takato さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
墨絵を思わせる、世界と人間のあわいの物語。
本作は人間中心の物語ではない。故に劇的な愛憎の悲劇や感動から距離がある。本当における人間は世界の中心ではなく、世界の周辺の小さな一部であり、水墨画における点景的な人物に近い。
本作が妖怪ではなく、蟲の物語であるのもその辺に由来すると思われる。妖怪では人間に近い意識的な存在だが、蟲に意識を見る人間はいない。世界と同じように、それは善悪ではなくそういうものであるに過ぎない。
本作での人々は業が深い存在でも、運命に翻弄される悲劇的な存在でもない。彼等はただ出逢ってしまっただけであり、彼等の救済も破滅もそうなってしまった…というだけのことである。
大自然や世界に対して人間はそんな風に受け入れるしかなかった時代の匂いが本作には漂っている。
故に本作は2クールもあるが薄味である。しかし、それが本作の魅力でもある。薄味だからこそスルスルと自然に話を次々に追っていけるし、どこから見初めても面白い。薄味でもしっかり出汁がひけているから一話一話が軽すぎ重すぎもせず、ゆったりと楽しみ続けられる。
薄味を履き違えて味がないような日常系などは、退屈すぎてかえってストレスになる。ストレスなく見させるには、ストレス?な要素を削るのではなく、軽みと重味を上手くバランスをとる高度な技術がいるものだ。
本作の主人公のギンコが似合うのは、決して人里ではない。彼は、静寂に満ちた森や雪原を独り行くのが相応しい。本作はそんな孤高の静かな充実がある。