ブリキ男 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
電食系男子の青春(妄想込み)
押切蓮介先生原作の漫画「ハイスコアガール」アニメ化作品。※1全12話。
時代は90年代ゲーム黄金期、舞台は※2日本のとある町。ゲーム狂少年と浮世離れした佇まいのお嬢様の友情と恋を描いたアニメ。
ところで、皆さんはゲーセンと聞いてどんな場所を思い浮かべるでしょうか?
中高生の遊び場? ヲタクの溜まり場? ちびっ子がお父さんお母さんと来る所?
以下は全て体験談ですが(ネタバレじゃありませんが長いので畳んどきます)、{netabare} 当時(90年代)のゲーセンと言えば、日々の鬱憤や暴力的欲求を格ゲーやシューティングで発散したり、あるいは、より募らせたりしている中高生や^^;、まるで外来種に追いやられた土着の植物の様に隅っこの方で小さな花を咲かすレゲー台、そこで黙々と神業を披露し続ける大学生風の青年や、ジャーン! ケーン! ポン! ズコーッ! で御馴染み?の「ジャンケンマン」の突然変異体である脱衣野球拳を大人の貫禄たっぷりな堂々たる態度でプレイするアブラギッシュなおっちゃん、制服や原色豊かなボディコンドレスを身に纏ったケバめのキャラがあられもない姿を晒す、脱衣マージャンの画面を神妙な顔付きで睨め付けるじーさま等、年齢問わず、暴力とエロスに魅入られた男どもが群がる、華やかで危険な魅力たっぷりな、ヤニ臭さと騒音渦巻く刺激的な場所だったのでした。
危険と言えば、ゲーセンなる場所(繁華街や大通りから離れた場末のは特に)はリアルな暴力沙汰にも時たま遭遇するところでありまして、当時のゲーム仲間の間では、誰々がカツアゲされただの、殴られただのの噂が絶えなかった様に記憶しています。この記事をお読みの皆さんの中に、見ず知らずの少年達に「待てコラー」って怒鳴られながら追いかけられた経験をお持ちの方はいらっしゃるでしょうか? わたしは2回だけあります。今思い返してみると笑えますが、ホント凄い(怖い)体験でした(笑)
こんな風に綴りながら思い返してみると、ゲーセンとは、作中でえがかれている通り、塾通いのストレスでぶっ壊れそうな人や、家にも学校にも居場所の無いあぶれ者、暇も金も持て余してブラブラしてる人達の、ある意味隠れ家的な側面もある場所だったのかも知れません。わたしにも思い当たるフシがあれこれとあります(笑)
{/netabare}
で、思い出話はこの辺にして作品紹介に戻りますが、本作ハイスコアガールは、上記の様なゲーセンの雰囲気を程よく租借し、やや美化し、ファンタジー要素を多分に盛り込んだ青春ラブコメという趣の作品です。
設定のトンデモ感は否めませんが^^;キャラ達の感情表現については、ディフォルメ調のキャラデザに反して意外なほど細やかでリアル。小学生~高校生にかけての、少年少女の友情から恋愛感情へと至る心の変化が丁寧に描写されています。恋愛経験値ゼロ少年の、異性への表面上の無関心、先行きの不安感、一歩を踏み込む為に自立せんとする姿勢は、男子諸氏ならば覚えのある所ではないでしょうか?
ハルオの装う女の子との距離の取り方や躊躇い、甲斐性良しなところや、いざとなれば行動力有り!なところは、キャラの純朴さと相まって非常に好感が持てます。いやむしろ、中学生にして、もはや師匠の域(笑)同じ男として見習いたい!
既存設定(幼馴染やら何やら)や一目惚れに頼らない恋愛風景は、ラブコメ作品では珍しい部類に入ると思われますが(詳しく無いけど)色眼鏡を外すと、ハルオのやや年不相応の紳士振りは、見れば見るほど大人に近いものである事がわかります。
作中(原作)で、とあるキャラの台詞の中で語られていますが、ハルオの大野さんに抱く感情が恋慕から愛情ではなく、友情(愛情)から恋慕へと、自然の摂理とはほぼ逆に歩みを進めている事が、その印象を強くしているのだと思います。
タイトルとして採用させてもらった電食系男子という言葉は、言わずもがな草食系男子のもじりですが、これもハルオの紳士振りを強化する要素の一つでしょう。ゲームというバーチャルの世界で効率よく欲望を消化してしまっている人は、多分男女問わず、リアルの異性に対する関心が低いレベルに抑えられてしまっているのです(笑)
思春期の恋愛は止め処ない欲望と、恋に恋するという、あの浮かれた情熱が、相性バラバラの二人三脚でギッタンバッタン進行するもので、慎重さとは無縁になるきらいがありますが、ゲームに夢中で、その中であっちこっちの欲望を満たしている(多分性欲とかも^^)だろうハルオにはその熱狂がありません。ここら辺の事情については、あくまでも架空のお話という事で誇張表現が過ぎますが、ゲームよりも恋愛を優先する意義を見出せないハルオには恋愛が出来ないのだと思います。
私事ですが、わたしが人生の中で女の子とお近付きになれた時期は、偶然か必然か、決まって忙しい時で、受験勉強時や進級直後、就職活動や仕事であくせくしていて、※3ゲームやアニメから二歩くらい距離を置いていた時期と完全に一致しています(笑)
恋愛したい人は※4ゲームは一日1時間! くらいにした方がいいんでしょうね^^
愛あっての恋。大人にとっては至極当たり前の事だけれども、それは少年少女にとっても同じ様に大切にしなければならないもの。展開の意外性やスピード感の重視、痴情のもつれ、エロの安売りがお約束になっているラブコメというジャンルに一石を投じる、地に足の着いた恋愛を綴った貴重なお話でした。
以下はアニメ作品としての感想。
音楽について、ストⅡを始め、古くから多数のゲーム音楽を世に送りだして来た下村陽子さんが劇判を担当されているという事で、世界観との親和性はばっちり。OPの「New Stranger」もレゲー風味の音源や変速的なテンポが楽しく、聴いていて心躍りました。歌うのはsora tob sakanaというアイドルグループ。愛称はオサカナだそうです(笑)
作画については、トゥーンレンダリング採用の影響で、原作の素朴な雰囲気が大きく削られてしまった印象を受けてしまいました。加え、ゲーム慣れしている目だからでしょうか、ゲームキャラがゲームをプレイしている様な錯覚を度々起こしてしてしまい、絵に中々集中出来ませんでした。女子キャラの睫毛バサバサも漫画版では全然気にならなかったのですが、3次元風味や色彩が加わった事で、2次元的表現が変に際立ってしまい魅力を落としていた様に思います。
ゲームについて、著作権の関係上、原作では挙がっていた死霊戦線やセプテントリオン等のマイナーどころのゲーム名が殆ど別のゲーム名に挿げ替えられていたり省かれていたりで、ハルオのゲーキチ加減が薄味になってしまったのが少しだけ残念でした。取りあえずハルオ、重装騎兵ヴァルケンとアウターワールドはやっとけ!
最後に、アニメの完成度がどうであれ、艱難辛苦を乗り越えてアニメ化に漕ぎ付けたスタッフおよび押切先生の不屈の精神に拍手を送りたい!
押切先生、原作完結と※5アニメ2期決定、おめでとうございます!
余談、この作品に御興味を持たれた方、あるいは違和感(主に大野さんと日高さんの存在)を持たれた方には、同作者の※6ピコピコ少年シリーズもお薦めします。
2次元(ファンタジー)の入り口はこちら、3次元(リアル)の入り口はあちらです(笑)
※1:1期は原作漫画全10巻の内4巻終了まで。ROUND13~15は2019年3月20日に発売されたBlu-ray/DVD「EXTRA STAGE」に収録。以降は2019年10月から始まる2期で描かれる模様。
※2:溝口(川崎市高津区)が舞台らしい。わたしが子供時代に住んでいた町と文明レベルが似通っていたので、すんなり物語に入り込めました^^
※3:現在では女子も結構ゲームをプレイする様になっているので接点ありますし、こんな極端な話は無いと思います(笑)
※4:元祖ゲームアイドル"高橋名人"こと高橋利幸さんの有名な言葉。実はこの後には続きがあって「ゲームは1日1時間。外で遊ぼう元気良く。僕らの仕事はもちろん勉強。成績上がればゲームも楽しい。僕らは未来の社会人」が本来の形。いずれにしても子供には酷ッ!!
※5:無印、TURBO、SUPERの3冊が単行本化してます。現在「Ohta Web Comic」にて「ピコピコ少年EX」が連載中です。「猫背を伸ばして」も合わせてどーぞ。