なばてあ さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
フレーミングの光束
原作未読。長文注意。
作品のグランドデザインはすばらしい。そして、プロット含むディテールはたいへんすばらしい。ケチをつけられるところがほとんど無かった。アニメもたくさん数を見てくると、だんだんあら探しに近い目線をキャンセルしづらくなってくる。あにこれなんてものに手を染めているといっそう。でも、そんな野暮な自分がイヤになるくらいスキになれる作品だった。
褒める点を挙げだすとキリが無い。アインクラッド編は世評のとおりバツグンすぎる。俺TUEEEや主人公補正はきょうび扱いがむずかしい属性なのに、コンプレックスやトラウマを適切に絡めて、キリトのヒーローたる魅力に自然な質量を与えている。やはり主人公は大事なのだと、それに失敗し続けている『{netabare}禁書目録{/netabare}』を思い出しながら再確認する。
フェアリィ・ダンス編はたしかに地味ではあるけれど、リーファの存在が物語を上滑りさせない。ふたつの異なるゲームをひとりのヒーローがプレイするという設定自体が巧みすぎる。ストーリィとしてもSAOの補助線となるアスナとは全然ちがうリーファがALOの補助線なので、アニメとして別作品のようなたたずまい。
有り体に図式化するとSAOは活劇でALOは恋愛がテーマのように思えた。25話の長丁場、視聴者を飽きさせず、一気にエンディングまで引きずり回すような力強さがあるけれど、この引力はどこまでも緻密で冷徹な計算によって生成されている。和人の「身の上」設定などはその最たるモノ。ストーリィ・テリングのお手本かのようなさりげないスキのなさ。
このさりげなさが、キーワードのような気がする。『{netabare}禁書目録{/netabare}』や『{netabare}Fate/stay night{/netabare}』など「異能力活劇」モノでよく見られるのは魔術だの科学だの召喚だの、世界観のキーとなる設定にかんする熱のこもった説明ゼリフやそれをひたすらなぞる展開。けれどもこの作品はそこがさりげない。最初に触れたっきり、あとは前景から後景へとスッと下がる。
SAOにせよALOにせよ、あんなにおいしい「装置」なのに、それをほとんど日常のように世界になじませたあとで、そうした特殊な設定に依存しないドラマを丁寧に展開する。ファンタジー的な説明はあくまで肩の力をぬいて、素知らぬ風でスルッと織り込んでもらえるので、視聴者はドラマに自然とのめり込んでいける。これはオトナなパッケージングだと思う。
作画も2012年当時のレベルとしてはもはやケチのつけようがないだろう。バトルシーンも日常芝居もキャラ似せもエフェクトもしっかり見応えがある。ストーリィがすばらしすぎて作画を堪能する余裕が作れないというのは、作画ヲタに課せられた呪いなので仕方が無い。でも第9話の菊田さんの作画と22話の長井さんのコンテは、すばらしすぎて目立ちまくっていたけど。
美術もすばらしい。ふたつの異なるゲームの背景を様々な要素を組み合わせてちゃんとオリジナルっぽく見せている。つぎつぎと新たな場面を出していかなくちゃいけないから、かなりのカロリーだったはずだけれど、最後まで画面は緻密なまま。日常編の背景もまったく手を抜かず、空で飛ばすこともなく、描きこまれていて安心できる。
音楽もすごい。梶浦音楽だけど『{netabare}Fate{/netabare}』や『{netabare}まどマギ{/netabare}』のようなコッテリ重めではなくアッサリ軽め、だけれど、それがこの作品にはあっている。この作品の良さは、肩の力の抜けた、けれども微に入り細を穿つプランで構築された良質なドラマ。ヘビー級のインパクトをたたみかける他のふたつのシリーズとはやっぱり、ちがう。
演技は言わずもがな。キリト役の松岡さんは『{netabare}冴えカノ{/netabare}』などとは打って変わった「ふつー」のトーンで、控えめな声色。「流しめ」の演技でも、松岡さん一流の大排気量のエンジンの「流しめ」なので、クルージングの安定感と爽快感は段違い。25話聴き続けると、すこし飽きるかもだけれど、でも、それは難癖もいいところだろう、きっと。
ただそれよりも、わたしはリーファ役の竹達さんの演技にやられてしまった。あれはずるい。CVはぜんぜんちがうけど、キャラ的に『{netabare}なぎあす{/netabare}』を思い出させる。22話ラストの彼女は神がかっている。なんという解像度で、なんという湿度なんだろう。キャラデザもすごい。原作イラストの繊細さを保ったまま、よく動かせている。
・・・まあ、そんな感じで、ケチのつけようがない。いままで食わず嫌いをしていて、正直スマンかったとしか。でも「食わず嫌い」されやすい作品でもあるような気がする。それは「いかにも萌えキャラの深夜アニメ」感が強いからだろう。アニプレっぽいグッズ展開の派手さもその「敬遠されやすさ」に輪をかけている気がする。そのへんは、またちょっと考えてみたい。
最後に。
虚構と現実を分けたうえで、「虚構でどんだけ頑張っていても、それは逃げでしかない、やっぱり現実に戻って、そこで生身の身体で生身の関係を築いて頑張ることが大事なんだよ」みたいな陳腐極まりない阿呆みたいな結論に落とすダメなアニメが多いなか、ちゃんと「虚構の意義」を掬いあげてくれる作品はやっぱり貴重きわまりない。
だからわたしは、最大級の賛辞を送るのだと思う。
衝撃:★★★
独創:★★★★☆
洗練:★★★★★
機微:★★★★
余韻:★★☆
7