターを討伐したかと思えば街を捲き込んだ修繕費が報酬を軽く上回り、カズマを借金地獄に追い込むというやらかしようだ(笑){/netabare}
彼女は最強武器やチート能力に見合った活躍をしてくれない、カズマが今後結成するパーティの「お荷物」の1人となっているのである。
そこが本作最大の面白さだ。これまで何の苦労もなく死人を蘇生し、力を与えて送り込むだけだっただろう女神様が現世でも平常運転をかまして痛い目をみる毎話のストーリー。常にアクアの尊大不遜(そんだいふそん)な台詞から絶叫と悲鳴、一転して塩らしい態度と半泣きの嗚咽まで楽しめる。状況と表情がゴロゴロと変わる青系ヒロインの眺めが飽きられることは決して無いのである。
この作品に出会うまで私は「雨宮天」という声優にいまいちピンと来ていなかった。それまではクール系や上品な令嬢、正当派ヒロインなど至極、無難な役柄を演じている印象が強い故に印象の薄かった彼女がこの作品においてはとても「ハジケている」。
時には女神のように、時には馬鹿っぽく、時には暴れ回り、時には叫ぶ。中でもカズマに見捨てられそうになった時の泣きわめき方とへりくだった台詞は皆のツボである。それまでの雨宮天のイメージにはなかった演技がアクアというキャラクターにピタッとハマった感覚を覚えた。
【ココも面白い:凡骨クズ冒険者・カズマ】
そんな残念系ヒロインに主人公も一切負けていない。カズマは盗賊のスキルである『窃盗(スティール)』を覚えるとその本領を発揮していく。
{netabare} 奪える物はランダムな筈なのになぜか下着ばかりを盗んでしまうカズマのスティール。しかし、彼は盗んで謝るのではない。盗んだパンツをひけらかし、ぐるぐる振り回しながら下卑た笑みを浮かべる。「返して」と泣きつかれても素直には応じない。被害者の1人はこう証言している。
「財布返すだけじゃ駄目だって……じゃあいくらでも払うからパンツ返してって言ったら……『自分のパンツの値段は自分で決めろ』って……さもないと……『もれなくこのパンツは我が家の家宝として奉られることになる』って!」
「おい待てええぇぇっ!!“間違ってないけど”ほんと待てええぇっ!!」
間違ってないんかい(笑){/netabare}
アクアを転生に捲き込んだ時点でお分かりだろうが、カズマの性格は決して褒められたものではない。非力なステータスをユニークスキルとゲーム知識でカバーする様はなろう系含む冒険活劇の醍醐味でありつつも、相手に勝つため・言うことを聞かせるためなら卑怯な手段を平気で使い自分の優位に立とうとする時は完璧な悪党だ。
スケベでもあり、やたらと女性キャラクターの多い劇中では上記のようなセクハラを欠かさず行う。そんな彼の傍若無人ぶりは初回未放映話の第11話で思う存分拝むことができる。
ただ忘れてはならないのが、現代日本で女の子を(勘違いとはいえ)助けようとして死んでしまったカズマはどちらかと言えば「善人」である。外道な言動・行動は身内や敵対者にしか向けないので悪意の無い相手(ウィズなど)との関係は良好。そして一度迎え入れた仲間はなんだかんだ文句を言いつつも見捨てない。アクアや他のメンバーのやらかしの後始末をしたり不当な報酬は受け取ろうとしないなどの良識が、黒い性質が推し出されるカズマにあるからこそより一層、輝いて見える。
また重度のゲーマーだったこともあって異世界での冒険には純粋な憧れを抱いており、初めて異世界に降り立った時や自身のステータスを測る時、クリスに授業料として財布をスティールされて奪い返すようにと挑戦を受けた時には熱血主人公らしいテンションで喜びを伝えてくれた。
いい意味でまっすぐな「男の子」であり、チートは一切無いのにファンタジー世界で必死に、かつ楽しく生きようとやるべきことをやっていく。一応は主人公として残念なヒロインたちをまとめあげており、外道な一面や性欲に忠実な一面がありつつも、それら含めての大きな魅力が備わっているキャラクターだ────支持するのは同じ“男子”ばかりで女性人気は出なさそうだけどね(笑)
【でもココがひどい?:作画さえ良ければ……】
このように非常に面白い物語の導入とキャラクターたちで成り立っている作品だが、惜しいことに「作画」があまりよろしくない。
アニメ制作にかかる費用は1話3000万だのそれ以上だの億近いだのと諸説あるが、少なくとも歴とした『なろう系』で『異世界転生モノ』でもある本作は、当時は3期の製作が決定し、劇場版でスピンオフができるまでの人気が出ることを予期した期待作というわけではなかったようだ。
念を押して、アニメ制作が1話にいくらかけているのかは解らないと書いておくが、本作の映像は一目見て「安っぽい」と感じる作画をしている。
アクアを始め、小説イラストと本作(アニメ)とでは登場人物の顔つきはまるで別人だ。瞳は虹彩が少なく、全体の輪郭は細く弱々しいので場面毎の作画にバラつきがあるのを当たり前としている。
ただし「逃げ」はとても少ない。1期となる本作時点では止め絵・流し絵が殆ど入らず全てのキャラクターを絶え間なく動かし続けており、魔法のシーンやスキル習得の演出はかなり気合いを入れて描いている。
【他キャラ評】
めぐみん
アクアがパーティのお荷物その1なら、彼女はその2である。
アークウィザード(上級魔法使い)である彼女は最強の攻撃魔法『爆裂(エクスプローション)』を使えるのだが、詠唱時間が糞長い、周りを見ない、そして1日1回しか撃てないうえに他の魔法は一切使えない(使う気がない)、撃ったら魔力切れでぶっ倒れて文字通りお荷物になるetc.といった様々な問題を抱えている。それでもパーティの中で最大火力を誇るピーキーな彼女をいつ・どのタイミングで扱うのか“カズマが”常に試されることになる。
爆裂への並々ならぬこだわり以外はちょっと中二病が入った普通の女の子というのがミソだろう。絶妙なキャラバランスと中の人である高橋李依の演技が本シリーズで彼女を一番人気へと押し上げたようだ。
ダクネス(ダスティネス・フォード・ララティーナ)
パーティのお荷物その3。
女騎士なのに攻撃を1度も当てられない。そして女騎士“なので”「くっ殺」願望のあるマゾヒストとして描かれている(笑) 彼女が加わる第3話からカズマたちの冒険はさらに混迷を極めていく。
{netabare}自分の弱点を予め伝えた初邂逅時点では「んーちょっとアクアめぐみんよりパンチが弱いかな」と思ったりもしたが、例え死の呪いをかけられても恍惚とした顔でハアハアと息を上げ「『呪いを解いて欲しくば俺の言うこと聞け』と言うのだな、よしバッチ来い!」なスタイルでゴリ押して来るので穿った見方も根負けしてしまった(笑) 終盤や2期1話の活躍もあって3人のヒロインの中では一番好みである。「ララティーナ」と呼ばれた時だけにめっちゃ怒るのも可愛い。{/netabare}
中の人である茅野愛衣さんの演技も素晴らしい。一見高潔な騎士なのでハスキーな声を演じるわけだがそれだけではない。ドMなダクネスの一面を最大限に表現するためにハスキーなまま「上ずった声を出す」という高等テクニックを聴かせてくれるのである。彼女が極まり自ら責め苦を受けに赴く時の「いってくりゅ!」という台詞には思わず吹き出してしまった(笑)
【総評】
これほど素晴らしいファンタジーギャグアニメは中々、お目にかかれないだろう。
トラックではなくトラクター、格好いい死ではなく無様な死、それらを笑った女神にチートを捨ててまで意趣返しを行い旅のお供にしてしまう主人公────従来のなろう系では考えられない荒唐無稽な展開の数々に視聴者の腹筋や表情筋は直ぐにやられてしまう。
チートを捨てたので俺TUEEEは行えない。むしろ「俺YOEEE」。貧弱な主人公が一芸だけに長ける仲間と協力し、なけなしの魔法やスキルで普通のクエストを苦労して達成したり失敗したりしていく。そんなうまくいかない日々が「ドタバタコメディ」としてクスクス、ゲラゲラと笑えるのだ。
レギュラーキャラは主人公以外は女性で固めて所謂「ハーレム」な状態。しかし全員が戦力としてもヒロインとしても「駄目だこいつ」と言わしめる残念系のおかげでハーレムな筈なのに一切ハーレムの雰囲気が出ていないというのもしっかりギャグとして成立させていて面白い。
声優演技も男女共に素晴らしい。主人公・カズマを演ずる「福島潤」は残念なヒロインの行動や言動に気持ちよくツッコミを入れ、時には男の子らしい欲望を下心たっぷりに演じあげていた。しっかり感情移入できる主人公に仕上がっているからこそ、淡白なやれやれ系な主人公にしている他のなろう系とは2倍も3倍も面白い作品となっている。
音楽もOPを声優兼歌手のMachicoが歌い上げて異世界を賛美し、EDはのどかなキャラソンでしんみりと締めており良好。また敢えて劇中の状況とミスマッチしたBGMを使って笑いを誘うのもギャグ作品ならではだろう。ドラクエのような壮大なファンファーレなのにお送りしているのはカズマたちの土木工事のダイジェストだったりするのでながら見もながら聴きするのも勿体無い作品だ(笑)
惜しむらくは低予算感漂う作画だが、ギャグアニメだからこそわざと崩しているのか本当にリソース不足で崩れてしまっているのかが素人目では解らないのがズルい(笑) 残念なヒロインに残念な作画、されど意外なセクシーシーンやフェチズム溢れる描写も見せてくれて、1人1人のキャラの可愛さもしっかりと感じることができる。{netabare}アクア様ノーパンなんですね。スカートも透けててお尻見えとるし、これで作画が良かったら話の内容が頭に入ってこないだろうなぁ笑{/netabare}
平坦な展開など殆ど無く4コママンガのように必ずオチが付き、アイキャッチをはさみつつ描かれる話はシンプルに面白く、クスクスと笑えて駄目なキャラクターたちに愛おしさすら感じさせてくれる。なろう嫌いであればあるほどこのコミカルな物語を楽しめる、そんな作品だ。
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