らしたー さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「自分らしさ探し」は描かれていたのか。
原作まったくしりません、とイイワケしつつ。
家族にも友人にも才能にも恵まれ、好きなことやって食っていけてる幸せな23歳の若者が、旅先でめっちゃ良い人たちと巡りあうという僥倖のもと、「自分らしさ」について悩んでみますっていう物語ですよね。すげえ悪意のある言い方だけども、概ね間違っちゃいないはず。
こんな浮世離れした物語に、けっこうな数の人たちが共感をおぼえたという事実が、どうしても信じられずにいる。
どんな失敗を犯そうが、謝罪もせずに反省の旅に出るなんてまずもって論外だし、そんなことしたら本当に自分の席なくなるし、どんなお花畑な設定だよと、いささか醒めた目で眺めつつ、自分と同じスタンスで視聴してる人も多いだろうなーと固く信じていたわけですけれども。
というより、このアニメを観始めて、真っ先に断頭台の露と消えたのが「感情移入」という選択肢であり、後述させていただくけども、率直に言って、「自分らしさ探し」の物語としては、テーマ不明瞭というほかないと思っている。
*
この手の設定お花畑な物語がいかに自分にフックしないかは経験上知っているので、個人的な好き嫌いでいくと「嫌い、以上」で話が終わってしまう。
それだとあまりにも非建設的なチラ裏話になってしまうので、嫌いなりにどうして最後まで観れたのか、という点からこのアニメの良さを考えてみると、やっぱりというか、所詮というか、「島」というキーワードが醸し出すファンタジー性への憧れしかない。
これ、体裁としては登場人物たちの日常を綴ったものがメインだけれど、対視聴者という意味では、島の生活というものを通して、非日常への憧れをぐいぐい刺激する系の、まさに王道の作りでしょう。
なるの声の演技はたしかによかった。ベタついたばっちい手で無邪気にペタペタさわってくるような、あの子供特有の鬱陶しくも可愛らしい距離感の表現は、おそらく最高峰といっていい。遠慮なしの方言でぐいぐいくるあたり含め、たいへん強力な飛び道具であった。
けれども、それもこれも全部、「島の生活」「島の人たち」という、多くの視聴者にとっての非日常世界へと誘うためのアイテムとしてのみ機能している点は言及しないわけにはいかない。
もし、なるをはじめ、島の人たちから方言という武器を奪ってしまったら、はたしてこのアニメの魅力はどこまで減殺されてしまうのだろうという不安、危うさも感じずにはいられないわけです。
島生活ファンタジーとしての丁寧さ、芸の細かさにおいては文句のつけようもなく、そこを作品のコアと見る限りにおいては、超がつく良作なんだと思う。
逆に言うと、そこが圧倒的なまでに武器でありコアであるがゆえに、極端な話、主人公の自分らしさ探し云々とか途中からどうでもよく思えた。仮にそのくだりがすっぽり抜け落ちても、たぶん私の中では評価の上下は起こらないし、さらに言うならば、自分らしさ探しがどうのは、お世辞にも真面目に取り組んだテーマとは思えなかった。
で、冒頭の続き。
ゴッホと大喧嘩してタヒチに引っ越したゴーギャンのごとく、とまでは言うつもりもないけれど、私にはどうしても、主人公にとっての島の存在に、「芸術家のインスピレーションを刺激する対象」という位置づけ以上の価値を見出すことができなかった。そもそもが、書による出世を捨ててなお島と共に生きるんだって話でもないわけですよねこれ。
その段階でもって「自分らしいって何だろう?」がテーマですってのは、なんかすごい違和感がある。
かといって、書道家先生が「自分らしい書」を確立するお話なのかってーと、たしかに一瞬腑に落ちるんだけども、それはそれで絶対にありえない。
だって、芸術家が島の生活からインスピレーションを得るだけのお話だったら、多くの人が「共感」なんてできるわけないんだから。世の中芸術家ばかりじゃないもん。もっと万人に理解できる、普遍的な自分らしさ探しの話であるはずなんでしょうさ、きっと。
であるならば、だ。
18歳の新人書道家しかり、今まさに就職で島を離れるかどうかを考えてる金髪クンしかり、島では圧倒的に理解されないであろう腐女子ちゃんしかり、「自分らしさ探し」というテーマに普遍性を持たせる上で格好の人物がわんさといるのに、まったく彼らにテーマをクロスさせてないのはどう受け取ればいいのか。
この作品世界において、「自分らしさ」を探しているのは主人公だけなのか。
なわけねーべ。
なんていうか、どっちに解釈しても、「自分らしさ探し」で掘っていく限り、気持ち悪いところをグルグルしてしまうのね。
いあべつに作品批判とかじゃなく、実際、島ファンタジーとしてはすげえ楽しめたし、何より最後まで見続けたわけだし、文句はないの、全然。でも、良くも悪くも「それだけ」じゃない?っていう。
こういうほっこりテイストの作品って、なぜだかネガティブ意見は受け付けませんオーラみたいのがギンギン出てて、無意識のうちに評価もほっこりしちゃう傾向にある気がするのだけど、私が知りたいのは、この作品がはたして「自分らしさ探し」を描けていたか(描いていたか)という点。
私自身はある意味そういう物差しで観ることに価値ナシと途中で断定しちゃったクチなので、ちゃんと最後までその視点で観続けた人が、いったいどこにカタルシスを得たのかというのをね、教えてほしいなと。