nyaro さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
名作とされていますが、私はそうでもない気がします。
「エースをねらえ」がスポコンの名作なのは、宗方と岡ひろみの師弟愛と岡の想像を絶する練習の果てに高みを目指すところです。その努力はスポーツのみならずあらゆる分野に普遍的にある、女性の努力の大変さを上手く表現していました。
私は原作の大ファンで何回読んだかわかりません。そして、劇場版エースをねらえ!は出崎演出の最高峰として様々なところで高い評価を受けて名作とされている…様です。
そう「様です」としか言いようがないです。正直申し上げて、ストーリーそのものは物足りません。お蝶夫人との関係性だけで物語が終わってしまっています。
ですが、劇場版としては上手くエピソードを拾って自然な形で再構成したと言えると思います。ラストも分かりやすく、岡を送り出し「岡、エースをねらえ」という名文句が非常に感動的な画面で描かれます。
が、最も大切な要素である「女であることの弱さを越えろ」というテーマが映画では単に宗方の「母に似ているから」に置き換わっています。そこから続いて「母のようになってほしくなくて、岡に強くなってほしい」と言います。いや、これは駄目でしょう。
原作では、母の女としての弱さ=女として生まれてきた弱さ、それを岡、お蝶夫人、緑川蘭子の3人に対して、宗方はそれを越えて欲しいと願います。そして、岡は男子以上の練習を重ねることでコーチについて行きます。ニュアンスが伝わらないかもしれませんが、原作は岡に母を重ねていません。女の弱さという共通項を見ているだけです。
その師弟愛が胸を打つのですが、劇場版は「女の弱さ」を越えて欲しいではなく「母の弱さ」に似て欲しくないとそこが何か矮小化されている気がします。
原作の一番の感動ポイントが後輩の1年生男子と岡が試合をして、その後輩男子にボロ負けするのですが、その後輩が「負けたと思わないでほしい、あなたが男なら負けていたのは自分だ」と言います。そして岡の練習量の結果に皆が驚きます。
ですが、岡は男に勝てない自分は駄目だ、もっと練習しなきゃといい、更に厳しい練習を積み重ねます。それこそがスポコンであり、類似例を出すと「響け!ユーフォニアム」に感動したのが、才能じゃなくて練習量と続けようという気持ちに帰結するからです。
(ちなみに原作でも完全に努力だけと言うだけではなく、岡には練習を続けられる才能があって、また型破りという曖昧な言葉でいってますが、身体的なポテンシャルはあったような感じですけど)
原作を読んでいて、映画を見ればテレビ版(ほんの一部しか見たことないですが)よりも、良い絵で見せてくれるのである程度満足はあります。そして、先ほど言った「母」の解釈以外は、まあ良くまとめたとは思います。
結論として映画だけ見て本作が名作と言うのはちょっと言い過ぎな気がします。プロのクリエータの方や演劇等創作に関わる人がみると、出崎演出に見るべきものがあるかもしれませんが、素人から見るとそれほど満足度は高くないし「母に似ている」で脱力してしまいました。
ということで、私には出崎演出の良さがどこまでわかっているかは心もとないですが、演出に詳しい方にはいいかもしれません。そこに興味がある方以外には、映画はお勧めしません。ただし、原作はお勧めですし原作を読んで、動く岡ひろみが見たい方には良いと思います。