レトスぺマン さんの感想・評価
3.6
物語 : 3.5
作画 : 2.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
衛星アニメ劇場放送の隠れた良作
長文かつネタバレ多めであるため本文はネタバレタグで隠します。
{netabare}
90年代後半のNHKBS2にて放送される「衛星アニメ劇場」はNHKの中でも人気があった番組である。
その中でもカードキャプターさくらや過去作の放送といったラインナップは特に人気を放つものであったが、本作「プリンセスナイン」はオリジナル作品であるが故、そういったメジャー作品の影に隠れているようにも見え、知名度としてもマイナーの極致とはいわないまでも知る人は少ない現状だ。しかし、友人の勧めもあり実際に視聴してみたのだがこれがなかなか面白かったのである。
第一に、本作は【女子野球部】を題材にしているから、未視聴であってもこの時点でスポ根物語が展開される流れを想像するに容易い。
しかし、本作がただのスポ根ものではないといえるのは、弱いチームが能力的に強くなっていく過程よりも、もともと強い能力を持つ者が一堂に会し、そこで衝突がありつつも、だんだんとチームワークが深まっていく部分の方がクローズアップされたことではないだろうか?
そこで重要となってくるのが本作における「恋愛」の要素であり、これによって女の子特有の「か弱さ」と「危うい面」が露呈されていく。それによって能力的に高いからこそのキャラクターの意外な部分を見たときに、一気にそこへの好感度が上がる仕組みになっていくわけだ。
だから、本作はスポ根物語として燃える展開があるのと同時に、キャラクターの心情も読み取っていく必要がある点においては少女漫画にも近い側面がある。つまり、スポ根物語をあまり見たことがない人でも少女漫画的な作品に親しみがあれば、不思議とスラスラ見れてしまう良さがあるのではないか。そして、オーケストラをメインとしたBGMの数々はより強い演出となって作品を引き付けてくれる素晴らしいものであったことも印象深い。
次に、キャラクターの良さについてもう少し深堀していこう。
まず、本作に登場する女子キャラクターは、能力的においてもセリフの観点からしても男性より強いキャラクターが多い。確かに、この点だけを見ると登場するキャラクターに好感を持ちづらいと思えてしまうかもしれない。しかし、ここでもしっかりと好感度を上げるものとして個々のキャラクターの「生来の育ちの良さ」が表現されていることは個人的に強く印象に残るものとなった。
まず、主人公の涼は下町の商店街にありそうな古いおでん屋さんの娘であり、あまり裕福とは言えない家庭で育っている。しかし裕福ではなくとも母親の深い愛情を受けて育っているからこその健気な明るさに何度も救われる部分があり、これは「育ちが良い」ことに含まれるのではないかと思える。
そして、涼以外の仲間においてもほとんどは実家がお屋敷のような建物であることに加え、大阪出身のヒカルに関しては親からの電話で「お見合いの話」が来ていることと、
沖縄出身の陽湖も東京に出てきて長期に渡ってオーディションを受ける余裕があることから、実家の様子が映らずとも出てくる女子キャラクターのすべてが比較的上級の家庭で育ってきていることがわかる。
だからこそ、そういった家庭で育ったとは思えないような強さやセリフを見たときに、視聴者としては「なぜそうなってしまったのか?」と気が気でなくなってしまうわけだ。
この原因や答えを物語道中でどんどん見せていき、これは上述の恋愛部分やキャラクター自身のトラウマとミックスさせることによって、キャラクターへの感情移入がより深まる見方ができたことは、本作視聴における一番の収穫だったと思う。
次に、キャラクター同士における「コミュニケーションの多さ」も特筆するべき点だろう。本作は女子野球部の話だけあって練習や試合のシーンも多いことが特徴だ。ただし、作画面におけるスポーツ描写に関していえば、ハイクラスの躍動感・爽快感があるアニメーションとは言えず、この動きではなんとなくもの足りないと思えてしまう評視聴者もいるのではないかと個人的には感じてしまった。
しかし、このスポーツ描写が足りないことを埋め合わせている、と言い切ってしまうのは違うのかもしれないが、とにかく本作は試合中のセリフの数が多いのである。
これは試合中にそれぞれのキャラクターがどういったことを頭の中で考えているかがわかりやすいものであり、動きの描写に足りないものがあってもそれを補完できてしまう良さがあったわけだ。むしろ、このコミュニケーションを見ることが試合の楽しみになっていたことに加え、試合中のケンカやお色気作戦といったものは一種のお笑いとして昇華されていることにも通じる面白さがある。
最後に、男・女キャラの明確な違いや双方の思いの伝わりづらさが表現できていたことも挙げたい。本作は、恋愛描写があることに加えて、女性より弱い立場となる男性キャラも魅力的だった。中でも学園中のスーパースターである高杉君に関しては能力にしても女性の扱いにしても現実ではありえないほどの天才であったが、天才であるが故の優柔不断さやある種の鈍感さにより、彼によって女子の関係をギクシャクさせてしまう展開は大変スリルがあるものだ。ただしこれにより、高杉君の許嫁でもあったいずみの不憫さが目立ってしまったことは実に惜しい部分である。
逆に、涼の幼馴染である誠四郎君や、飲んだくれの木戸監督にはまともな考えがあるキャラだからこそ、この作品の癒しともいえる存在であったと感じるぐらいだ。
そして、いずみの母親でもあり、学園理事長でもある桂子は本作の女性キャラの強さそのものを表しているといえそうだが、学園の改革や高野連加盟といった事案をありとあらゆる手段を使い、もはや策士とも呼べるレベルで実行する様は男を辟易させる怖さもある。
このような形で、男性が女性を振り回したり、あるいはその逆の描写が多いのも本作の特徴ではあるのだが、最後の試合で告白が行われたことを考えるに、男・女キャラそれぞれに思いがだんだんと伝わっていく過程を全体的に捉えながら明示しているとも言え、これはこれで作品の醍醐味とも呼べる部分ともいえるのではないかと思えたことは大きかった。
上述した通り、本作は女子野球の話であるため最初はどういう物語となるのかがスポ根以外見当がつかなかったが、蓋を開けてみれば、キャラクターの心情を読み取っていくような流れがあり、キャラクター中心で動いていく物語は見ていてとても楽しい。ただ、本作の最も惜しい点はここまで面白い物語を展開しても、最後の試合で敗北し、明らかに打ち切りとわかってしまう物語の終わり方をしてしまったことだろう。
しかし、敗北で終わったからこそ優勝まで続けてくれるのではないか、という期待感を持たせてくれたのは事実であり、続編が作られずとも自分の妄想で後のストーリーを考えてしまうくらいのインパクトはあったわけだ。だからこそ、本作に対しては評論にありがちな作品に対する分析欲求よりも、久々に作品やキャラクターへの愛情の方が勝るような見方をさせてくれたことに対し評価をしたいと思えたのであった。
{/netabare}
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